自動車の内外装部品の射出成形金型の製作が主力の明輝。フロントグリルや各種バンパー・パネルなど、デザインと密接に関わる部品を成形する金型は、部品同様に絶妙な曲線や表面品質などの形状精度に加え、成形性を高める機能・機構が盛り込まれるため構造が複雑になり、製作難易度は高い。高付加価値部品を成形する金型づくりの最前線で、誠実に仕事に向き合い、手応えを次の成長につなげる明るい若手が活躍している。
左から、加藤亜弥乃さん、和田健吾さん、北村創太さん
自動車や家電の最大手メーカー向けに金型を供給
明輝は自動車の外観デザインと密接に関わるフロントグリル・バンパーや内装の各種パネル、ドアトリムなど大型部品に加え、エンジンと関係が深いインテークマニホールドなど、自動車の性能を支える重要部品の金型を手がける。
トランジスタラジオやブラウン管テレビ、家庭用ビデオデッキなど音響・映像機器からゲーム機など、時代を支える必需品と人々の生活を豊かにする高付加価値製品の金型づくりを手がけることで社会・経済の成長を支えてきた。2000 年代に入り、さらなる成長を目指して自動車部品分野の金型へ参入。新たな金型ユーザー獲得のために、全社一丸で知見・ノウハウの獲得に向けて取り組み、学んでさらに研究することで実績を積み重ねた。そうした姿勢が評価され、現在は日産自動車や本田技研工業、SUBARU など大手自動車メーカー、Tier1 向けに金型を供給し、世界の自動車製造を支える。国内外の社会・経済が発展するための土台を構築することに大きな役割を果たしてきた金型メーカーである。
こうした生い立ちをもつ同社をさらなる飛躍に導くのが3 人の若手だ。
ガンドリル運用し、穴加工の生産性を向上
ガンドリルでの穴加工を担当する北村創太さん。明輝の生産性の優れた金型づくりに欠かせない技術・知見をもつ技術者の1 人だ。
射出成形の生産性は適切かつ効率的に金型を冷却し、成形サイクルを早めることが重要なポイントの1 つ。効率的な冷却のためには、冷却水が機能するように通過する精度の高い穴が必要になる。穴は基本的な形状であるが、直径や真円度、真直度といった寸法、幾何公差に関することに加え、方向や深さが関連すると考慮することが複合化する。特に冷却水が通る穴は深さがある場合があり、大型部品を成形する金型はそのサイズに応じて穴は深くなる。深くなるほど、工具剛性や切りくずの排出など、最適な条件の選定に時間がかかる。こうした課題への対策として浮かび上がったのがガンドリルでの加工。北村さんは最適な加工条件を含む、段取りや各種管理項目を洗い出し、整理することで、ガンドリルを自社の現場で有効に活用する仕組みに携わった。
入社後3 年間、立形マシニングセンタ(MC)でキャビティやコアを加工することで、加工や金型に関する知識を付けてきた。実践を通して仕事を覚え、確かな仕事ぶりが評価され、新型MC ガンドリルの導入の担当を任せられた。任せられて半年は工具の折損や狙った穴径にならないなど苦労を重ねた。そうした中で、切削工具メーカーのセミナーに参加し、切削工具の刃先やコーティング、切削条件についての考え方を学び、それをガンドリルに応用し実践することで勘所をつかみ、現場での加工に活かした。着実な取組みは実を結ぶ。大きな成果が出た。フロントグリル成形用金型の冷却穴の加工時間が2/3 になった。
「達成感を得るのと同時に自信になりました」(北村さん)。最近は、より効率的な加工ができるように、切込み量や回転数を高めた加工条件を適用するための方法についてもめどが付いた。これまで工具のカタログに記載された条件から送り速度など各種条件を大幅に落としていたが、今はほぼ同程度の条件でも不具合なく加工する方法を見つけた。上司である生産管理部製造部AMC・BMC・穴グループの松本佳史次長は「物事に対して素直に反応して、しっかり向き合って成果を出してくれる。安心して任せることができる」と信頼を寄せる。北村さんは自身が感じる手応えを次の意欲に結び付けて、加工と向き合う。
モノづくりの現場とユーザー対応で得た手応え
設計と各種機械加工の工程を経た金型部品を組み上げ、金型として機能を満たすように磨きや微調整などを施す工程の仕上げ。金型製作の佳境で厳格な工程である。一方で仕事を受注する営業部門もまた金型製作現場とは違う厳しさがある。金型製作の仕上げ担当を経て、現在は営業部門で同社の事業展開の一翼を担っているのが和田健吾さんである。
金型のばらしや新規金型の組立ての実務で、構造や部品について学び、金型の機能と成形品の品質を決定づける磨きも担当した。知識面と技能面で能力向上に努め、実務で経験と実績を積み重ね、円滑に業務を進められるようになると、ユーザー先での立会いも任せられるようになった。
「社内で金型の仕上げ、ユーザー先での立会いを経験したことで、知識・技能に加えて、『相手の話を聞く』という能力が磨かれたと思います」と客観的に振り返る。苦い経験もした。立会い時に金型を成形機に搭載し、調整作業を行う際、誤って破損させてしまったことがあった。
