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機械技術

2025.04.07

難しい仕事へのチャレンジが技術力アップにつながる―高山技研

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 高山技研合同会社(大阪府東大阪市)は2015年に高山尚貴氏(図1)が立ち上げた研削加工の専業メーカーだ。円筒研削盤による丸物の仕上げ加工を主に手掛ける。創業から9 年の若い会社だが難易度の高い仕事に積極的にチャレンジする中でといしや研削液の選定に関するノウハウを蓄積。SNS を活用し、効率的な集客にも成功している。
図1 高山尚貴氏

図1 高山尚貴氏

失敗繰り返し体で技術を覚えた

 高山氏の両親は平面研削を手掛ける町工場を営んでいた。「継いでほしい」と言われたことはなかったが、長男だったこともあり、漠然と「自分が継ぐのかな」と思っていたという。工業高校を卒業後はダイハツでエンジンの組立てに従事する。小学生の頃からの憧れの仕事だったが、思い描いていた仕事とのギャップがあり数年で退職すると、「跡を継ごう」という考えが自然に浮かんだ。父親に相談すると他社での修行を勧められた。そこで東大阪市のゲージメーカーに研削盤オペレータとして就職。ここで多くのことを学んだ。

 研削加工は作業者の経験や感覚が重要な世界だ。中でもゲージ製作は±0.001~0.005mm の公差を求められ難易度が高い。職場にはベテランが多く、「背中を見て覚えろ」という雰囲気が漂っていた。

 「平面研削はマグネットチャックでワークを固定するのですが、磁力でワークがひずむことなく、かつ、磁力が弱すぎてといしが当たった瞬間にワークが飛ぶこともないように調整する必要があります。円筒研削も、ばねでワークを押さえるときの力が強すぎるとワークがひずんで、加工後の外径面が真円になりません。先輩は目の前でやり方を見せてくれるのですが、同じやり方をしているつもりでもうまくいかない。ワークを何個も飛ばして不良をつくりながら、体で覚えていきました」

 高山氏にとって幸運だったのは、職場の先輩がチャレンジを推奨してくれたことだ。「私が『難しい仕事は嫌だ』と言っても、『やってみろ』と背中を押してくれた。仕事をこなすうちに自然と技術レベルが上がっていきました」と振り返る。

 この経験は、独立後の仕事の向き合い方にも影響を与えたという。

 「仕事の依頼に対しては、どんなものでも『いったんチャレンジさせてください』と言うようにしています。できないと思った仕事が意外とできることがあるし、難しい仕事にあえてチャレンジするうちに、今まで難しいと思っていた部品を、以前より速く、楽に、精度良く加工できるようになるからです」

34 歳で独立、若さゆえの苦労も

 修行を終えた高山氏は、当然のように実家の工場を継ぐつもりでいた。ところが思わぬ展開が待っていた。「俺はまだ現役でできる。やるなら自分でやれ」と父親から言われたのだ。

 「父は根っからの職人で、人に教えるのが苦手。私に仕事を教えながら一緒に仕事をするのは難しいと、自分でもわかっていたのでしょう」

 貸工場探しから設備導入まで1 人でこなし、34歳で独立。「高山技研」の名は父親がつけてくれた。最初の数年は慣れないワークの大きさに戸惑うなど苦労したが、「ゲージ製作で培った勘やコツを活かして乗り切った」。取引先の中には、独立して間もない高山氏を気遣い、「こんな感じで加工するんやで」と教えてくれる人も。一方、若さを理由に信用されないケースもあったため、技術力を証明するため2016 年に円筒研削盤作業の二級技能士を取得した(図2)。
図1 高山尚貴氏
図2 技能検定の合格証書(上)と課題ワーク(下)

図2 技能検定の合格証書(上)と課題ワーク(下)

 9 年目の現在はシギヤ精機製作所製の円筒研削盤2 台、ジェイテクト製のCNC 円筒研削盤1 台、科学計器研究所製の内面研削盤1 台を保有。円筒研削は最大120㎏、φ390mm、長さ1,500mm まで加工でき、半導体の搬送装置部品や印刷機のローラ、工作機械の伝達部品などの外径研削が主要な業務だ。素材はアルミニウムと樹脂、超硬合金以外のものなら対応が可能。特に難削材と言われるステンレスやめっき部品を得意とする。「公差±0.005mm の仕事なら二つ返事で引き受けます」と、精度への自信ものぞかせる。

 もっとも、9 年の間にはさまざまな試行錯誤があった。その1 つがといしの選定だ。高山氏が重視したのは「汎用性の高いといし」であること。扱う素材の種類が多く、一方でといしの保管スペースは限られていたため、汎用性の高いといしを厳選する必要があった。といしメーカーと相談しながらと粒の種類や大きさ、と粒間の隙間、結合剤の硬さなどを調整し、9 年目にしてようやく「これだ」と思えるレシピにたどり着いた。研削液もいろいろなものを試し、「中性寄りで体に優しい」という理由でブラザー・スイスルーブ製を使用している。こうした細かなノウハウの蓄積が、速く、高精度な加工につながっている。

他社との比較で自己のレベルを判断

 技術の確立と並行して力を注いできたのがSNS の活用だ。独立後すぐにブログを始め、SNSマーケティングを学ぶ塾にも入った。

 「この塾では、“ 個を出す” ことの重要性を学びました。自分を知ってもらい、『高山に仕事を出そう』と思ってもらえる発信を意識しています」

 ブログに加えてX やInstagram、Facebook、YouTube で情報発信しており、新規顧客の9 割がWeb 経由で問い合わせてくる。YouTube チャンネル「研磨屋TV」を通じて全国の同業者に知り合いができ、工場を見学させてもらったり、加工の相談に乗ったりする機会も増えた。同業者とのつながりは、自らの技術レベルを知るために役立った。

 2024 年11 月に父親が亡くなり、使われていた平面研削盤を引き取った。父親から直接技術を学ぶことはなかったが、仕事に向き合うときの真剣なまなざしに影響を受けたと高山氏は話す。

 「さまざまな加工方法がある中で研削加工は非常にマイナーな分野。それでも依頼があるということは、間接的にエンドユーザーの役に立っている。それがやりがいになっています。仕事は同じことの繰返しで、『何をやっているのだろう』と思うこともありますが、続けていれば自分の技術力は確実に上がる。これからも、研削加工を通してモノづくりをサポートしていこうと思います」

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