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工場管理 特別企画「人手不足を解決する新しい採用戦略とカイゼン手法」

2025.10.30

第3章 採用の新常識:条件より変化を語ろう

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ユアウィル 木下克雄

きのした あきお:代表取締役、マーケティング・PRコンサルタント
https://practical-marketingpr.com/

魅力が伝わる採用メッセージ4 つのポイント

 近年、自社サイトに採用条件の提示だけではなく、ストーリーや経営者の想いを伝える企業も増えてきている。採用条件のみならず、これらの情報を伝えることは非常に価値があるといえる。しかし、それだけでは十分ではない。

 以前サポートしていた群馬県のある企業では、ホームページにストーリーや経営者の想いを丁寧に掲載していた。ホームページを訪問した多くの候補者は共感しただろう。しかし、ほとんどの候補者は企業のホームページを訪問する前に求人情報サイトを訪問している。そのため、まずは求人情報サイトに掲載する情報の魅力を高める必要がある。

 求人情報サイトにて、採用メッセージを発信する際には重要なポイントがある。それは、企業のストーリーや経営者の想いを丁寧に伝えるよりも、「A → B」「独自性」「実績」「未来例」を簡潔に伝えることである。求人情報サイトを閲覧している段階では、まだその企業への関心が十分に高まっていないためだ。ここでは、特に求人情報サイトにて活用できる採用情報の伝え方を解説する。

ポイント①「A → B」

 「A → B」とは、入社することによって候補者が得られる変化(A からB へ変わる)を意味している。重要な点として、候補者へ伝えるメッセージは、企業が提供する内容よりも、候補者自身に生じる変化にフォーカスすることである。これはマーケティングの考え方に基づいている。たとえば、体重を減らしたいと考えている人がパーソナルジムを選ぶ際、どちらのメッセージがより魅力的だろうか?
 ① 「当ジムでは最新設備を完備しています」
 ② 「当ジムに通えば3 カ月で5kg の減量が可能です」

 多くの人にとって②の方が魅力的に感じられる。この理由は、①は提供するサービス内容にフォーカスしているのに対し、②は顧客にとって「得られる変化(A → B)」を伝えているためである。たとえば、ライザップのCM を思い出していただきたい。設備やトレーニングメニューの内容を発信しているのではなく、ユーザーが得られる体型の変化を発信していることがわかる。

 採用活動においても、候補者にとっての「A → B」を示すことが重要である。たとえば、製造現場を志望する新卒者を対象にする場合、「入社後1 年間で、製造現場の主要プロセスを把握し、生産性向上のための新しい技術や設備の導入を提案できる力を養う」といった表現が効果的だ。

 注意すべき点としては、企業が提供できる変化ではなく、候補者が本当に求める変化を示すことである。ここはとても重要なことで、そのために第2 章で解説したペルソナ分析を通じて、「価値観」「将来像」「ニーズ」などを把握している。

ポイント②「独自性」

 次に独自性である。独自性とはほかの企業が提供していない特徴を意味し、独自性を示すことによって、ほかにはない魅力を知ってもらうことができる。ただし、単に珍しいことなら良いというわけではなく、候補者のニーズや価値観に合致していることが重要だ。さらに、独自性は「A → B」性」は結果と理由の関係にある。

 たとえば、先ほどの事例で「入社後1 年間で、製造現場の主要プロセスを把握し、生産性向上のための新しい技術や設備の導入を提案できる力を養う」という「A → B」を示した。このように記載すると、多くの候補者はその実現可能性に疑問を持つかもしれない。しかし、この「A → B」を実現させるための独自の取組みとして、「最新技術を活用した実習プログラム」「社内専属の技術コーチ制度」「新技術導入プロジェクトへの早期参画」があればどうだろうか?説得力が大きく高まるかと思う。このように、独自性はただ珍しいことなら良いというわけではなく、「A → B」を支える理由として記載することが効果的である。

ポイント③「実績」

 実績とは、過去に達成した具体的な成果のことを指す。ここでも「A → B」と関連させて、その信頼性を裏づけることが大切だ。そのため、実際にどのような人々がどれだけの変化を達成しているかの事実を示す必要がある。たとえば、製造業に興味を持つ新卒者を例に挙げる場合、「昨年入社した新卒5 名が1 年以内に生産工程の効率化プロジェクトに参加し、実際にラインの稼働率の向上に寄与している」といった表現が考えられる。

 同時に、企業の信頼性を高める実績を示すことも重要だ。それは、大手や有名な企業でなければ、多くの候補者が企業に対してある程度の不安を持っているためである。企業の信頼性を示す実績とは、事業の規模感、設立年数、取引実績などだ。

ポイント④「未来例」

 未来例は、自社における勤務を通じて目標達成や変化を実現した先輩社員の事例を指す。未来例を共有する目的は、候補者に対し、自社で働くことで得られるポジティブな変化をより具体的に想像してもらうことだ。社内での勤務を通じて素晴らしい成果や成長を遂げた先輩の事例を前面に出し、その成功体験を紹介することが推奨される。特に、予想を上回る成果の事例は、大きな魅力となるだろう。一般的に、「社員の声」や実体験に基づくインタビュー、体験談が良い事例となるが、いくつか注意すべき点がある。

 1 つ目は、「A → B」を実現した事例を選定することが大切である。これにより、メッセージに一貫性と説得力をもたらす。2 つ目は、ターゲットとする候補者に類似した背景を持つ人物の事例を選ぶことが肝心である。これは、候補者がその事例を自分ごととしてとらえやすくなり、具体的にイメージしやすくなるためである。

4 つのポイントが説得力を高める理由

 この4 つのポイントを伝えることで説得力が大きく高まる。その理由はこの4 つが主張、理由、根拠という論理構造にあるためだ。

 「A → B」の主張に対して、「独自性」は理由であり、「実績」は事実となる。主張とあわせて、理由、事実をセットで伝えることによって、主張の説得力を高めることができる(図1)。
図1 魅力が伝わる採用メッセージの構造

図1 魅力が伝わる採用メッセージの構造

 本章では、候補者へ貴社の魅力を伝える方法を解説した。これらの手法を活用することで、候補者の関心を高めることが期待できる。しかし、マーケティングと同様に、採用活動においても一度の取組みですべてが成功するわけではない。成功には継続的な改善が必要だ。改善のカギとなるのは、情報の数値化にある。次章では採用プロセスの情報を数値化し、改善するための具体的な方法を解説する。

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