「量産開始日程が決まっており、間に合うように修理できるか非常に危うい状況になってしまいました」と和田さんは当時の状況を明かす。最終的にはスケジュール通りに量産を開始できたが、社内外に負担や心配をかけたことに責任を感じた。この件に関して自身の仕事を振り返り、原因を検証。たどり着いたのは「思い込みで作業したこと」だった。
「初めて見る金型構造だったのに、従来と同じ意識で作業をしてしまった。全体を確認してから最適な手順・方法を考えて慎重に作業をすれば防げたことでした。結局、『確認して慎重に作業する』、『緊張感をもって仕事に臨む』という意識が足りなかったのだと思います。『基礎・基本が大事』ということを理解しているつもりでしたが、実際は非常に重たい意味をもつことを再認識しました」と振り返る。
現在所属する営業部でも、この認識を常にもっている。最近、重要な取引先に自社の技術や取組みなどを説明する機会があった。営業担当者としての真価が問われる場面である。通勤・帰宅時の車内で、話す内容や順序を考え、実際に声に出す練習を積み、当日に臨んだ。結果は相手の表情でわかった。上司からもねぎらいの言葉をかけられた。
「これまでも顧客は自分より年上の方が多く、自分が話す内容や間の取り方、相手の話への反応の仕方など、どうしたらよいかわからず悩むこともありました。今でも正解はわからないのですが、相手のことを考えて、どんな話し方をすればわかりやすく伝わるか、信頼を得られるか、自分なりに考えて臨んでいます」と日頃の心がけを明かす。課題克服のために自ら考え、次の成長につなげている。
基礎・基本に忠実に、確かな土台をつくる
成長の手応えを実感し、ステージアップを迎えつつある人材がいる一方で、フレッシュな人材がモチベーションを高くもち、金型製作に臨んでいる。
加藤亜弥乃さんはMC オペレーティングとCAM による加工データの作成を担当する。工具を取り付けたツールホルダをMC のツールポッドに設置する段取り作業や機械操作を行う。「機械の操作を理解し、比較的小さい形状の加工ができるようになったと思います。1 人で対応できる機械アラームも増えてきました」と金型部品加工のおもしろさがわかり、できることが増えていることに加藤さんは手応えを感じている。任せられる仕事が増えてきた。一方で、「焦って仕事を進めてしまうことがある」と反省する。MC の主軸を加工ワークにぶつけてしまったことがあった。「ポイントを一つひとつ確認すれば防げた」と振り返る。凡事徹底の重要性を自分の失敗から学んだ。今、加藤さんには取り組みたいと考えていることがある。機械アラームの対処方法をまとめた資料づくりだ。仕事を覚え、実務担当者として業務を遂行しながら、自分が教える立場になったときのことを考えている。
「いろいろな機械アラームがあるのですが、発生すると機械が停止し、効率が落ち、スケジュールに影響が出ます。確認のポイントはさまざまありますが、『治具に切りくずが挟まっていないか』、『工具測定機器に切りくずが付いていないか』といった基本を確認すれば機械アラームが減る可能性があります。ポイントを盛り込んだマニュアルを作成し、教える側も教わる側も仕事をしやすくしたいと考えています」(加藤さん)。上司であるCAM 課の加藤千明課長は、「こちらが気づかなかったことを指摘してくれる。自分のことだけでなく周りをよく見て考えて仕事しているので頼もしい」と評する。自身が感じたことをもとに会社全体が最適に機能するための視点をもっている。
これまでの手応えを自信にさらなる成長へ
3 人がそれぞれの役割と現在の仕事への取組みを客観的に評価し、次の目標を定めている。
北村さんは作業者の身体的な負荷を軽減する方法を考えるようになった。「バンパー成形用のような大型の金型に関する加工を担当するようになって治具を揃えたりする手間や作業で身体的な負荷が気になっています。自分も年齢を重ねますし、人材の多様性が進むので、身体的負荷がなく、安全な金型づくりの仕組みを構築したい」と将来を見据える。加藤さんも同様の意識をもつ。そのための方向性として、自動化について考えるようになった。
「現在、5 軸MC のオペレーティングを任せてもらっているので、間違いなく仕事を進めること。そのうえで働きやすい工場環境にする提案をしたい」と明るい。そして、工場と対外的な仕事の経験をしてきた和田さんは「顧客と深い話もできるようになってきた手応えがあります。謙虚に学びながら、若手ならではの気づきを発信したい。会社を引っ張っていく存在になりたい」と自身の役割を認識している。営業部の青柳英輔部長は「営業中にうまく話せず、厳しいことを言われたこともあったと思うが、今は仕事ぶりを周囲が認めている。営業担当者として立ち振る舞い方だけでなく、金型技術と現場のことにも関心をもって学び続けてほしい」と期待する。
自らを高める意識が強い若手が金型の名門の未来を拓く。