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型技術 連載「金型の未来を拓く技術者たち」

2025.11.04

原則・基礎・基本に忠実に、当たり前をやり切ることが良い金型づくりの近道―石原産業

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 自動車用ブレーキシリンダーの加工を祖業に機械加工技術を蓄積してきた石原産業(長野県上田市)。高機能工作機械の導入とその運用で独自技術の確立に努めてきた。現在は各種プレス・射出成形金型や自動車・半導体・医療機器向けの部品加工といった多領域へ事業を展開し、精密加工で先端技術を支えている。同社の高付加価値な加工技術の源泉には、自ら考えて行動し、全体最適を志向する若手社員の存在がある。
羽野 雄一さん(左)と三川 恭平さん(右)

羽野 雄一さん(左)と三川 恭平さん(右)

入念な準備が品質を決定する放電加工のおもしろさ

 自動車部品という大量生産のモノづくりを手がける中で、機械加工技術の基礎と効率性を重視した仕組みを築き、コスト競争力を磨いてきた石原産業。1976 年には自動プログラミング装置付ワイヤ放電加工機を導入し、86 年にはNC プロファイル研削盤、87 年にはNC 形彫り放電加工機を導入。自動化技術やNC 工作機械を積極的に導入し、合理化を進めた。そうした先進性は着実に根付き、95 年には大手通信事業者の研究所との取引きを始め、ハンドセットや環境センサを納入。光ファイバや半導体に関する特許も取得し、研究開発に関する経験、ノウハウの蓄積や、大学をはじめとする研究機関とも関係を構築して単なる機械加工業にとどまらない事業領域を広げた。

 2010 年代には、精密電解加工機や微細レーザー加工機、ガンドリルなど、特殊用途の工作機械を続けて導入。基盤の機械加工技術に関する設備投資と加工技術の確立に絶えず努めてきた。

 最近では建設機械などの鋳物部品や医療器具の加工用途として、5 軸マシニングセンタ(MC)や高剛性・低重心により各軸の倒れを抑制した高精度仕様のワイヤ放電加工機を導入するなど、高付加価値な加工技術の獲得に取り組んでいる。
羽野 雄一さん(左)と三川 恭平さん(右)
 さまざまな機械加工技術を有する同社であるが、独自技術の一つが放電加工技術である。例えば、45°のテーパカットが可能なワイヤ放電加工機を保有し、金型加工に加えて、自動機用や医療機器分野の精密形状に対応する。三川恭平さんはワイヤ放電加工の部署を振り出しに、経験を積み、研さんしてきた。現在は製造部製造グループ切削チームでMC のオペレーターとして射出成形とプレス金型の部品加工を担当し、加工に関する知識・技能とリーダーシップを磨いている。県内出身の三川さんは地元で就職することをイメージし、友人に誘われて工場見学し、興味をもった。入社後はワイヤ放電加工機での超硬合金製の金型部品の加工を担当することになった。

「工作機械の操作経験や金属についての専門性があるわけではないので、教わることがすべて新鮮でした。ワイヤ放電加工はゆっくりと確実に進む加工です。さらにその前の工程で、加工物にワイヤを通す下穴をあけるのに、MC に非常に細い工具を取り付けて穴をあけることや細穴放電加工機を使用して下穴をあけるなど入念な準備が必要なことにじっくりとモノづくりに関わっている実感が得られ、おもしろくなりました」と振り返る。
羽野 雄一さん(左)と三川 恭平さん(右)
 こうしてスタートした三川さんの機械加工技術者としてのキャリア。日々の仕事を着実にこなす中で成長の手応えも実感できた。それは、ワイヤ放電加工機の操作について、メーカーのサポート担当者に自分の希望を伝えて、加工品質の改善につなげたこと。三川さんは自分自身について「自分の希望や都合を適切に言語化して、相手に伝えることは得意な方ではない」と認識している。しかし、ワイヤ放電加工の担当者は前任者から引き継ぎを受けたばかりの三川さん1 人。加工に関する技術的な課題は自分が行動しなければ改善されない。自社のワイヤ放電加工の工程など、状況を整理したうえで希望をメーカーのサポート担当者に伝えて改善につなげた。

「加工技術やワイヤ放電加工機について、メーカーの担当者と対等に話せるように自分でも勉強したことに加えて、当社の業務工程・仕組み・条件を理解してもらったうえで効果的な方法を提案してもらえるように考えました」と、社外の関係者と協力して物事を良い方向に進める方法を自ら体得した。この経験はMC 加工の担当になった現在でも自信になっている。

