型技術 連載「外国人材から一目置かれるコミュ力養成講座」
2025.07.30
第14回 一目置かれる日本人になる
ロジカル・エンジニアリング 小田 淳
おだ あつし:元ソニーのプロジェクタなどの機構設計者。退職後は自社オリジナル製品化の支援と、中国駐在経験から中国モノづくりを支援する。「日経ものづくり」へコラム執筆、『中国工場トラブル回避術』(日経BP)を出版。研修、執筆、コンサルタントを行う。
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筆者は、2009 ~ 2014 年に中国に駐在していた。赴任当初は家電量販店に日本製品が多く並んでいたが、それは徐々になくなり帰任する頃には中国製品に置き換わっていた。中国メーカーとのコスト競争に負けた日本メーカーは、事業撤退したり中国企業に吸収されたりしていった。
このような時期においても、日本メーカーとその製品は依然として中国人に人気は高かったが、一方で中国人と一緒に仕事をする日本人は決してそれに値する存在ではないと筆者は感じていた。その理由は、日本人の中国人に対する立ち振る舞いにあった。
「上から目線」の日本人
中国の技術力がまだ低く、多くの日本メーカーが中国に進出していた頃は、日系企業の日本人や日本メーカーの社員が、中国人や中国の部品メーカーに対して技術指導やアドバイスをする場合が多かった。そのためか、中国人に対して多少の上から目線になってしまうのは無理もなかった。しかし、現代は技術力に大差はなくなり、むしろ教わる面があるほどで、上から目線はあり得ない時代になっている。そのような現状で、中国人をひとくくりにして「あいつら」と言うような態度はあってはならない。それが、中国人との仕事にも表れるのだ。
同僚だった中国人の友人がドイツ系企業に転職した。転職して5 年ほど経過した頃、筆者はこの友人に「(以前に一緒に働いた)日系企業の日本人と、(今の)ドイツ系企業のドイツ人の違いは何ですか?」とメールで質問した。その回答(図1)を要約すると、「日系企業の日本人はドイツ系企業のドイツ人より、中国人を軽視している」という内容だった。温和でネガティブな発言はいっさいしなかった友人の回答であっただけに、筆者は大きなショックを受けたのだった。
図1 「日系企業の日本人と、ドイツ系企業のドイツ人の違いは何ですか?」の回答
中国人は「お手伝い」
これは、中国にある大手日系メーカーの話である。この企業は、同業の中国メーカーを吸収合併した。筆者の友人はこの日系メーカーの工場長であったため、合併後に多くの中国人が彼の部下になった。合併後しばらくして、友人は私に「日系メーカーの中国人(友人の部下)と、元中国メーカーの中国人のどちらがよく仕事ができると思いますか?」と質問してきた。日系企業で日本のスキルを身につけた中国人の方が優秀と普通は思うので、筆者は「日系企業の中国人」と答えた。しかし、彼の答えは「中国企業の中国人」だったのだ。
中国にある日系企業では、一緒に仕事をする中国人を日本人の手伝いをする社員として扱う日本人がいる。そうなると、中国人は自分の判断で仕事が進められず、モチベーションが下がり責任感もなくなる。結果として、仕事がいやになり転職してしまう。中国人は、日本人の手伝いをするために日系企業に入ったり、日本に来て就職したりするのではないのだ。中国に日系企業をもつ日本本社の悩みに、「(中国の日系企業の)中国人が、自分で考えて自立して仕事をしてくれない」というものが多い。だが、その原因は実は日本人にあるのを知るべきだ。
そもそも、すじ、べき論
図2 は、筆者が中国人の友人に「日本人の良いところと悪いところを教えてください」とメールで質問したときの回答だ。前半の1)~ 5)は、良いところだ。後半の1)~ 5)は悪いところで、それらはすべて「そもそも、すじ、べき論」になっていて、前例を重視する日本人がよく使う言葉である。しかしこれは中国人にはまったく理解されず、中国人はむしろそれを弊害と捉えている。中国人は、目の前にある現状から今できる最も適切な対応を即座に判断して仕事を進め、前例にとらわれたりしないからだ。イノベーションの生まれにくい日本と、次から次へと生まれる中国を比較すると、「弊害」はあたっている。
図2 「日本人の良いところと悪いところを教えてください」の回答
雑談して意気込みを伝える
日本人は群れやすい。日系企業では日本人だけで昼食をとったり、退社後に日本人だけで食事に行ったりするのはよくある。しかし、これでは日系企業が外国人社会に溶け込みたいという意気込みや、日本企業に就職する外国人に日本企業に溶け込んでほしいという意気込みは感じられない。外国人と仕事以外で雑談したり、一緒に食事をしたりするのは重要だ。雑談は、日本人の意気込みを伝えるのが目的なのだ。中国人との雑談では、中国語で話してみると、その意気込みはより強く伝わる。しかし、仕事の話はわかりやすい日本語で話すか、もしくは日本語通訳を介する必要がある。わかりやすい日本語で話す方法は、この連載の第6 回、第7 回を参考にしてほしい。
重要な英語力
ある程度日本語ができる中国人は、その日本語以上に英語ができる人が多い。その英語力と比較して、日本人の英語力が低すぎるため、それに驚く中国人は多い。海外で仕事をしたり日本で外国人と一緒に働いたりするのが当たり前の現代では、今の日本人の平均的な英語力で満足な仕事ができるとはとうてい言えない。近い将来、母国語レベルで英語を話すインド人と一緒に仕事をすることになるだろう。英語が公用語となり、日本語通訳はおそらくいない。かなり厳しい状況が、目前に迫っている。
アフターフォロー
仕事においてアフターフォローは重要だ。その理由は、外国人とはお互いに国民性や価値観が違うため、仕事を外国人に依頼したとしても、依頼した日本人の意思とはやや違う方向で仕事が進む場合があるからだ。あとから、「こんなはずじゃなかった」とならないように、仕事を依頼した後にこまめなアフターフォローをするのを忘れないでほしい。「どう? 進んでる?」などのアフターフォローは、外国人との雑談にもつながる。一石二鳥なのだ。