プレス・射出成形金型の製作とその金型を使った生産、プレス機械向け搬送装置など周辺機器を手がける型研精工(神奈川県伊勢原市)。自動車や電機など、さまざまな産業分野の精密部品を金型や独自開発の省力搬送装置による機電一体の知見で支えている。金型を中心とした基盤技術をさらに発展させるため、高機能工作機械や設計ツールなど先進技術の導入と人材育成を進めてきた。こうした着実な取組みは堅実な成長へつながり、2025 年12 月に創業50年を迎える。節目から次の成長に向けて進む同社をけん引するのが、千田亮一さんと土谷剛毅さんだ。2人に今までの経験から学んだこと、目指す姿を聞いた。
手応えと課題を認識して自分を磨く
型研精工は1975 年の創業以来、プレスと射出成形金型の設計・製作、それらの金型による生産を軸に技術と知見を蓄積してきた。さまざまな産業・民生品分野の高機能・高付加価値製品の部品を製造する金型とプレス成形に関する工程で、独自の思想に基づく革新的な方法を考案。また、精密向け分野では当時、世界最小幅の0.15 mm、128 本のピンがある半導体リードフレームをプレス成形する金型とそのプレス成形システム、3 mm 径のボタン電池の陰極を1 分間に400 個生産する金型とプレス成形システムを開発。同社の実績には「世界最小」、「世界最速」といった最上級を示す形容詞が常に連なってきた。
現在も鍛造品をプレス成形するような大きなサイズの金型から半導体検査装置部品やハイブリッド車(HEV)の駆動系部品の複雑精密・微細形状まで、あらゆる寸法・形状の部品の金型と成形に関する技術をもつ。金型・成形・プレス加工関連装置という3 つの事業の柱をもつことが強みだ。
金型を中心とした独自の開発・エンジニアリング力を備える同社。その競争力をさらに高めて、次の成長に向かおうとする同社には、金型の設計・製作の現場で着実に力をつけ、経験を活かして自らの力を磨き、仲間の力も高めようとする技術者と、本質を見抜き冷静に対応する技能者がいる。
金型の外販と成形品の製造を手がける同社にとって、高精度金型の設計・製作の知見・技術は生命線だ。その起点である設計部門の第一製造本部大分工場大分設計セクションOD で、中核としての役割を担うのが千田亮一さんである。生産、組立てなどの製造現場を経て設計セクションへ配属され、同僚や上司からの信頼が厚い。
中学卒業後は大分工業高等専門学校(大分高専)へ進学した。高専では基本的な機械工学の知識やロボットのプログラミングなど実践的な学問を学び、4~5 年の本格的な研究では医療工学について学んだ。専門的な内容を研究してきた千田さんは、高専進学前に定めた、将来のありたい姿をさらに深め、卒業後は生まれ育った大分県内で機械に関する仕事をしたいと考えた。そんなときに当時の学科長であった恩師から、地元の製造業として独自技術があり、手堅く事業を展開する企業として同社の紹介を受けた。卒業生が就職した実績があったことも後押しとなり、同社で技術者として自分の専門性を高めることに決めた。
現在、製品のデザインレビューから、金型の構造設計、各種金型部品の設計、成形速度の決定といった一連の設計業務を1 人でこなす。欠かせない戦力として与えられた仕事を確実にこなしながら、設計に関する専門性を高めることに努めている。
「一連の業務を1 人でやり切ることができるようになり、手応えを感じている一方で、現場の作業者の意見を積極的に取り入れ、組立て、メンテナンス工程の作業に負担をかけない金型の設計を考えています」と手応えと課題意識をもち、設計業務を行う。
課題意識をもっているのは、大小さまざまな失敗をしてきたから。以前、自分が担当した金型が、組立工程で、仕上げ技能者が部品を組み付ける際、誤って違う場所に組み込んでしまい、トラブルにつながってしまったことがあった。その思いから、自身が手がける金型構造や金型部品が技能者にとって作業をしやすいものかどうか、1 つひとつ考えて設計をしている。
失敗から学び、課題を意識して仕事に取り組む中で、原理や原則の重要性を再認識し、知識を増やして問題解決への対応力を磨いていった千田さん。そんな千田さんが、現在、注力するのが設計工程での3 次元(3D)CAD の活用だ。同社でも3D-CAD を導入することで、設計業務の最適化を進めており、その3D-CAD の運用の仕組みを構築することに取り組んでいる。
千田さんの上司にあたる大分設計セクションの田端雅樹部長は「一連の業務を1 人で完結できて、物事を柔軟に捉え冷静に対応できるだけでなく、新技術や新しい仕組みを自ら学んだり、適応したりできるので、中心的な役割を担ってほしいと期待していたところで、その役割を果たしてくれました」と千田さんを評価する。
「最初は3D-CAD 特有のコマンドの入力や操作手順、それに伴う作業工数の増加に戸惑いましたが、操作方法を理解して、慣れると、部品どうしの干渉チェックや完成形状の具体的なイメージの把握がしやすくなります。設計業務の効率化につながる重要な取組みとして大きな意味をもちます」(千田さん)。わかりにくい操作などは口頭での説明や紙の資料による伝達にとどまらせず、キャプチャ画面や動画を作成して、設計セクションの同僚たちが活用しやすいように運用の仕組みを整えることにも努める。大局観をもった視点で、全体最適を意識している。
