型技術 連載「外国人材から一目置かれるコミュ力養成講座」
2025.07.03
第13回 言ったことを「やってくれない」、「違うことをする」ときの対処法
ロジカル・エンジニアリング 小田 淳
おだ あつし:代表。元ソニーのプロジェクタなどの機構設計者。退職後は自社オリジナル製品化の支援と、中国駐在経験から中国モノづくりを支援する。「日経ものづくり」へコラム執筆、『中国工場トラブル回避術』(日経BP)を出版。研修、執筆、コンサルタントを行う。
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中国人と仕事をしていて、「確かに伝えたのに、やってくれない」や「『わかった』と言ったのに、違うことをする」と思った経験はないだろうか。これらの原因は、「言葉や言い方の問題で依頼した内容が中国人に理解されていない(第6~9回の連載を参照)」にもあるが、それ以外に中国人の国民性にもある。今回はそれを解説する。
接点の少ない、中国人の仕事の仕方
日本では、例えば上司が部下に仕事を頼んだり、窓口担当者が実担当者に仕事を依頼したりすれば、彼らは「お願いした○○は進んでいますか?」とか「今、こんな感じで進んでいますが大丈夫ですか?」など、お互いに会話で進捗を確認し合う。つまり、“報連相”によって頻度良い接点をもつのだ。しかし、中国人同士はこの接点が非常に少ない。筆者は、直接中国人から「私たちは、お互いにあまり関わらないで仕事するので、注意してください」と言われたことさえある。
仕事を依頼する日本人は、中国メーカーの窓口担当者に要件を伝えれば、窓口担当者がその内容を担当者との会議や話し合いでうまく情報共有してくれているだろうと思っている。しかし実際は、窓口担当者から実担当者にメールが1 回送られているだけの場合もある。接点が1 回だけで頻度が少なく、さらに会話という太い接点ではなくメールだけの細い接点なのである(図1)。依頼する側にとっては、実担当者にメールを送るだけなら「(日本語→中国語の翻訳は必要だが)私が実担当者をCC に入れてメールしても同じだ」と思うときさえある。
図1 仕事の接点が多く太い日本人と、少なく細い中国人
治具の確認で部品メーカーを訪問したら、イラストしかなかった
筆者は、中国の部品メーカーに治具の作製を依頼した。日本語上手な設計リーダーに仕様を伝え、1 カ月後に訪問し出来上がった治具を確認することになった。筆者は、訪問前日に設計リーダーに電話をして「明日訪問しますが、治具はできていますか?」と聞いた。近くに治具担当者がいたのだろうか、設計リーダーは電話越しに大声で会話した後、「問題ない、できている、明日確認できる」と筆者に言った。
車で2 時間かけて蘇州にある部品メーカーを訪問し、会議室でしばらく待っていると設計リーダーがばつの悪そうな顔をして入ってきた。彼は治具のイラストが描かれたA4 の紙1 枚を打合せデスクに置き、「こんな感じで、治具を考えている」と言ったのだ。筆者は現物の治具がないことに驚き、なぜ現物がないのか、またなぜ電話で「できている」と言ったのかを問いただした。しかし、彼は「治具担当者ができていると言った」と言うだけだったのだ。イラストだけならメールの添付資料でも確認できる。しかし、文句を言っても現物がなければどうしようもなく、筆者は憤慨して帰社した。
対処方法① アフターフォローする
設計リーダーは、筆者の訪問前日まで治具担当者に治具の進捗確認をまったくせず、当日まで現物を見ようともしなかったのだ。もちろん、当初は全面的に設計リーダーが悪いと思っていた。しかし時間が経つにつれ、果たしてそうだろうかと思い始めてきたのだ。もしかしたら、筆者も設計リーダーと同じではなかったか? 確かに訪問前日に電話で確認したが、もっと前から進捗確認することもできた。また訪問前日の電話で、「治具ができている」という言葉をただ鵜呑みにするのではなく、治具の写真を送ってもらってもよかった。つまり、接点を増やしたり、写真という太い接点をもったりすればよかったのだ。筆者も、設計リーダーとあまり変わらなかった気もしてきた。
中国人と一緒に仕事をするには、アフターフォローがとても大切だ。頻度良く電話やメールをしたり写真やデータを送ってもらったりして、より多くの進捗確認をより確実に(太く)行うのだ。
窓口担当者が直接行う仕事ならまだしも、別の担当者に再依頼する仕事であれば、実担当者に依頼内容が確実に伝わっていない場合がある。そのような場合、中国人同士の少ない接点を増やして太くするのは、とても重要なのだ。コロナ禍以降、訪問の頻度が減っていれば、接点を増やすためにWeChat を活用するとよい。進捗確認くらいであれば、セキュリティを気にする必要もない。
対処方法② 直接接点をつくる
もう1 つの対処方法として、窓口担当者と実担当者との接点を依頼する日本人がつくる方法がある。実担当者のメールアドレスを入手してメールのCC に入れておいたり、訪問時やWeb 会議の打合せにおいて、実担当者も同席してもらったりするのである。窓口担当者と実担当者の間の接点が少なく細くても、依頼側の情報を確実に実担当者に直接伝えられる(図2)。
図2 接点が少なく細い中国人に対して、依頼する日本人のできること
仕事の責任範囲を越えない国民性
ここまで読むと、中国人の仕事の仕方が良くないようにも読み取れるが、決してそうではない。報連相が大切とされる日本人の仕事の仕方と、「自分の仕事の責任範囲を越えて仕事をしない(相手に干渉しない)」中国人の仕事の仕方の違いである。仕事の仕方に関する国民性とも言ってよく、決して非難はできない。中国人の仕事の仕方を知っていれば、依頼する日本人側でも十分に対応できるのだ。