自動車のトランスミッションやシートベルトの部品など、走行性能と安全・安心に関わる部品を大手自動車・部品メーカー向けに製造する豊島製作所。板鍛造技術と金型製作技術を両輪に、各種成形技術も適材適所に駆使しながら、生産性・コスト競争力を高めて、手堅く事業を展開してきた。自動車の高性能・高機能化の進展に伴い、搭載される部品に対して要求される基準は高まっており、プレス部品サプライヤーに寄せられる期待は大きい。品質・納期・コストを磨いてきた実力派プレス部品メーカーのさらなる飛躍のカギを握るのは、たたき上げで力を付けた若いリーダーと入社3 年目の向上心あふれる金型技術者である。
高度な塑性加工技術を効果的に運用
1945 年にスピーカー部品メーカーとして創業した豊島製作所。時機に応じた最新鋭の設備の導入による、製造技術の高度化とコストの最適化、製品の高品質化に向けた蓄積と研鑽を継続してきた。オートバイや自動車などの分野に事業領域を広げ、手堅く事業を展開。自らを磨く取組みを決して止めることなく、板鍛造と精密打抜きなど各種成形技術を適材適所で運用し、顧客が求める品質・機能とコストを満たすプレス部品を供給している。
自動車の乗り心地や燃費に影響する要素であるトランスミッションや安全の基幹であるシートベルトなど、走行性能や安心を保証する確かな機能を発揮する高信頼性と最適なコストが求められるプレス部品のサプライヤーが豊島製作所である。部品の成形を担う、同社の最前線の部品事業部製造部と金型製作を担う技術部には責任感と強い向上心をもって仕事に向き合う頼もしい人材が活躍している。
気合と改善意識で生産性を高める
川島優さんは製造部の課長として、部下の作業支援や指導など、管理職業務のかたわら、自らも製造ラインに入り機械オペレーションを行うプレイングマネージャーだ。組織が円滑に機能するように俯瞰しながら、製造に関する実務をこなす。
高校卒業を控えた進路選択時に、地元で、ワークライフバランスを実現できる会社・仕事を考えていたとき、豊島製作所を知った。入社後は、プレス機械のオペレーターとして、知識を蓄積した。
「『定時の間にどれだけ多くの生産量をこなせるか』というシンプルな仕事です。単発の工程で、金型の上型が降りてきて形状を成形したら金型が開いて、加工が終了した製品を取り出し、新しい材料を入れるというルーティンです。気合と根性が出来を決定づけます。でも、いかに早く作業手順をこなすかということを考えると、下死点から金型が上がってくる間に次の動作の体勢になり、すぐに動ける準備をしておく必要があり、そのためにどうするかということを自分なりに考えていました」と川島さんは当時の仕事の仕方を振り返る。操作するプレス機械の動作時の微妙な癖も把握することで、日々の出来高を安定させることにも取り組んだ。
同じ機械オペレーターの立場で、現在は川島さんと同じ課長職の諸星拓弥さんは「すごい量をこなすヤツだと思って、『自分が追い抜いてやろう』と思ったけど追いつけなかった」と脱帽する。根気強さに加えて、作業の改善意識とプレス機械の癖の把握という独自の高度な工夫で川島さんは生産性を高めていた。こうした仕事ぶりは社内で確実に評価され、製造の実務者から、後輩・部下の指導・マネジメントを担う主任、係長と、たちどころに責任のある立場を任せられるようになった。
仕事のしやすさ、高みを目指す雰囲気づくり
マネジメントも担うようになった川島さんが心がけていることの一つが、若手や部下が臆せずに相談できる雰囲気づくりである。
「入社当時、上司だった主任の方は粘り強く教えてくれて、不明点や相談に対応してもらえ、安心して仕事ができました。自分も指導する立場になったら、当時の主任のように立ち振る舞おうと心から思いました。改めて今、『教える』というのは多くのエネルギーを使う行為だとつくづく感じますが、最初に抱いた気持ちを忘れないようにしたい」と感謝を示し、決意を語る。現在、部下には、年下だけでなく、自身より社歴が長い年長者もいる。そのことに対して川島さんは「若手は先輩や上司に話しかけづらいものだし、年長者も、自分より若い上司に対して、いろいろな思いがあって話しかけづらさを感じているかもしれない」と考えている。そのため、不明点や相談にはていねいに対応し、失敗やマイナスの内容の報告はとがめないことを守っている。
「不明点やトラブルは、相談・報告しづらいから隠してしまいがちです。でも、あとで発覚したときには取り返しがつかないこともある。そうしたことを防ぐのは、結局はコミュニケーションがしやすい雰囲気だと思っています。その一方で危険なことや不正など、注意・指導が必要なことに対しては、年下・年長者に関係なく毅然と対応します。難しいこともありますが、課長としての責任をしっかり果たしたいです」と強い気持ちをもっている。
