icon-sns-youtube icon-sns-facebook icon-sns-twitter icon-sns-instagram icon-sns-line icon-sns-tiktok icon-sns-etc
SEARCH

型技術 「金型メーカー訪問」

2025.08.07

「必要は発明の母」で生まれた技術が呼び水となり、今では6つの特許技術を保有―シバ金型

  • facebook
  • twitter
  • LINE

 自動車や電力関連など向けのプレス金型を手がけるシバ金型(岐阜県各務原市)は、新たな加工技術の開発に余念がない。その多くはパイプ加工を手がける中部スリッター(愛知県大府市)との共同開発で、複数の特許技術を保有している。数名での家族経営を行う小規模企業が金型業界で生き残るうえで、これらの技術は同社の強力な武器となっている。

自動車や電力関連などのプレス金型を手がける

 同社は1985 年、芝世志造社長(図1)の父である𣳾吉前社長が創業した。𣳾吉前社長の兄が経営する機械部品の加工会社で立ち上げたプレス金型部門から独立し同社が誕生。手がけるのは自動車や農機具、物置のほか、電柱周りの変圧器や取付け金具などを製造するためのプレス金型で、特に板金の複雑形状加工を行うための金型を得意とする(図2、図3)。
図1 芝世志造社長

図1 芝世志造社長

図2 加工現場の様子

図2 加工現場の様子

図3  同社の金型で加工したパイプをフレームに用いたカート

図3  同社の金型で加工したパイプをフレームに用いたカート

 同社が特徴的なのは、外部から社員を雇わず親子三代の家族経営で事業を営む企業規模であるにもかかわらず、新たな工法などの技術開発に積極的に挑戦している点だ。同社はパイプ加工などを得意とする中部スリッターと共同で技術開発を行い、現在6 つの特許技術を保有。これにより、小規模金型メーカーながら岐阜県内でも独自の地位を確立することができている。

 例えば、2011 年に発表したのは、パイプへの全周囲からの複数穴あけ加工を1 回のプレスで行う技術。一般に斜め方向から穴あけを行う場合、プレスの上下方向の運動を異なる方向に変換するカムスライドユニットが必要となるが、ユニット自体の構造が比較的複雑であることに加えて、特に下方向からの加工が難しいという課題があった。そのため、従来はパイプ周囲に複数の穴あけを行う場合、複数回のプレス加工が必要だった。

 そこで同社はカムスライドユニットに代わる簡易でコンパクトな構造のパンチ金型ユニットを考案。既存のプレス機械でも穴あけ方向を選ばずに設置できるように設計したことで、複数の使用によって1 回のプレス加工で全周囲からの複数穴あけ加工が可能となった。「金型の部品点数が少なくて済むので金型のコスト削減にも有効です」(芝社長)。同技術はものづくり日本大賞で優秀賞を獲得した。

液圧を利用して曲げパイプに穴あけ

 また、2013 年には、サポイン(戦略的基盤技術高度化支援事業)の採択を得て、芯金が使えない曲げパイプにプレス加工で穴あけを行う技術の開発に挑戦した。パイプに穴あけを行う際、圧力で変形が起こらないようにパイプ内部に芯金と呼ばれる筒状の治具を挿入する。ただ、曲げパイプなど形状が直線でないものには芯金が使えず、人がドリルを使ったりレーザー加工を施したりして穴あけするしかなかった。当然ながら人力では精度が出ず、レーザーでは加工コストが上がる問題がある。

 そこで、新技術では芯金の代わりに、両端をふさいだパイプ内部に油などの液体を高圧(例えばアルミパイプの場合では約110 MPa)で充填。その液圧を利用して加工時のパイプの変形を防ぐとともに、パンチ金型でワークの板厚の半分程度まで穴をあけたあと(半抜き)、さらに液体に加圧すると内側から穴があくという仕組みだ(図4)。「パイプを曲げた際にできた変形も液圧で修正できます。あいた穴の内側にバリがほとんどできないのもポイントです」(芝社長)。
図4 同社技術で穴あけを行った曲げパイプ

図4 同社技術で穴あけを行った曲げパイプ

 2024 年に開発し現在特許を出願しているのは、異なる金属材料の板をプレス加工のみで接合する絞りかしめ技術だ。「自動車のEV 化の流れに伴い、軽量化用途でアルミニウムや銅などの異種金属を接合する技術の需要が高まるのではと考えて開発を進めました」(芝社長)。この技術では、パンチ金型の先端に安価で購入できる複数突起の部品を取り付けることで、従来の絞りかしめに比べて複雑な形状で接合し、特に回転方向の接合強度を高めた(図5 中央と右)。「電柱上部の固定金具などで広く使われてきた円形の絞りかしめでは接合力が弱く、不安定であることを耳にしていた経験が活かされた技術開発でした」と芝社長は振り返る。
図5 異種金属をプレス加工で接合

図5 異種金属をプレス加工で接合

 現在は同技術をさらに発展させ、1 工程で絞りかしめとバーリング加工を行う方法を開発。あいた穴に人の手でねじを締めることで、より強固に接合できるようにした(同図左)。「タップを切らなくてもねじが締められるように下穴を加工しています」(芝社長)。また、この絞りかしめ技術は単なる接合にとどまらない活用の可能性も備えていると芝社長は考えている。「かしめ部分が独特の形状になりますが、この見た目もアピールできるのではと期待しています。デザインの一つとしてかしめ部分をあえて見せるやり方で、雑貨などの分野にも提案していきたいですね」。 

重視するのは工程削減と汎用性の高さ

 こうした技術の開発を行うにあたって共通して重視しているのは、「工程削減が達成できることと、現場の既存の機械に適用できる汎用性のあるものであること」だと芝社長は話す。「全周囲からのパイプ複数穴あけでは、誰がやってもわかりやすく手間がかからない単純さも目指して開発しました」。技術開発に積極的に取り組み、複数の特許技術を保有する背景には小規模金型メーカーのおかれた厳しい状況も関係している。「金型製作の多くは大手が担い、われわれのような小規模金型メーカーは受注が不安定になりやすい。残される仕事も難しいものが多い。だから何か独自の技術をもってアピールしていかないと、企業として生き残れなくなるという危機感があるのです」(芝社長)。

 いわば「必要は発明の母」で新たな技術の開発を要する状況があったが、そうしてある技術が生まれるとそれが呼び水となって、顧客らから「それができるのであれば、これもできるのでは」という要望が集まり、それがまた別の新たな技術開発へとつながるのだという。

 今後は従来の取引業界にしばられず、さまざまな業界にも積極的に展開していきたいと考える同社。その際にも同社のユニークな技術が新境地を開くカギとなるに違いない。

関連記事