自動車や電子機器、精密金型などの厳格な寸法と高い表面品質、耐久性が求められる部品を仕上げる工作機械の研削盤。その中でも特に金型部品の高精度の仕上げに欠かせないプロファイル研削盤や成形・平面研削盤の開発・製造・販売を手がけるのがアマダマシナリー(神奈川県伊勢原市)だ。近年、金型製作の現場から要望が高まる加工の高精度化や技能レスに対応する機種を開発。精密金型向けの高精度研削盤メーカーとして評価を確立した背景には、経験・知見を積んだ不惑の開発・設計者と前向きに仕事に取り組みながら成長に向けて着実に歩む若い技術者がいる。
機械部品の高精度仕上げ向け高付加価値工作機械
年々、小型化する電子機器や医療機器。それらに搭載される部品もまた、輪郭や表面などの形状が複雑化し、寸法や表面粗さなどに求められる精度が厳格化している。金型で量産する場合は、金型も高精度に加工することが必要だ。精度が求められる部品の製作に必要不可欠なのが研削盤である。
数ある機械加工の工程の中で複雑・精密な形状の加工や精度を高めるための最終仕上げを担うのが研削盤で、アマダマシナリーが手がけるのはプロファイル研削盤や各種平面研削盤である。金属やセラミックスを始めとする特殊素材を平滑、平行に整えたり、複雑な輪郭形状を高精度に加工したりする。精密部品を成形するプレス金型のパンチやダイの金型部品、精密機械部品、切削工具などを高精度に加工する工作機械として、モノづくりを支える。
プロファイル研削盤は投影機を搭載しており、被加工物(ワーク)と砥石を投影する。ワークの仕上がり形状を拡大したチャート紙に倣って砥石を移動させてワークを加工する。ワークを取り外すことなく、計測と補正加工が可能で、高度な精度要求に対応できる。一方で、形状精度はオペレーターが目視で確認し、位置合わせや段取りを適切に行ったうえで、補正加工を行う必要があるため、熟練作業者でなければ±1μm の精度で加工することは非常に難しい。そのため、技能者による加工品質のばらつきや高度技能を保有する技能者の育成・確保がネックになりがちである。こうした従来の課題を解決するために、アマダマシナリーは、独自開発のデジタルプロジェクタと画像処理ソフトを搭載し、チャートレスで、高精度研削が容易なデジタルプロファイル研削盤「DPG-150」を2021 年に開発。24 年には、円筒研削加工に特化した、デジタル円筒プロファイル研削盤「DPG-R-200」を開発した。現在、精密金型や精密機械部品の分野へ提案を進めている。モノづくりの現場を支え、また、アマダマシナリーの事業戦略として重要なマシンの開発とユーザーへのサポートに、経験・知見を積んできた頼れる技術者と伸び盛りの若手技術者の奮闘がある。
失敗から謙虚に学び、活かす
塚田芳昭さんは研削技術部開発・設計技術課で平面研削盤とプロファイル研削盤の開発や特注機設計、既存製品の改良を手がける。DPG-R-200 の開発では中心的な役割を担った技術者の1 人だ。前身のテクノワシノに08 年に入社し、複合NC 旋盤や5 軸マシニングセンタ(MC)、超硬丸鋸盤の製品開発に携わる中で、工作機械に関する知識を深め、技術者としてのキャリアを積んできた。子供の頃から身の回りの機械製品について興味をもっていたという塚田さん。「それらを操作したり、分解して再度組み立て、正常に動くかどうかを確かめたりすることが遊びの一つでした。機械や自分の手を動かして何かをつくることに興味をもっていたので、モノづくりに適性があったのでしょう」と振り返る。この興味・関心は中学・高校へと進学しても変わらず、大学への進路選択時の動機となる。授業や実習を通して工学に関する専門性を育むことができると考え、職業訓練大学校精密システム機械工学科(現・職業能力開発総合大学校機械システム工学科)へ進学。理論を学び、技能を習得することに努めた。
「授業でテクノワシノ製の汎用旋盤を使用した実習があったこと、また調整を繰り返して目的の精度を実現するすり合わせ作業に興味をもち、多角的に考えた結果、工作機械メーカーを志しました」(塚田さん)。自身の興味・関心と専門性を活かす進路を選択した。入社時から塚田さんを知り、現在の上司でもある研削技術部開発・設計技術課の加藤昌直課長は、塚田さんについて、落ち着いた雰囲気で、はっきりと意見を述べる様子が印象に残ったという。開発・設計に付随するユニットなどの試作を行うときの部品製作や組立て作業に積極的に取り組む様子も工作機械の開発・設計者として適性を感じた。
「当時は、開発・設計に関する業務だけでなく、運用に関する高度な要望へのフォローやクレームの対応も行うことがあり、物怖じせずに毅然とした立ち振る舞いをしていたことに頼もしさを感じました」と振り返る。
入社間もない頃から周囲の評価が高かった塚田さんだが、「自分が携わった開発は、その過程で必ず何かしらの失敗やトラブルがありました」と明かす。その1 つとして、MC の開発に携わったときの失敗を挙げる。ユーザーが使用している最中にATC が不具合を起こし、クレームになったことがあった。
