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型技術 連載「巻頭インタビュー」

2025.10.16

鍛え上げた設計力と熱い情熱を武器に押出成形業界で独自の存在感を高める―アクスモールディング

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アクスモールディング㈱
代表取締役社長
横田新一郎氏

Interviewer
キヤノン㈱ 生産技術本部
成形技術開発センター 主任研究員
瀬尾宜時氏

 アクスモールディング(神奈川県秦野市)は、フィルムやシートの押出成形に用いる金型「Tダイ」の設計・製作をメインに、フィルム製造に関わる装置一式を手がける製造業スタートアップ。鍛え上げた設計力を武器に金属3D プリンタなど新技術も活用し、大手メーカーも認める新規開発を数多く行う同社の取組みについて、横田新一郎社長に話を聞いた。

瀬尾

最初に、横田社長のご経歴と会社設立に至った経緯についてお聞かせください。

横田

私は工作機械メーカーの池貝(茨城県行方市)の出身で、そこで押出成形関連の仕事や工作機械の設計、加工機を使った実際の加工や海外調達など、モノづくりに関するさまざまなことを経験しました。
池貝自体は私が入社して4 年ほど経った2001 年に民事再生法の適用を申請して、その後は中国企業に買収されました。そうした中で当時の社長や中国人のCEO ともさまざまな議論をして、いろんなことをやらせてもらいました。例えば、当社がメインで手がけている、フィルムやシートの押出成形に用いる金型「T ダイ」の製作。当時は日中にT ダイの金型加工を行って、夜になるとT ダイの設計をやるという、T ダイにどっぷり漬かった生活でした。自分で好きにやっていいよという感じでまかせてもらって、T ダイ加工機の設計・製作から材料の確保、プログラム作成、機械加工までほぼ全部を1 人で進めていました。
そのときに痛感したのが、「金型の設計者は機械加工の技術もないとダメだ」ということ。その考えは今の私の源流になっています。設計者が加工を行う企業なんてほぼないと思いますが、当時の池貝はそれを行っていた。設計者が加工もすることの大事さを学ばせてもらったことにはとても感謝しています。そうしたわけで、私は金型を設計する能力と機械加工を行う能力を身につけられた。それらを組み合わせてプラスチック専門の企業をつくればきっとユーザーの期待に応えられるだろうと思い、2017 年にアクスモールディングを設立したのです。

そこでプラスチックを選んだのは、その後の成長性を見込んでということですか。

そうですね。私は15 年ほど前から、自動車や鉄鋼の業界はいつかシュリンクするだろうという予測を立てていました。一方で、プラスチックは将来的に伸びていくだろうと考えました。そして、他社の動向や海外の動向を調べたり、お客さんから新たなニーズを聞いたりするなど、情報収集は当時もしっかりと行いながら、私自身ニッチが好きというのがあって、押出成形も伸びるはずと予測して起業しました。
おそらくT ダイの設計を専任でできる人は国内に5 人もいないと思います。ニッチ分野で専門の人が少ない中で高い設計力を維持できれば、きっとこの分野で一番になれると考えて、設計力はものすごく鍛えました。これまで他人の5 倍10 倍、誰よりも設計したと自負しています。設計力だけは絶対に追いつけないようにしたことが、年間10 億円という現在の当社の受注につながっているのだと思います。

設立以来、業績を伸ばしているけん引力となっているのは設計なのですね。

設計の力ですね。当社は社員が20 名ほどの会社ですが、そのうちの半数以上は設計ができるようにしています。私自身、押出成形の金型製作は設計の能力がすべてだと考えています。高い設計力が技術開発の基盤となったことで、従来は手作業で行っていたTダイのピッチの微妙な調整が自動で行える「モータ式自動T ダイ」の共同開発も実現できたと思っています。
同社が共同開発したモータ式自動Tダイ

