型技術 連載「外国人材から一目置かれるコミュ力養成講座」
2025.08.29
最終回 仕事の依頼の仕方と会議の進め方
ロジカル・エンジニアリング 小田 淳
おだ あつし:代表 元ソニーのプロジェクタなどの機構設計者。退職後は自社オリジナル製品化の支援と、中国駐在経験から中国モノづくりを支援する。「日経ものづくり」へコラム執筆、『中国工場トラブル回避術』(日経BP)を出版。研修、執筆、コンサルタントを行う。
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今回が連載の最終回となる。本稿では過去の連載の復習も兼ねて、筆者の友人のエピソードの内容から、中国人との対応にどのような問題があったかを考えてみたい。
システム導入の仕事が2 カ月間滞る
筆者の友人が、中国にある大規模物流倉庫の企業に自社製品の配送システムを導入することになった。友人は長期で中国に出張し、物流倉庫で働く日本語上手の3 人のリーダーに配送システムを説明しながら導入作業を進めていた。
倉庫の配送現場は常に毎日稼働しているため、配送システムのすべてを一度に導入することはできないらしく、一部を導入しては配送作業の問題点を確認するといったことを繰り返しながら、全配送システムを導入するのだった。
配送システムの導入が始まってしばらくしたあるとき、友人は倉庫で働く配送作業者にシステム上の問題点をアンケートで聞き出そうと考え、会議で3 人のリーダーにアンケートの実施を依頼した。ところが、会議ではその趣旨を理解した様子であったが、実際にはアンケートはなかなか実施されなかった。リーダーとの会議は定期的に開催されるため、そのたびに友人はアンケートの件を持ち出して依頼したが、やはりなかなか実施されないのだ。結局その状態が2 カ月間続き、しびれを切らした友人はある方策をとり、やっとのことでアンケートが実施できたのだった。
アンケートの実施を仕事として理解していなかった
中国人に「あうんの呼吸」はない。「一を聞いて十を知る」、「以心伝心」もない。明確に指示された仕事だけをする。このように書くと「中国人は能動的に仕事をしない」という悪い印象を与えてしまうが、そうではなく「与えられた業務範囲を超えない」と理解してほしい。中国は漢民族がほとんどであるが、国の成り立ちは多民族国家で考え方の異なる民族の集合体である。よって、誤認識の生じやすい「あうんの呼吸」で依頼された仕事を請け負うことはせず、明確に言葉や文書で指示された仕事だけを請け負うのである。多民族国家の米国が契約社会と言われるのと同じだ。
今回のエピソードでは、3 人のリーダーはアンケートの実施を自分の仕事として理解していなかったらしい。それにやっと気づいた友人は、この物流倉庫の企業と交わした契約書に「アンケートを実施する」を追記し、依頼する仕事が追加されたのを明確にしてアンケートを実施してもらったのだ。
このようなことは、中国人との仕事ではよくある。契約書とまではいかなくても、基本的に上司から指示された内容が仕事である。別会社の中国企業の一担当者や、自社の他部門の中国人社員に対してある依頼をしても、なかなか実施してくれない場合がある。そのときには上司を通して依頼しなければならない。上司を通すことによってプレッシャーをかけるのではなく、正式な仕事として理解してもらうのだ。
日本においても、ある程度工数が必要になる仕事を別会社や他部門に依頼するときは、上司を通して正式に依頼する。中国では、比較的少ない工数でも上司を通す必要があると理解してもよいかもしれない。
PowerPoint をプリントして、追記してもらいながら説明する
筆者は、友人の仕事の仕方にほかにも問題点はないだろうかと、3 人のリーダーとの会議をどのようにして進めているか尋ねた。友人は、配送システムの導入に関する説明をPowerPoint で作成し、それをプリントアウトして配布して口頭で説明を行っていた。そして、説明中にPowerPoint に書かれていない補足があればその都度口頭で説明し、リーダーは各自赤ペンでPowerPoint の用紙に追記していたらしい(図)。
図 友人の説明を聞きながら資料にメモする3 人のリーダー
連載の第8 回を思い出してほしい。打合せした内容や取り決めた事項は、議事録に記載された内容がすべてで、そこに記載のない口頭だけの説明内容は、打合せしなかったのと同じなのだ。これは、記載のない内容は忘れられて当たり前という意味ではない。日本人が口頭で伝えた内容が、正しく理解されているとは限らないという意味である。今回のエピソードでは、3人のリーダーが友人の口頭説明の内容を全員が同じように理解していたとは限らず、そもそも理解していなかったかもしれないのだ。もしかしたら、アンケートを実施してくれなかった原因はここにもあったのかもしれない。
打ち合わせた内容は、すべてPowerPoint に記載されていなければならない。事前配布のPowerPointに記載がなく会議中に新たに生じた内容は、元のPowerPoint に追記して議事録としてメール配布する必要がある。対面の会議では、取り決め内容をホワイトボードに書いて、写真を撮ってメール配布すればよい。
文字化すると、実務担当者など日本語のできない中国人でも内容を理解しやすくなる。中国人が理解できる漢字も多いからだ。できれば写真やイラスト、記号をPowerPoint やホワイトボードに多用してほしい。議事録の内容をより理解してもらいやすくなる。このような細かい配慮の積み重ねが、トラブルを未然防止するのだ。
☆
全15 回の連載をお読みいただき、ありがとうございました。日本人は中国人などの外国人との仕事において、いまだに多くのトラブルを起こしている。その原因は以下の2 つである。
①中国人の仕事の仕方を理解していない。
② (日本語通訳への)日本語が伝わっていない。
①は連載の第10 ~ 13 回で、②は第6 ~ 9 回でお伝えした。そして①と②を引き起こす根本的な原因を第2 ~ 5 回でお伝えした。再度この視点で読み返していただければより理解できると思う。
連載の全内容は、中国に5 年以上駐在の経験がある人にとっては、ごく当たり前の内容である。現に中国人などの外国人と何の問題もなく仕事をしている人は多くいる。筆者も、駐在して3 ~ 4 年経過した頃にはほとんど問題なく仕事を進められた。ノウハウを知っているかいないかだけの問題なのである。
外国人との仕事がうまくいかない原因をひと言で表すなら、それは日本人の「あうんの呼吸に任せたあいまいさ」である。現代はインターネット社会の影響で、若者と年配者に情報格差が生じ、仕事に対する考え方に違いが生じ始めている。また、職場で一緒に働く外国人とは、これまで得てきた情報が違い国民性も異なる。この「あうんの呼吸に任せたあいまいさ」はなくさなければならない時代なのだ。
日本が技術的に優位に立ち、製造業の仕事においても日本人が優位的な立場をとれた時代は、とうに終わっている。現代は、お互いに教え教わり切磋琢磨していく時代であり、また日本人が外国人から評価されている時代でもあることを認識する必要がある。