自分が部下だったときの思いを常にもち、考えて行動することで、現場のモチベーションを高めようと取り組んでいる。
自分の次の世代が仕事をしやすい環境を整える
仲間や部下に寄り添う若いリーダーがいる一方で、まっすぐな気持ちで目標に向かって知識や技能を高めようとする意欲的な技術者がいる。𠮷川瑛二さんは入社3 年目。現在はワイヤ放電加工機のオペレーターとして新規で製作する金型や、金型の保全・修理で必要になった金型部品の製作を担当する。
入社後半年間は金型の組立て・仕上げやメンテナンス業務に携わり金型の基本を理解していった。
「金型は図面の寸法通りにできている部品を組み合わせても、良品が成形できなくて微調整を加えて仕上げます。パンチやダイの高さの調整などが必要です。原理を理解し、適切な作業が確かな品質になります」と𠮷川さん。基礎基本の重要さを認識している。
現在、𠮷川さんはワイヤ放電加工の担当として、「高機能な機種のオペレーションを任せてもらっていることは誇らしく感じます」と表情には自信がみなぎっている。しかし、配属当時は自分でマニュアルを読み込み、操作を覚える必要があり、苦労した。原因は、コミュニケーションである。前任者は𠮷川さんより年上で、どことなく聞きづらい雰囲気があったことを振り返る。川島さんの指摘に重なる点だ。
一方で、𠮷川さんは「前任者も戸惑っていたのかもしれない」と思いをはせる。「段取りや加工精度を維持するためのポイントなど、その人はわかっているけれど、教え方や伝え方がわからなかったのだと思います」(𠮷川さん)。そこで𠮷川さんは他人に業務を引き継ぐことを想定し、何を、どのように伝えればよいかを意識し、整理しながら日常業務に取り組んでいる。また、誰でも加工品質を維持できるように治具を考案・製作し、活用する。
「治具があれば、ある程度のものは再現性を維持できます。誰が担当しても同じ品質が維持できる仕組みにして、それができないことはていねいに教えるという意識をもつだけで違った結果になるのではないかと感じています」と冷静に捉える。
すでに大局観を得ている𠮷川さん。その一方で、初歩的なミスが大きなトラブルを招いた苦い経験を明かす。それは、誤った形状に加工した金型部品を次工程に流してしまったこと。ワイヤ放電加工機に材料を取り付ける際、誤った向きに取り付けて加工したが、図面と似た形状の部品が出来上がったため、組立て工程に進み、誤りが発見されず、完成した金型が量産部門でプレス機械に取り付けられ生産が始まった。結果、成形不良が発生。再度、金型の製作を行ったため、金型製作コスト、成形不良コスト、生産計画の遅れなど、コストと時間の両方に損失を与えるきっかけをつくってしまったのである。
「原因をたどっていくと、図面をよく見て、確認して、段取りをしなかったということに尽きます。最も初歩的な手順を踏まなかったことが原因でした」(𠮷川さん)。仕事がわかり、慣れて自信がついたと感じたときほど、基本を忘れないように意識する。失敗を失敗に終わらせないように自己を律する。
自分の役割を理解し、成長に向けて行動する
目標を定め、謙虚に取り組む2 人。川島さんが今、常に考えているのは、部下の意識を会社や事業部の目標と一致させることである。
「会社や事業部は常に生産性向上を求めていますが、一人ひとりの意欲には差があります。そうした中で、全員の向上心を刺激して、みんなで高みを目指す雰囲気をつくっていきたい」と強いリーダーシップをもっている。また、個人の知識やスキルの向上の面においても目標をもつ。その一つがプレス機械の修理・保全に関する知識と技能を磨くこと。電気回路図やエアー回路図などに関して独学し、簡単な修理であれば対応する。
「プレス機械に関する故障・トラブルは業者を呼ぶほどでもないことがあります。まず、業者を呼ぶ必要がある重大故障かどうか判断し、自分たちで対応できれば費用も抑えられて、時間的なロスもなくせます。些細なことかもしれませんが積み重ねが大事な気がします」と川島さんは管理職と技術者としての目標をもっている。
𠮷川さんの目標はさまざまな工作機械を扱えるようになること。現在は汎用フライス盤や研削盤を扱えるがマシニングセンタのオペレーションも身につけたいと前向きだ。
「将来は金型設計者として活躍したい。金型組立て・仕上げや金型部品加工の工程を知っていることは金型設計者になったときに役立つと思うので、希望をもちつつ、任せられたことは責任をもってやり切りたい」と意欲的だ。
管理職として周囲の向上心を刺激しながら、自らの能力の研鑽を続ける若いリーダーと高い意識をもつ金型技術者。実力派プレス部品メーカーがさらに飛躍する準備は整っている。