同社が共同開発したモータ式自動Tダイ

金属3D プリンタを多様な場面で活用

御社の技術の特徴や強みを教えてください。

樹脂成形は数十年前から考え方が大きく変わらない古い技術と言えます。そうした古い技術を芯の技術として広く押さえながら、そこに新しい技術をどんどんと取り入れていくというところが当社の特徴と言えるかもしれません。
例えば、金属3D プリンタ。当社では医療用チューブの押出成形金型も手がけていますが、医療用チューブには1 本のチューブの中に複数のルーメン(内腔)をもつものがあり、ルーメンの数や形状もさまざまです。当然、その金型も複雑な形状になりますが、それを金属3D プリンタで造形することで短いリードタイムで製作することができます。
また、われわれはT ダイだけではなくて、フィルム製造装置に用いる押出機やロール装置などもすべて一気通貫でつくりますが、そうした装置をつくるのにも金属3D プリンタを活用していて、押出機の中のスクリューを金属3D プリンタで製造しています。さらに、スクリューを受けるシリンダーの中に、分熱成形をするために熱交換器の原理でハチの巣みたいな構造をつくるなど、金属3D プリンタには結構使い道があるんだなと実感しています。
押出機のスクリュー部分を金属3D プリンタで製造

押出機のスクリュー部分を金属3D プリンタで製造

金属3D プリンタは、特に射出成形金型では冷却水路の製造に用いる例が多いですが、それ以上に発展させることが難しいのが実情です。ここまで金属3D プリンタを活用している例は少ないと思います。

これもはっきり言えば設計力なのです。高い設計力を実現できているからこそ、加工技術が活かされるし、お客さんに高く買ってもらえる付加価値の高い製品を実現できるのだと思っています。
同社が採用した金属3D プリンタ

同社が採用した金属3D プリンタ

確実性の高いニーズを把握して開発

医療用チューブも実物を見ると非常におもしろい形状をしています。こうした開発はどういう経緯で手がけるのですか。

われわれはスタートアップなのであまり資金がありません。だから、確実に1~2 年以内に売上げが立つことが必要で、開発においては裏に十分なニーズがあることを把握したうえで手がけています。そうした高い確実性をもって開発をしていかないと、何となくの希望的観測で開発を始めてしまうと資金がショートしてしまう。そうしたやり方で開発を進めていることもあって、われわれは世界初の開発品を年に1~2回のペースでつくることができています。

世の中の先を見て、技術の種を先回りしてまいていくというのはスタートアップならではですね。顧客の獲得に関してはいかがですか。

現状、月1~2 割ぐらいの割合で新規顧客を獲得できています。われわれは特殊な営業活動のやり方で受注をとっていて、その大きな特徴の1 つがセミナーを行うことです。当社には高い技術があることは自負していますが、世の中にはそれほど広くは知られていない。そこで20~30 人ほどの見込み顧客を集めて、私が執筆したぶ厚い技術冊子を提供して集合セミナーを行う、ということをこまめにやっています。また、業界の専門誌などへの寄稿も機会があれば積極的に行っています。雑誌にのれば、お客さんは「何となく読んだことがある」とか「見たことある」と言って当社に接触してくれるので、営業もかけやすい。

確かに冊子を見ると押出成形の技術が多岐にわたって解説されています。自社技術の情報発信を惜しみなく行っているのですね。

これもスタートアップの良いところで、大手メーカーでは秘密にするところを当社は開示していく。そのおかげでお客さんは結構来てくれます。だから、飛び込み営業の電話もほどんどやりません。また、競合との相見積もりになることもないですね。これは相見積もりにならないようにするための戦略があって、見積もりを出す前に図面を出すんです。見積もりはそのあと。そうすると、お客さんはその図面をもとに検討を始めてしまうことになるので、われわれとしては競合に対して大きなアドバンテージがとれるようになります。そんな作戦を実践しているので、相見積もりをとられるようなことはほとんどないというわけです。

それはなかなか興味深い作戦ですね。

ベーグル店の運営で人材を呼び込む

先ほど社員の半数以上を設計者として育てているというお話がありましたが、人材育成や技術継承についてはどのように取り組んでおられますか。

結構悩んでいるところですね。人材を育てることは大事ですが、やはり良い人材を獲得することが必要と考えています。単純に社員を増やせば良い人材が得られる可能性も増えていくはずなので、今は社員数を増やすことを一生懸命やっています。その中で社員が互いに競争するような構造をつくればうまくいくだろうと私は思っています。人材を集めるために努力していることはいくつもあるのですが、その一つとして挙げられるのがベーグル専門店の運営ですね。

