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機械技術

2025.05.09

牧野フライス精機㈱ 清水大介社長に聞く―顧客ニーズの先を行く製品開発で持続的な発展を目指す

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 工具研削盤の専業メーカーである牧野フライス精機が設立60 周年を迎える。「前のめりの技術開発」(清水大介社長、図1)で、変化するユーザーニーズに機敏に対応してきた同社は、工具の小径化や高機能化を支え、工具製造現場の生産性向上や自動化に寄与する製品を世に送り出してきた。「『牧野フライス精機の機械を入れてよかった』と10 年後、20 年後も言ってもらえるような製品づくりをしていきたい」と清水社長は語る。メーカーとしてのこれまでの歩みや昨今の市場動向、今後の方向性を聞いた。
図1 清水大介社長

図1 清水大介社長

プロダクトアウトの開発に商機

『機械技術』編集部

5 月に設立60 周年を迎える。

清水

よくここまで来られたなと思う。お客様が生産技術を高度化させるのに伴い、われわれも一緒にステップアップすることができた。お客様に鍛えてもらわなければ、われわれの技術も向上しなかった。ここまで支えてくれたお客様に感謝申し上げたい。

60 周年を機に発信したいことは?

われわれの“ ありたい姿” を忘れないようにしたい。これは牧野フライス精機での自分の原体験から来ている。お客様の製造現場を歩いていたとき、「牧野フライス精機の機械を入れてよかった」と言ってもらった体験だ。体に電気が走るようにうれしかったのを今でも覚えている。この体験を忘れず、製品づくりやサービスの充実に取り組んでいきたい。

さまざまな製品を開発してきた。

設立当初から開発に前のめりの気風があった。1982 年に開発した世界初の10 軸制御NC 工具研削盤「CNX-40」はその典型だ。また、当社の製品開発のターニングポイントになったという意味では、2009 年開発の高精密CNC 工具研削盤「AGE30」も忘れられない。

ターニングポイントとは?

08 年に私が入社した当時は、どちらかと言えば、顧客のニーズを重視した、いわゆる「マーケットイン」の開発を牧野フライス精機は志向していた。それを思い切って変え、自社がもつ技術やアイデアを詰め込んだ「プロダクトアウト」志向で開発したのがAGE30 だ。既存のロングセラー機「CNJ2」に対して価格は2 倍。社内の反対を押し切って、機能やデザインも一新した。

既存機との違いは?

工具メーカーだけでなく再研削メーカー向けでもあったCNJ2 は、太い径の工具や長い工具なども加工できる“ 懐の深さ” が強みだ。半面、懐の深さゆえに、軸構成を左右対称にできず、連続運転時の安定性という点では優位性を発揮できなかった。対するAGE30 はターゲットを絞り込み、工具メーカー向けとした。必然的に連続運転時の安定性が求められるため、より熱変位に強い軸構成に変え、ワーク搬送のためのローダやといしの交換装置(AWC)を標準装備とした。単位面積当たりの生産性を上げるため、ローダとAWC を機内に取り込んだのも特徴だ。

ユーザーの評価も高い。

牧野フライス精機がつくってきた工具研削盤とはイメージがガラリと変わり、お客様も驚いたと思う。ただ、プロダクトアウトを志向するようになった09 年以降に開発した製品が、現在では売上げの8 割を占めるまでになった。お客様に受け入れられているという手応えがある。もちろん、マーケットインの考え方で開発する機種やカスタマイズに対応するケースもある。個々のお客様の求めるものをしっかりと把握したうえで、当社が「これだ!」と思うものを開発している。

機内測定で自動化をサポート

昨今のユーザーニーズをどう見る。

私が入社した08 年当時と大きく変わった。一番の変化は自動化だ。以前はローダによるワーク交換速度がそれほど速くなく、「これなら、手作業の方がまし」との声があったが、最近はそんな状況ではなくなった。当社でも、大ロットワークを自動で供給・回収できる高機能ロボットローダ「ROBOX」を開発し、大ロットワークの連続加工だけでなく、さまざまな装置と組み合わせた運用提案をしている。20 年には内蔵型マイクロビジョンシステム「monocam2」(図2)をリリースし、機内カメラによるワークの自動測定や自動補正を可能にした。
図2 monocam2 による機内測定の様子

図2 monocam2 による機内測定の様子

monocam2 の特徴は?

画像認識技術を用いることで、オイルホールの位置や刃先の位置、心厚など10 項目を測定できる点が最大の特徴だ。刃の形を自動認識することで、ドリル刃先のホーニングの自動化にも成功した。また、機内でのワーク測定で一般的に使われるレーザ測定に比べて取得できる情報量が多く、タッチプローブによる接触式の測定に比べて測定時間が圧倒的に短い。タッチプローブでの測定が難しい極小径オイルホールも認識でき、工具が小径化する中でmonocam2 の優位性が出てきている。

24 年に発表した工具研削用ソフトウェア「Tool Creator」も自動化と絡むのか。

今後はそうなるだろう。Tool Creator は08 年にリリースした「MSPS -Ⅱ」に続く当社の第三世代ソフトで、自動化で求められる外部機器との連携を想定して開発した。外部の工具測定機や各種センサと通信し、得られたデータをリアルタイムで収集して可視化・解析する新機能「MONITORIST」も併せて開発しており、これらを組み合わせることでさまざまな展開が可能だ。

今後もソフト開発に注力を?

もちろんソフト開発には引き続き取り組むが、精度を出すという点ではメカにこだわりたい。当社のメカへのこだわりが表れているのが、工作主軸台を前後に動かすU 軸の存在だ。U 軸があることで、工具先端を常に旋回中心に位置させることができ、工作主軸台を旋回させるW 軸の動きだけで先端のR を加工できる。ソフトの力でX とY の直線2 軸を補完させながら加工するより、長期間、安定して精度を出せる。工具研削盤の使用期間は長い。当社の機械を入れてよかったと思ってもらうためにも、メカへのこだわりは譲れない。

ユーザー視点を貫く。

私がいつも社員に伝えているのは、「存続して、技術的に発展していくことが大事」ということだ。ここで言う発展とは、規模拡大を意味しない。自分たちがいいものだと信じる機械を、お客様と一緒につくる。「これができたら、お客様がすごく助かる」と思う製品を先回りしてつくる。そういう“ 自分の意思を込めた製品づくり” が他社との差別化につながり、会社の発展につながると考えている。

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