精度を高める仕上げ工程に携わる責任を力にする

 設計から切削、放電など機械加工の工程を経た金型部品の精度を高め、仕上げる研削工程。特に精密な金型部品が組み込まれ、何万回も稼働するプレス金型の土台となるプレート部品の平面・平行度を決定づける平面研削加工は、高付加価値な部品の金型を手がける同社の生命線である。その研削工程の中核として、同社の金型づくりを支えるのが羽野雄一さんである。
羽野 雄一さん(左)と三川 恭平さん(右)
 現在は平面研削盤のオペレーションに加えて、プロファイル研削盤の操作の習得に励んでいる。羽野さんは「狙った通りの寸法に収まると達成感を覚えます。大前提は、『図面をよく見て確認する』こと。そのうえで大切なのは『加工の原理と原則に基づいた作業をする』こと、『研削液や室温など加工する場所の環境を機械にとって理想的な環境に整える』ことなど、基礎・基本に忠実であることです。時間がかかっても、当たり前をやることです」と落ち着いて話す。こうした諦観にたどり着いたのは自身が基礎・基本を怠ったことによる失敗を経験したため。

「寸法と交差の確認をしなかったことが大きなミスになってしまったことがありました。研削工程は終盤の工程なので、ミスがあると追加工したり製作し直したり、ほかの工程にも影響して、納期遅延につながります。些細なことでも手を抜いてしまったことにより、自分だけでなく、ほかの工程に負担をかけてしまいました」と苦い経験を語る。

 その一方で自分の感じたことや経験を活かし、自信を深めたこともあった。

「ほかの人がいくらやっても満たせない直角度があり、自分が引き継いだことがありました。脱脂など手順通りの工程をていねいに行い、加工前に砥石と加工物、機械の状態といった確認するべきポイントを見直すことで、その直角度が満たせました」(羽野さん)。自分の失敗から学んだことを活かし、仲間の窮地を救ったのである。

 また、羽野さんは後輩のフォローをすることで新しい気づきを得て、日々の業務に活かしている。同じ部門にいるベトナム人の後輩に作業手順を伝えたときのこと。研削盤への加工物の置き方を伝えたが誤った配置をして作業していたことがあった。

「もっとかみ砕いて説明して、実際にやって見せる必要があると感じ、今はそうしています」(羽野さん)。さらに知っている作業でも、その背景や理由を知らない場合があることに気がついた。

「そうしたことを振り返って調べてみると、社内で決められていた回転数や切込みはもっと大きくしてもよいことなどがわかりました。人に教えることで、自分の知識が整理され、仕事の進め方の見直しができます」と羽野さんは後輩を指導することが自身の知識やノウハウにつながると説明する。

 今、羽野さんが所属する研削工程の部門では作業標準書の整備に取り組んでいる。

「個人の技能でうまく仕事が回っていたので問題にならなかったのだと思います。一方でこれから職場の多様性は進むので、作業手順の明確な説明や条件、その背景などを定量的な資料として整理することが必要だと感じます。それが間違いのない加工、金型づくりにつながっていくはずです」(羽野さん)。自分だけでなく、部署、全社の最適な仕組みを志向する広い視野をもっている。

原則・基礎・基本に忠実であること

 当たり前を確実にやり切る重要性を三川さんも強調する。自身も些細な手順を踏まなかったことによる失敗を経験した。ツールホルダにエンドミルを取り付けたときの締結力が足りず、加工中にエンドミルが外れてしまった。

 「『強く締めた』という感覚を頼りにした段取り作業をしてしまいました。本来は適切なトルク値でエンドミルを取り付けられているかどうかを測定器具を使用して確認しなければならなかったのに、その手順を踏んでいませんでした」(三川さん)。その結果、エンドミルが外れたまま切削が進んでしまった。三川さんも羽野さんも原則・基礎・基本に忠実に仕事に向き合う。

 そうした心がけをもちつつ、三川さんは機会を逃さず、チャレンジすることとその振り返りを継続することで、自己の能力を高めることを心がけている。MC 担当になってから、同業他社で導入した切削工具を自社で導入した際の具体的な効果を検証し、その結果を整理し、経営層が判断しやすい情報にまとめて報告。現場へ導入した。その結果、ある金型部品の加工時間を50 %以上削減した。

「高送りカッターは導入時のコストは高いのですが、インサートの表面と裏面が使用できること、加工効率を考えると従来使用工具より安くなることを、数値とともに経営層に提案しました。定量的な検証・評価を行い、その情報を整理し、物事を進めて改善に結び付けることができ、手応えを感じました」と客観的に自己を評価し、自信にして次へのモチベーションにする。一方、羽野さんは最近強く意識していることがある。それは形状や寸法など適切な加工品質を満たしながら、効率を向上させること。品質は、従来通り、手順や決まりを守った作業が確かな方法だと考えている。効率は加工スピードを上げるために、砥石の回転数や切込み量といった加工条件を見直すこと。その中でうまくいったことを基準にすることを考えている。

 藤田誠取締役製造部長は「新しい技術の効果を検証し、周囲と協力しながら仕事を進める姿や会社全体のことを考えていることが伝わり、2 人に頼もしさを感じます。今後は後進をフォローして自分の知識や技能を高めつつ、マネジメントの視点を身につけてほしい」と期待する。

 自身も成長の手応えを感じ、周囲からの信頼も厚い三川さんと羽野さん。独自の技術でモノづくりを支えている金型メーカーには、失敗から学び、自ら能力を磨きながら、全体最適や後進の成長への意識をもつ、誠実な技術者がいる。

※取材先の意向により仮名で掲載しています。

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