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プレス技術 連載「モノづくり革新の旗手たち」

2026.02.18

転換期こそ積極姿勢 研削加工を武器に新規顧客を掘り起こす―ミスズ

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㈱ミスズ 代表取締役社長
宮川隆造氏

 研削加工を軸に精密金型や半導体・各種製造装置の部品加工を手がけるミスズ(長野県千曲市)。自動車分野をはじめ製造業全体に停滞感が漂う中、新規顧客獲得を目指して積極的な営業活動を続ける。根底にあるのは「やらないよりは、やった方がいい」という宮川隆造社長の信念。リーマン・ショックやコロナ禍でもチャンスを掴むための試行錯誤をやめなかった。製造業の転換期、経営者として何を考え行動しているのかを聞いた。
――展示会で御社のブースをよく目にします。

宮川
 もう15~16 年は続けているでしょうか。「諏訪圏工業メッセ」に千曲市内の企業として合同で出展したのが最初です。出展を勧められて、はじめは「面倒だな」と思っていたのですが、実際に出てみると同業の先輩経営者との横のつながりができてとてもおもしろかった。今では大小を含め年間20 弱の展示会に出展しています。私自らブースで製品をアピールしますが、最近では若手社員の活躍により、彼らに会いにブースまでお越しいただく来場者も多くいらっしゃるんですよ。

――精密な加工サンプルが注目を集めています。

宮川
 
機密保持の観点から、お客さまの依頼でつくった部品は展示できません。では、サンプルとして何を展示したら興味をもってもらえるか。社内でアイデアを出し合い、「前の展示会に出展したものを超えるサンプルをつくろう」と挑戦しています。プロファイル研削でつくったWi-Fi マークのサンプルはその一例です。やったことのない加工なので当然、失敗もしますが、失敗しながらつくることで新しい技術を習得できる。事実、展示会向けにサンプルをつくるようになってから社内に蓄積された技術はかなりの数に上ります。
展示会向けにつくられた加工サンプル。技術力をアピールするためにどんなサンプルをつくるか社内で知恵を絞る
「鏡面プロファイル研削加工」サンプル(写真提供:ミスズ)

「鏡面プロファイル研削加工」サンプル(写真提供:ミスズ)

――宮川社長にとって展示会に出るだいご味は?

宮川 
 やはり人に会うことによって発生する熱量、そこから生まれるワクワク感ですね。オンライン展示会でも情報は得られますが、熱量がないとせっかく得た情報を活かせないまま終わることが多いのです。当社はコロナ禍でも可能な限りリアルで出展していたのですが、おもしろいことにリスクをとって出展していた者同士で交流が生まれ、来場者との親交も深まりました。リスク回避のためにオンライン出展していたらあの出会いはなかった。出展してよかったと思っています。

型材とコーティングをセットで提案

――改めて御社の沿革を教えてください。

宮川 
 創業者である私の祖父が地元企業から金属加工を請け負う宮川製作所を1980 年に立ち上げたのが始まりです。その後、地元の金型メーカーで修業した2 代目社長である私の父が研削加工を軸に事業を展開。祖父の頃は手作業や汎用機を使っての加工が主力でしたが、父の代になり、精密加工の需要が高まるにつれて金型関連の仕事が増えていきました。現在はCNC 成形研削盤9 台、CNC プロファイル研削盤8 台のほかワイヤ放電加工機や各種測定機器を保有する一方、マシニングセンタを1 台も保有していないちょっとめずらしい部品メーカーです。2003 年には社名を宮川製作所からミスズに変更しました。

――宮川社長は非常に若くして社長になったとか。

宮川 
 高校卒業後、アメリカで生活していたのですが、社長をしていた父の体調が思わしくないと聞いて帰国し当社で働き始めました。現場でプロファイル研削を担当しながら営業にも携わり、父が亡くなった後、2006 年に24 歳で社長になりました。何もわからず失敗の連続でしたが、まだ若かったせいか、先輩の社長方がいろいろと助言してくれて本当にありがたかった。お客さまも厳しいながらも、何かと当社を気にかけていただきました。そして、創意工夫を繰り返して、ともに成長してきてくれた社員のおかげで当社の“今”があると感謝しています。

――現在の主力製品は?

宮川 
 当社が最も得意とするのは超硬合金の研削加工です。そのため、超硬のパンチやダイなどの金型部品が主力です。中でもスマートフォンのコネクターや車載用電装部品などをプレス成形する際に使う、薄板を高精度に加工するための金型部品が多くを占めます。樹脂のインサート成形用の金型部品も一部手がけています。最近はインサート成形用の金型でも超硬を必要とする部品が増えているので、当社にお声がけいただくようです。金型部品以外では、半導体の製造工程で使う精密治具や搬送用の爪なども手がけており、ここにも当社の研削加工技術が活かされています。

――プレス金型部品で最近需要が多いのは?

