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型技術 「金型メーカー訪問」

2025.07.31

最新技術と技能を掛け合わせて付加価値の高いモノづくりへ―塩入製作所

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 塩入製作所(東京都墨田区)は、基盤技術の金型や各種産業機械部品へ文字を彫る「工業彫刻」のノウハウを活かし、高付加価値な分野に対応する精密加工技術を磨いている。汎用彫刻機を使いこなす中で、加工中の状態や品質を判断する際の感覚が磨かれ、再現性のある技術の獲得につながった。その結果、複雑・精密形状の寸法・表面精度を実現するための各種加工条件の選定などの知見をさらに蓄積。それらを高機能工作機械での運用時にも活かし、新たな事業として、量産機械に搭載する精密部品の加工も手がけ始めた。既存の事業分野と並行して、さらなる精密加工技術を蓄積し、次の成長へつなげる。

高度技能と高機能工作機械の活用で成長曲線を歩む

 小泉源一郎社長の祖父・塩入源次郎氏が1919 年に創業した塩入製作所。鏨(たがね)とやすりで被加工物を意図する形状にしたり、表面に模様や図案、文字を入れたりする彫金の工房で修業し、工業製品分野への工業彫刻を手がけるようになった。江戸時代に刀装具を製作する職人である江戸鐔師の流れをくみ、工業彫刻の黎明期から機械部品への文字彫刻や刻印の製作を手がけた。戦前・戦中は航空機のエンジンに通し番号を付けるなど、高い精度が必要な分野を手がけ、多くの技能者を育てた。

 その後、小泉社長の父・荘六氏が2 代目になり、1965 年に法人化。経済成長の波に乗り、事業が成長した。特に金型部品への文字入れに関するノウハウと技能を蓄積できたことがその後のさらなる成長につながった。金型にロット番号などの文字を彫刻する中、顧客から部品加工もできないかと要望が出始めてきた。受注量が拡大する中で80 年代に入って工作機械による加工を検討。当時はまだ国内で導入が進んでいなかった放電加工機を導入し、以降、成形研削盤、NC フライス盤、マシニングセンタ(MC)など本格的に揃え、金型部品の加工の比率を高めた。

 技能を磨き、知見を蓄積しながら、高機能工作機械をはじめとする技術を積極的に導入することで、堅実に成長曲線を歩んできた。

切込み量を手先に感じ、現象を見ることは高機能工作機械を運用するときに役立つ

 金型部品や機械部品への文字の加工や金型製作など、従来のモノづくりに加えて現在、手がけているのは、量産機械の駆動を司るムーブメント(内部構造)内の部品(図1)。材質はSKD61 の熱処理材で、全長は10 mm、厚さは0.4 mm。溝やポケット、ねじなどの形状をもつ部品もある。薄い歯車や細い軸、微小なねじなどと組み合わされる部品のため、寸法や表面形状などあらゆる項目に関して求められる品質基準は厳格だ。数ある切削工具の中から、使用するものを選定し、加工条件を決める。
図1 量産機械部品の加工

図1 量産機械部品の加工

 村松大輔常務取締役(図2)は「切込み量が多いと、工具の摩耗量が増えたり破損したりする。かといって少なすぎると削れない。工具が想定通りに摩耗して、想定通りの品質の部品が出来上がったときは誇らしい。繊細な作業が必要で、管理項目は多いが、うまくいったときは、今でも達成感を感じることができる」と精密加工の奥深さと醍醐味を語る。
図2 村松大輔常務取締役

図2 村松大輔常務取締役

 従来から手がける機械部品への文字の加工や薄板形状への切削加工技術も役立った。「局面形状に文字を加工する際にはツールホルダや切削工具をアプローチさせる方法がポイントになり、薄物形状を加工するときは切削工具の回転数と切込み量、送り量、被加工材の固定の仕方が加工品質や工具の摩耗量、加工時間といった加工コストを決定づける因子になる。最適な条件を見つけるのは時間がかかるが、切削加工のおもしろさでもある。これらの工業彫刻技術が、今の当社の技術の礎になっているとつくづく感じる」と村松常務は独自技術に自信を示す。

 鏨やハンマーを使って文字を彫ったり、模様を付けたりする工業彫刻や金型製作とは違う分野へ事業領域を広げている最中の塩入製作所。こうした新しいチャレンジができるのは、創業から蓄積してきた工業彫刻に関する知見、確かな技能者の技能があるからこそ。現在の工業彫刻は、彫刻機を用いることがほとんどで、微細な加工に用いる小径工具に適した主軸を搭載し、パンタグラフを用いて、スタイラスでなぞる軌跡を一定の倍率で縮小する。アクリルに彫り込みたい文字や柄を10~20 倍の大きさに加工したものをモデルとして倣い加工することで文字や柄が加工物に転写される。

 村松常務は「工具を自製し、小径工具の切込みを手先で感じ、加工される様子を見ることで切削加工中に起きる現象の理解が進み、MC を運用するときの加工条件の選定に役立つ」と説明する(図3、図4)。
図3 工具を製作する際に使用する卓上研削盤

図3 工具を製作する際に使用する卓上研削盤

図4  少量品の加工は彫刻機の方が効率は良い場合も多い

図4  少量品の加工は彫刻機の方が効率は良い場合も多い

繁閑を把握し、滞りのない仕組みを構築

 高度技能と高機能工作機械の運用により、精密加工が求められる分野のモノづくりを支えている塩入製作所(図5)。一方、顧客数の増加や多品種・少量化が進んでいる状況では、従来以上に効率を高め、品質の維持と納期を両立することが欠かせない。こうした状況を受けて、進捗状況を可視化するシステムを導入し、運用している。図面や指示書のバーコードを読み取ると、関連する顧客の情報や現在の工程、納期などの情報を一元で管理でき、それに関する情報を視認できるようになっている。
図5 文字形状は鏨とハンマーで整える

図5 文字形状は鏨とハンマーで整える

「各工程にかかった時間や使用したプログラムや工具に関する情報が可視化されるので、現状を把握してトラブルが生じたときは軌道修正がしやすい。また、使用した工作機械や工具に関する情報は、類似案件の見積もり作成時に活かせている。中小加工業は案件ごとの見積もりを算出するのが難しく、経営者や工場長など、特定の役職者しか見積もりが算出できないことが課題になりがち。こうした課題に対しての有効なシステムになりえる」と村松常務は業務の課題解決にシステムを活用していることを説明する。

 手がけるワークや業務フローと相性が良い生産管理システムを選定して活用することで、モノづくりに関することだけでなく、営業面の属人化をなくし、業務の効率化の仕組みも構築できつつある。加工と生産管理、営業の全方位に関する力を高めて、精密なモノづくりを支えていく。

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