「社内のテストもクリアしていたのですが、使用頻度と実際の使用環境が想定とは違っていました。ただ、もう少し深く考えれば設計段階で対策ができたことだと判明しました」(塚田さん)。苦い経験から学び、現在はより多角的な条件を想定した設計とその後の検証を行うようにしている。失敗を成長につなげている。
効果的な活用術の提案でユーザーのモノづくりを支える
開発・設計・製造を経て、製品化されたマシンを顧客へ提案する部門では、ていねいに仕事に取り組み、着実に歩みを進める若い技術者がいる。
研削エンジニアリング推進部研削ソリューション課の岡田侑樹さんは、開発中のマシンでテスト加工を行い、使用者として気がついたことを設計・開発部門へフィードバックする業務や発売されたマシンの顧客への提案、展示会での対応を担当する。最近はDPG-R-200 の実証加工や販売促進資料の作成を担当する。
「開発中のマシンに触れて、気がついたことを開発・設計部門に伝えて、それがもとになってマシンが改良されることもあります。自分の気づきや意見がもとになって良いものへつながるのを目にすると誇らしい。仲間が頑張って開発・改良した製品をお客様に提案して好感触を得られたり、販売につながったりすると達成感があります」と声を弾ませる。
岡田さんのもう1 つの役割は、製品化されたマシンを使用して、顧客から依頼された形状や目標とする生産性を達成する加工方法を確立し、提案すること。導入を検討している新規顧客や従来からのユーザーに対して、実際の加工精度や生産性向上の効果を示すことは説得力の向上につながり、導入を済ませたユーザーについては、増設や次の新機種の導入といったリピートオーダーに直結する。販売促進に関する重要な役割を担う。また、ユーザーの現場で運用方法の説明やトラブルにも対処する。
岡田さんは顧客の要望や狙いを適切に理解し、効果的なプレゼンテーションができなかったときのことが印象に残っている。
「自動化を希望しているお客様に対して、加工精度のことを理解いただきたい気持ちが強く、人手がかかる方法を提案してしまったことがありました。当時は一生懸命だったのですが、根本的に間違っていました」と苦い経験を振り返る。顧客の要望を適切に理解し、提案するには、商品知識、運用方法を知り尽くしたうえで、ていねいに話を聞かなければいけないということを再認識するきっかけになった。
研削加工は砥石の粒度やバランスといった、砥石の品質やツルーイング、ドレッシングの方法、タイミング、油剤の種類など、留意するべき項目は多く、ユーザー独自の研削盤の運用やノウハウのもと発展してきた加工技術でもある。
岡田さんは「研削盤を含むあらゆる工作機械が自動化やデジタル技術によって、操作性が向上し、技能レスになりつつあります。一方で十分な効果を発揮できるようにするためには、使用環境を整え、適切に運用をしていただく必要があります。それに伴い、これまでの運用方法を見直していただく必要も生じますが、お客様はそのことに負担を感じてしまう場合があります。難しくないことを理解していただけるように心がけています」と顧客への提案時に留意していることを明かす。
「自分の取組みの成果が、お客様が導入する際の判断材料になるので、気が引き締まります」と語る。岡田さんについて、上司である研削エンジニアリング推進部研削ソリューション課の小塚正啓課長は「本人は厳しく自己評価をしていますが、1 人でお客様の現場で運用支援を行うこともあり、プレッシャーのかかる役割です。お客様からの評価も高い」と労う。
岡田さん自身は「まだまだわからないことが多く、加工の知識、お客様のモノづくりについて学びたい」とモチベーションは高い。
リーダーシップと専門性を高める
開発・設計の技術者として順調にキャリアを積んでいる塚田さんと、社内外でさまざまな人と関わる中で知識や提案力を磨いている岡田さん。
塚田さんは目指す姿として、コミュニケーションをとりながらリーダーシップを発揮し、円滑に仕事を進める技術者を挙げる。
「これまで他部署とのコミュニケーションが足りず、開発に時間にかかることがありました。他部署とコミュニケーションがとれれば、新しい知識を得る機会も増えるし、業務が円滑に進むはずです。DPG-R-200 の開発ではメカや制御、実証加工の担当者と定期的にミーティングを行うことによって、自分に不足していたソフトウェアや加工について理解が深まりました。そうしたことも開発が成功した要因だと感じています」(塚田さん)。
塚田さんは自身の設計に関する知識や仕事の進め方には手応えも感じている。だからこそ、次は自らコミュニケーションをとり、リーダーシップを磨くことが技術者として必要だと認識している。
岡田さんは「自分が実証加工を手がける機種について、全項目を理解すること」を目標にする。それは自分の理解と提案が導入に直結するという責任を認識しているから。その一方で研削盤のソフトウェアへの関心が強くなった。将来はソフトウェア開発にも携わってみたいという新しい希望が出てきた。
これまで積み上げてきたキャリアを自信にして、目標に進む不惑の技術者と堅実さと積極性を併せもつ若い技術者が、高精度化が進む金型づくりを支えていく。