私もWeb サイトの会社案内を見て、ベーグル販売を手がけられていることを知って驚きました。

ベーグル専門店は、経理担当の社員が当社の社内ベンチャー制度を使って立ち上げました。現在、神奈川県と東京都で2 店舗を展開しています。以前からBtoC をうまく使いたいという思いがあって、何がよいかを考えた結果、私が好きなニッチ分野で高付加価値という観点からベーグルを選びました。パン屋は町に何件もあるけれど、ベーグル屋は1 件あるかないかという程度ですよね。
BtoB 企業がBtoC を学ぶ中で、「ありがとうございました」とか「いらっしゃいませ」などと言う環境をつくれば、会社が明るくなるのではないかという狙いがありました。それに、BtoC を経験すれば、たとえ10 円でも大切にするという謙虚な考え方も身につく。あとは社内制度として社食をやれる仕組みもほしかった。そういう「従業員ファースト」な環境をつくって人材を呼び込もうと考えています。

そういった意図があるとは想像していませんでした。食品をつくるという、違った形のモノづくりを経験することで視野も広がって、思ってもみなかったおもしろいフィードバックが帰ってきそうですね。

「失敗は恐れるな」

これから先、日本の製造業が世界の中で生き残っていくためには何がカギになると考えますか。

設計力とチャレンジ精神。それ以外にないと思います。製造業はどうしても二重三重の下請け構造になっていて、大手メーカーは儲かるけれど下請け企業は儲かりにくい仕組みになっていますよね。でも、儲からないのは下請け企業側も悪いと言えます。言われたものをただ加工するだけではやはり稼ぐのは難しいけれど、設計力を鍛え上げて自社のアイデアを存分に加えてモノづくりを行っていけば、きっと稼げるようになる。そういう考え方の転換が絶対に必要です。言い過ぎかもしれませんが、設計力さえ高められれば発注側の大手メーカーを言いなりにすることだってできる。そういう変革が行える企業が生き残っていくのではないでしょうか。
あとは、恐れずチャレンジしていくことも大事です。われわれも「1 回やってみて問題が起きたら考えればいい。失敗は恐れるな」という方針です。失敗しても私は怒らない。むしろ挑戦しないことを怒ります。失敗した数が成長の根源で、最終的に自分の付加価値にもなるということをいつも教えています。

私も25 年ほどのキャリアの半分は金型設計に携わっていましたが、社内で教える立場になって若手に語れることって全部自分が失敗したことです。失敗は貴重で、私の設計技術のもとになっていますね。

私もたくさん失敗してたくさん怒られました。その関連で危惧しているのが中国です。中国は人口が日本の10 倍、ニーズも10 倍ある。ということは国単位では失敗も10 倍しているはず。経験数が日本とは大きく違うわけで、やはりいつか中国が日本を追い越してしまうのではないかと常に気にかけています。

さまざまなバランスをとりながら、失敗も長い目で見れば成長につながるという空気をつくっていくことが今後の考え方に必要になるのでしょうね。

世界シェアの拡大を目指す

最後に御社の今後の目標をお聞かせください。

やはり世界シェアの拡大ができればよいなと思っています。そのためにも国内大手メーカーの要求に応えられる技術力を養うことはもちろん、そうした企業では対応できない仕事を当社ができるようになって海外企業からもっと認められるようにしたいです。それによって売上げを何倍にも増やすことができれば、良い人材ももっと集めやすくなるので、良い会社にすることができる。そうして、いずれ株式上場のような形で会社としての価値が広く世の中に認められるようになればと考えています。

御社は設計力や技術力が核になっているのですが、社長の情熱をすごく感じました。情熱が会社を動かしているという印象を強く受けますね。

社長に情熱がないかぎり、社員は絶対についてきません。そして、その核には必ず技術力が必要。私がある意味スパルタ教育をするので、社員はきっと私のことが嫌いだと思いますが(笑)、やはり仕事をするうえで、人は自分より技術や能力が高いと思う人についていくものです。言ってみれば、けんか番長についていくか、学級委員長についていくかの違い(笑)。誤解を恐れず言えば、ルール無用でもいいからとにかく一番強くなる方が、中小企業の代表としては大事なんじゃないかなと思います。だからこそ、私を含めて中小企業の設計者・技術者の代表は絶対的に技術を一番知っていて、どんなときでも対応できるように知識を深めておかないといけないと思っています。

なるほど、情熱と技術力で未来に向けて伸びていくという意気込みが伝わります。今日は貴重なお話をどうもありがとうございました。
横田新一郎(よこた しんいちろう)
1997 年 拓殖大学 工学部 卒業
同 年 ㈱池貝 入社
2004 年 個人設計事務所(押出成形専門) 設立
2016 年  アクスモールディング㈱の前身会社[㈱フジグローバルワーク]共同設立
2017 年 同社の単独代表に就任
同 年 アクスモールディング㈱に社名変更

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