宮川 
 コーティング込みで超硬の金型部品を注文いただくケースが多いですね。当社は超硬を扱う国内の材料メーカー十数社と取引があり、数ある超硬材料の中からお客さまの要望に合った材料を提案できます。コーティングも無数に種類がありますが、当社ではコーティングと型材との相性を考えて提案できるのが強みです。大手の金型ユーザーの場合、新しい金型部品を試す機会が少ない。そのため、「トライする機会があれば、新素材の金型部品を使ってみませんか?」と積極的に提案するようにしています。使っていただいた結果をヒアリングすることで、型材やコーティングの選定ノウハウも蓄積できるというわけです。また、当社は部分加工も得意なため、使用済みの部品(パンチ、ダイ)の再研磨や不具合品の修正加工もお声がけいただくことが増えています。
「鏡面プロファイル研削加工」サンプル(写真提供:ミスズ)
同社の現場では女性も活躍する

同社の現場では女性も活躍する

安定量産を実現する金型部品を提供

――加工技術にはどんな特徴がありますか。

宮川 
 当社の場合、部品公差で±1~2μm、ダイクリアランスで2~3μm の金型部品が圧倒的に多いので、厚さ0.5μm の超薄膜であってもコーティングの厚みが加わると部品がはまらなくなります。そこでコーティングの厚みを見越した加工により、金型を組む際も量産中もトラブルのない金型部品を目指しています。寸法公差で言えば、いかに±0 を目指すかを重視します。たとえ0.1μm でもプラスであればプラス、マイナスであればマイナスとはっきりスタッフに指摘し、妥協しません。そういう意味では、当社はかなりストイックです。また、研削加工がコア技術なので、できる限り直角と平行を出すよう心がけています。直角や平行が出ているからこそ部品同士を組み付けやすかったり、組んだ後の刃先のずれがなかったりと、使用感に雲泥の差が出ると考えてのことです。
同社の現場では女性も活躍する
成形研削(上)とプロファイル研削(下)とでは必要とされる技術センスが異なるという

成形研削(上)とプロファイル研削(下)とでは必要とされる技術センスが異なるという

――付加価値で差別化を図っているのですね。

宮川 
 当社が手がけているのは部品なので、安く手に入れようと思えば海外メーカーから調達することもできます。一方で、当社に依頼いただくお客さまは、ショット数が多くなっても安定量産できる金型部品、製品のアップデートに伴う金型の高精度化に追随できる金型部品メーカーを求めている。すぐに手に入る安さではなく、少し先を見越して声をかけていただいています。われわれも、部品を売っておしまいではおもしろくない。「ミスズの部品はよかった。また注文したい」と言っていただける関係性を築ければと考えています。

――金型ユーザーにとっても技術的なレベルアップについてきてくれる金型部品メーカーは貴重です。

宮川 
 それを乗り越えたからこそ、今があると思っています。当社が得意とする鏡面研削は主要顧客からの高い要求の結果、習得したノウハウです。私が20 代の頃、「鏡面を達成できないなら、今後は仕事を出せない」と通告され、試行錯誤の末に技術を確立しました。鏡面研削と手磨きとの違いは、部品刃先のシャープエッジの確保、手磨きでは崩れがちな平坦度を担保できること、そしてツールマークを一定方向にできることです。摺動部品のように動く方向が決まっている場合、鏡面研削部品に優位性があります。鏡面研削加工で仕上げた面は、コーティングとの相性もいいんですよ。

待っていても仕事は来ない

――現在の経営環境をどう見ますか。

宮川 
 転換期と捉えています。同業の経営者に聞いても、コロナ禍が収束してからの方が仕事は動いていない。金型業界全体がそうだし、製造業も自動車業界に振り回されている印象です。厳しい状況ですが、これが現実だとすれば受け入れてこの景況感の中で生きていくしかありません。「いつか元に戻るのではないか」と漠然と考えて、待っているだけでは仕事は減る一方でしょう。今の状況をチャンスとして捉えて、何か新しいことをやらないと。「転換期は動く」を肝に銘じています。

――例えばどんな活動を?

宮川 
 リーマン・ショックで仕事が少なくなった時期は展示会のサンプルづくりに注力しました。そのサンプルが技術アピールとなり、結果、現在のお客さまからの引合いにつながりました。コロナ禍では社内に目を向けて「ミスズ新聞」という社内報の作成を始めました。社内はもちろん、社員の家族、一部の取引先へも発信しています。また、近隣に「姨捨(おばすて)の棚田」という日本遺産の田んぼがあるのですが、そのオーナーに応募して社員みんなで米づくりを始めたのもコロナ禍がきっかけです。社員や取引先とのコミュニケーションが不足しがちな時期に、人と人との距離を大切にし、時間を共有することをあきらめなかった。何かと設備投資に頼りがちですが、必要なことを見極めて地に足をつけてやっています。結果、社内業務の円滑化やコスト意識の共通化ができ、目下のコスト高への対応策にもつながっています。
日本遺産「姨捨の棚田」での米づくり(写真提供:ミスズ)

日本遺産「姨捨の棚田」での米づくり(写真提供:ミスズ)

――新規顧客獲得に向けては?

宮川 
 気になる分野の顧客に営業をかけています。例えばコロナ禍でぐっと市場が拡大した食品製造。この分野はオートメーションの依存度が高いと思っています。また、今後は安全性や生産性を高めるためにさらに高精度な部品が必要になる可能性が高い。参入が難しいと言われる医療関連も、医療機器の製造工程で使われる治具や部品ならチャンスがあります。主力の金型部品では、金型・プレス加工メーカーにもっと当社の製品を使ってもらえるよう付加価値を高めていく方針です。

――今後の目標は?

宮川 
 「ミスズに頼めば大丈夫だ」と言われる立ち位置で部品づくりをしたいですね。日本メーカーを下支えしたいという気持ちがあるからこそ、「オール・メイド・イン・ジャパン」にもこだわります。せっかく日本でいいものをつくっているのだから、安売りはしたくない。それがモノづくりに携わる技術者を支え、最終的にお客さまのメリットになると信じています。
みやがわ りゅうぞう:1982 年12 月28 日生まれ、42 歳。高校卒業後、視野を広げるため単身渡米。2003 年に帰国しミスズ入社。2006 年から現職。音楽好きでバンド活動にも勤しむ。

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