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型技術 「金型メーカー訪問」

2026.01.05

国内金型業界で独自の存在感を高め、未来の金型メーカーのあり方を体現―平岡工業

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 平岡工業(広島市安佐南区)は、ゴム金型の製作を主に手がける金型メーカー(図1)だが、現在は金型製作で培った技術を基盤に新たな事業展開や、平岡良介代表取締役社長(図2)の個性を活かしたブランディングなど新たな取組みを続々と展開している。金型メーカーの枠を超えて独自の存在感を高める同社は、明るい光で国内金型業界の未来を照らす。
図1 金型加工現場の様子

図1 金型加工現場の様子

図2 平岡良介代表取締役社長

図2 平岡良介代表取締役社長

業界でもニッチなゴム金型を製作

 同社は1937 年、平岡社長の曽祖父に当たる浅次郎氏が平岡鉄工所として創業。広島市への原子爆弾の投下で休業を強いられた時期もあったが、48 年に祖父・喜三男氏が再建し、55 年には金型製作を開始した。平岡社長は2023 年に4 代目として現職に就任した。

 同社が得意とするのは、自動車のドア開口部に装着するシール材「ウェザーストリップ」の成形用金型だ。「ゴム金型自体、国内でも製作比率が少ないですが、ウェザーストリップは特にニッチ。国内で製作する企業は10 社もありません」(平岡社長)。

 一般にゴム金型での成形は樹脂金型などと異なり、成形品を金型から押し出すエジェクタピンは用いず、手で取り出す。また、成形品を取り出しやすくするために、金型にギヤやローラー、跳ね上げ機構などを取り付けたからくりが施されている。さらに、アンダーカット形状が多く含まれるものの、ゴムに伸縮性があるためスライド構造が少ないのも特徴だ。そのほか、樹脂金型との違いで平岡社長が挙げるのが、バリの出やすさ。「1/100 mm ほどの隙間でもバリが出ます。バリはコスト増につながるので、バリレスを目指してすり合わせの精度を極力高めています」。一方で、近年では食品加工用金型なども手がけており、地元の銘菓・もみじまんじゅうの製造用金型の製作事例もある。

社会の困りごとの解決こそが使命と痛感

 同社は経営ビジョンとして「カタにハマらない、ものづくりのプロ集団」を掲げており、その言葉通り、特に近年では金型メーカーの枠に収まらない多彩な事業展開を強く推し進めている。

 その端緒とも言えるのが、20 年に開設した専門情報サイト「精密部品加工・調達代行センター(SCC)」。これは、顧客から提供された精密部品の簡素なイメージ図をもとに同社が設計図を描き、加工から部品などの調達、組立て、さらには調達・品質管理までを代行するというもので、長年金型製作の技術を培ってきた同社ならではのサービスと言える。「現状、内製率は20 %程度。当社は商社のような役割を担う形です。サービス自体は19 年頃から始めていましたが、受注が増えてきたので事業化しました」(同)。開始当初の売上げは7,000 万円程度だったが、コロナ禍も追い風となり現在では3 億円を超える事業に成長している。

 また、20 年には新型コロナ感染対策グッズとしてオリジナルのフェイスシールドを、メガネメーカーと素材メーカーの3 社で共同開発した(図3)。シールド部分には抗ウイルス・抗菌性能を備えた素材を用いたほか、耳元とこめかみで顔に固定できる形状にしたことで広い視界を確保した。これらのデザインが評価され、同製品は21 年のグッドデザイン賞を受賞。発売を機に立ち上げた自社ブランド「HIRAX」として製品展開している。フェイスシールドの開発は、平岡社長の仕事に対する意識を変えた大きな契機にもなったと振り返る。「使用いただいた方々から『コロナ禍でも親の介護ができた』といった感謝の声をいただきました。BtoC の経験が初めてだったわれわれにはとても新鮮で、当社のモノづくりの力は社会の困りごとの解決のために使わなければならないと痛感しました」(平岡社長)。
図3 開発したフェイスシールド

図3 開発したフェイスシールド

脆性材料加工分野への進出を狙う

 このBtoC 事業の経験は同社の金型・部品製作の技術と結びつき、22 年のアウトドア・キャンプ用品を展開する自社ブランド「asobient」の立ち上げにもつながった。評判は上々で地元球団の広島東洋カープとのコラボ製品も実現している(図4)。こうしたBtoC事業は現状では同社の売上全体の1 割程度にとどまるが、今後はさらに展開を図りたい考えだ。これについて、門田圭展常務取締役は「これまでは経営側が主体で進めてきたBtoC 事業を、これからは金型の製作現場の人たちとやりたい」と意気込みを語る。「消費者の反応が強く感じられるBtoC 事業は、現場の強力なモチベーションアップにつながりますから」。
図4 同社が展開するアウトドア製品の例

図4 同社が展開するアウトドア製品の例

 一方で、同社ではこれらの事業とはまったく異なる角度からの取組みも行っている。平岡社長は地元ラジオ局の広島エフエムへラジオ番組の企画を提案。22年にスポンサー兼メインパーソナリティーとして「H-Junk Factory のものづくりラジオ」の放送を開始した。「当社のブランディング強化という面もありますが、日本の産業基盤であるモノづくりの魅力を発信して『製造業っておもしろそう』と思ってくれる人を増やしたかったのです」(平岡社長)。製造業を含めたさまざまな業界からゲストを呼び、平岡社長と軽妙なトークを繰り広げる。同ラジオ局の中でも人気番組の一つに成長していると言い、「当社のリクルートや営業面でその影響を感じています」(同)と、ブランディングの手ごたえも感じている。

 現在、同社では新たな挑戦として脆性材料加工分野への進出を図っている最中だ。メイン事業であるゴム金型は前述のとおりニッチな分野で、将来的に頭打ちとなることは否定できない。金型製作においても「他社がやっていないことに挑戦していかなければいけない」という危機感があると平岡社長は話す。その中で平岡社長が目をつけたのが脆性材料の加工だ。新分野へ踏み出すべく新事業進出補助金の申請も完了しており、この申請が通れば脆性材料加工への進出を本格化させる考えだ。

 こうした新たな加工技術が獲得できれば、従来は扱えなかったゴム素材での成形が可能な金型の製作が可能になるなど、新たな付加価値を顧客へ提案できるようになると期待する。

 今後の事業展開について、平岡社長は「国内市場だけでは危ない」とし、2012 年に立ち上げたタイの現地法人を拠点としてSCC の展開や新規事業の立ち上げを進めるほか、成長市場であるインドへの進出ももくろむ。「海外事業の強化を進めるには人材などリソースも必要。その確保にも今後は注力したいです」(平岡社長)。中国の台頭や人材不足など課題が山積する国内金型業界で、同社は未来の金型メーカーのあり方の例を身をもって示している。

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