小さな気づきが成形品質の向上に大きく貢献
設計と金型部品の機械加工の工程を経て、適切に金型が稼働するように調整を行う仕上げ部門にも、これまでの経験から学び、責任感をもって、金型づくりと向き合う技能者がいる。第一製造本部大分工場F セクションの土谷剛毅さんである。外販用の金型と自社で使用する金型の両方の組立て・調整と安定稼働をさせてきた中で身につけた抱負な知見と、さまざまな人と円滑にコミュニケーションを行う対人スキルが魅力だ。
プレス機械で金属部品を成形する、機械オペレーターとしてキャリアがスタートした。目の前のことを黙々とこなし、毎日仕事に向き合うと次第に、「途切れなく同じ製品ができるのって、すごいことだと思いました」と、金型やモノづくりについて興味が湧いていった。そうした中で、金型の組立て・仕上げと調整・メンテナンスを担当するF セクションへ異動になった。
「金型はじっくり見ると、類似形状の部品を成形する金型でも、金型部品はさまざまな形状があるし、構造が違うということに気がつきました。これまでプレス機械のオペレーターでしたが金型について深く考えていなかったので、新しいことがわかるのは何となくおもしろかった記憶があります」と落ち着いた口調で当時感じた驚きと興味を明かす。
「金型の隙間を調整するためのシム部品は、形が似ているので、確認しきれずに、本来は組み付ける部品ではないものを組み付けてしまうなど、それなりの失敗はしてきました」(土谷さん)。しかし、土谷さんはここでも目の前のことをこなしながら金型構造や組立て、磨きの技能を高めることに努めた。
そんな土谷さんはこれまでの印象的な経験として、初めて客先での金型の立ち上げ支援を1 人で行ったときのことを挙げる。金型のF セクションのメンバーとして、まずは社内で使用する金型の組立て・仕上げと調整・メンテナンスで経験と知見を身につけてから、外販の金型の組立て・仕上げと調整・メンテナンスを担当するようになる。土谷さんも力を付けたことが認められたからこそ、外販の金型を担当するようになったわけだが、「社内の金型でうまくいった手応えがあり、ある程度、自信をもっていました。しかし、それまでうまくいっていたのは、社内の成形部門の方や周りの人がうまくいくようにそれとなく導いてくれたり、ある程度のところで納得してくれたりしていたから、うまくいっていたんだと気がつきました」と土谷さんは振り返る。自分の知識や問題解決能力を磨く必要性を感じた。
自分を厳しく評価する土谷さん。そうしたストイックな姿勢が大きな成果を生んだ出来事があった。それは、ある精密部品の表面品質のばらつきを解消したこと。社内で金型内の製品の成形部分に近いところを始め、影響を及ぼしそうな箇所の金型部品の品質や構造を見直したが改善されなかった。設計部門に協力を仰いで、一緒に原因を追究しても見つからない。そんなとき、土谷さんが金型部品を調べ、加工工程が異なる境界部にわずかな段差があることに気がついた。図面公差上は規格内であり、誰もが見逃していた部分だった。設計部門に協力を依頼し、公差を見直すとともに、機械加工時の加工条件を見直し、最終的に段差が解消され、プレス成形品に影響が出なくなった。
この一件には千田さんも関わっており「よく気がついたなと思いました。設計やプレス成形担当者の視点だけでは気がつかなかったと思います。さまざまな金型に触れて、知見と経験を積んできた土谷さんだから気づけたのだと思います」と仲間を労う。
土谷さん自身は「製品に転写されているのがつぶれたような形状だったので、金型部品のわずかな段差が影響しているのではと思っただけです」と明かすが、これまでの地道な金型への向き合い方と知見・経験が成果となった出来事だった。
土谷さんの上司である第一製造本部大分工場OFP セクションの明石敏寛部長は「社内向けの金型、外販向け金型の両方を経験し、知見・経験だけでなく、コミュニケーション能力を高めていると感じます。特に海外ユーザーの工場での金型の立ち上げをまとめ上げたときは頼もしさを感じました」と信頼を寄せる。
後進に教えることで自分の成長にもつなげる
土谷さんも知見と技能を高め、他部門の仲間や上司からの信頼が厚い。そんな土谷さんは、外販向けの金型に関して客先での立ち上げ支援や不具合調整をした経験が今の自分を形成していると振り返る。「その当時は苦しいこともありましたが、今思うとその経験があったから今があると思います。自分が知っていることを伝えて、後輩が力をつけるのに役立ててほしいと感じます」と意識を後輩の成長に向ける。
千田さんは「手応えや自信を感じることもありますが、行き詰まることもあります。そんなときに先輩設計者に相談すると、すぐに答えが出たり、それとなく解決に導いてくれたりするのを目の当たりにすると、勉強が足りないと思い知らされます。自分も先輩設計者のようになりたい」と目標を見据える。
自らの役割を認識したうえで、堅実な目標を立てて、それに向かって研鑽する千田さんと土谷さん。次の成長に向かう型研精工の頼もしい存在である。