おがた あきこ:薫事長、OISHIエンジニアリング㈱代表取締役 神奈川県川崎市出身。留学経験後、日本と海外の文化や交流に興味をもち、旅行専門卸業勤務を経て、中小企業向け業務システム会社を立ち上げ。中国浙江省・杭州市にて業務経験ゼロから金型メーカーを事業承継。日本では金型商社事業と工業・農業系地方創生・海外ビジネス交流事業も手がける。
中国国家統計局のデータによると、就業人口における製造業就業者の割合は、ピークの2007 年で約30 %、その後は製造業の改革や人件費上昇などの要因から減少し続けており、2024 年には14.2 %となっています。今後も製造業就業者は、業界の高度化やロボット導入により、さらに減少すると予測されています。
金型業界においては、金型技術人材が30~50 万人不足していると言われており、中国工業情報化部の金型の革新行動計画政策の中では2027 年までに50 万第 15 回金型人材の不足とデジタル化人の「数字模具工匠※」を育成・輩出する必要があると明言されています。
※ 数字模具工匠:デジタル時代の金型技術人材。3D プリントやデジタルツインなどのデジタル技術により、従来の金型設計や製造を最適化する複合型技術者を意味する。
デジタル技術と職人技の融合
国家級プロジェクトとして数字模具工匠を育成する「金型実習基地」は、主に金型産業集積地にある職業学校や金型研究機関内に設置されています。優秀な学生や金型関連教育機関の教師、地元金型企業から推薦された従業員など、一定の条件をクリアした人材が実習を通じて高度な技術を学ぶ場所です。
3 年程度の実習期間でNC オペレーターや金型組立工程、CAD(UG ソフトウェア)の操作などを習得、そのまま即戦力として活躍できるレベルに育て上げています。この実習を受けた人材の就職率は95 %以上を誇っています。プロジェクトエンジニアや金型設計などワンランク上へと進みたい場合は、さらに2 年程度の実習を受けることが可能で、CSWP 認定とMoldfl ow 認定の取得を必修としています。さらに、専門の上級エンジニアや技術コンサルタントを目指すことも可能です。
この実習基地は、高度な職人技を継承するだけでなく、デジタル技術と従来型の職人技を融合させ、現場で必要とされる技術をアップデートしたり新技術で壁を突破させたりすることを目指して、新しい時代の人材を育成する場所です。実際に実習基地で学んだ生徒たちが、チタン合金鍛造金型やマイクロ流体チップ金型など難易度の高い金型の製造や最適化に成功し、中国の最先端技術発展に貢献しているそうです。
2025 年末時点で国家級金型実習基地(図1)は中国に3 カ所、中国金型工業協会が認定している金型実習施設は130 カ所以上あります。
図1 国家級金型実習基地の一つである杭州科技職業技術学院内の新製造研修学院
新たな就業者・ロボット
金型技術人材の不足(労働力不足)については、ロボットの活用も期待されています。2025 年12 月末に行われたロボット産業発展協会の年末イベントで、「ロボットを育成する学校」の設立が発表されました(図2)。ロボット開発人材を育てるのではなく、各社で製造されたロボットを、家庭コース・産業コース・介護コースなどでクラス分けして、コースごとに最適化されたロボットを集中して教育する学校です。
図2 ロボット育成学校が発表されたロボット産業発展協会イベント
ロボットは、歩く・立ち上がる・腕を動かすなど基本的な運動能力や思考力は共通して備えています。しかし、家庭内で求められる動作と工場内で求められる動作はまったく異なりますし、家庭内でもマンションと別荘では行動範囲が異なります。そこで、基本動作ができるロボットたちに各場面に応じた判断力や追加動作を学ばせる場を設立し、「学校」と名づけたということです。
入学当時にもっている能力や、入学後の学習能力、卒業後の進路に合わせて「飛び級」や「学期短縮」も認められます。多様なロボットニーズにスピーディに対応できると、会場で大きな注目を集めていました。
金型企業のデジタル化レベル
ロボットを正しく安全に動かすために、人の経験値ではなく、ロボットに理解できる言葉(デジタルデータ)が必要となり、その元データを正しく取得するには、業務の標準化が必要になります。例えば、ERPシステムで情報を一元化し、分析部門もあって新事業に役立てている金型企業もあれば、見積書・顧客情報・図面などをパソコンで作成・管理する電子化にとどめている企業もあります。多くはデジタル化に特化した専門の部署を置いておらず、蓄積データの保管や分析・評価、データを活用した最適化やリスク分析などは、一部の管理層が個々に対応しているようです。
金型企業のデジタル化は、既存ソフトウェアを使った効率化やデータ記録に重点が置かれていて、企業各社で技術開発や設計最適化などの業務において積極的にデジタルやAI を取り入れている事例は一部大手企業に限られています。
人材不足・製造現場の声
「工作機機のオペレーターは簡単に見つかるけど、数年前と同じ給料で雇える人材の質が低下していて、増員を迷っちゃうんだよね」─こんな正直な声が、現場からは多く聞かれます。単純なオペレーターをNC データ作成ができるように社内外で教育したり、設計者を打合せに同行させたりするなど、経験を積ませて育てていくという文化があまり根づいていなかった中国では、一般には即戦力が好まれる傾向にあります。そのため、1 人でNC データが作成でき、かつ工作機械も操作できて、現場の整理整頓を行うなど良い仕事習慣も備えた即戦力が必要、などといった具体的な要望が出やすく、該当する人材が足りないという話につながります。
また、単独で金型設計ができる人材や、高効率で加工する方法を熟知したエンジニアの不足も話題に上がります。実際問題として、例えば「不良率を5 %下げられる金型を製作する」というような課題を解決できる経験値があり、責任感のあるエンジニアを探すのは非常に困難で、引き抜きなどを含めて奪い合っているのが現状です。
社内で地道に人材育成を行ってきた企業では、エンジニアとして有能であっても管理業務を好まない、工場内の高学歴化したホワイトカラーとエンジニアで軋轢が生まれるなど、新たな課題も表面化しています。