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工場管理 連載「失策学 ビジネスの誤算から紐解く成功の条件」

2026.05.14

最終回  社員をダメにする失敗 その3 ─企業の秩序維持の視点から─

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打田昌行 米国公認会計士/公認内部監査人

筆者:うちだ まさゆき 日立製作所傘下の監査支援部門に所属し、国内に加え海外30ケ国以上で内部統制を構築する仕事に12年間従事。 対象企業は100社以上に及ぶ。現職では制度導入の社内研修企画やコンプライアンス教育を実施。著書:『 令和時代の内部統制とリスクコントロール』翔泳社他

いま求められる失策学

 企業や各部門の現場では、事業上のさまざまな失敗や失策が起きる。その苦い失敗や失策には、豊富な学びと将来の成功につながるヒントが隠されている。その貴重なヒントに気づけない企業や部門は、過ちを繰り返し、後戻りできない逆境に陥ってしまう可能性がある。そうならないために、失敗や失策から成功のための教訓を前向きに学びとる逆算と逆転の発想、つまりエラーから学ぶ失策学のアプローチが大切である。

長時間労働と過労死

 コロナ禍を克服した後、待っていたのは予想だにしない人手不足だった。いま労働人口の減少に加え、昨今の最低賃金の上昇で、多くの企業では必要な人員が雇用できない課題を抱えている。とりわけ製造業や建設業では人手不足が慢性化して、従業員1 人当たりの労働時間が長くなる傾向が見受けられる。人は雇えないが、業績が芳しくないため残業をしなければならず、長時間労働の増加の傾向が懸念される。

 長時間労働に明確な定義はない。あえていえば、目安として1 カ月当たり80 時間を超える時間外労働を厚労省が過労死ラインに掲げている。長時間労働が増えているといっても、過労死ラインと隣り合わせのブラックな厳しい環境下で働きたい従業員などいるはずもない。厚労省は、従業員の安全衛生に危険信号が灯らぬようにするため、毎年11 月を過労等防止啓発月間に定め、対策を展開している。

長時間労働と過重労働

 過労死などの労働災害の原因は、長時間労働ばかりでない。時間とは関わりのないハラスメントなど精神的・心理的な負荷が加わる過重労働が原因となっても起きる。
 
 1.事例1:有名歌劇団の劇団員自殺
 2023 年9 月、劇団員が死亡し、県警によれば死因は自殺とみられる。劇団は24 年3 月に劇団員が長時間による活動で負担を受けていたことやパワハラがあったことを認め、家族に謝罪した。死亡直前の1 カ月間で、118 時間の時間外労働があったことも発表している。厚生労働省による過労死ラインをはるかに超えていただけではなく、当初劇団が認めなかったパワハラが深刻な影響を与えたとも考えられる。労働基準監督署は劇団に立ち入り調査を行い、劇団を運営する鉄道会社は、24 年9 月に是正勧告を受けたことを公表した。

 2.事例2:時間外労働に対する割増賃金の改ざん
 20 年、駅前立地の立ち食いそばチェーンで、2億円を超える未払いの残業代を求めて従業員17 人が会社を労働審判に訴えた。会社は従業員の勤務表を残業していないように改ざん、雇用調整助成金のため、タイムカードを押さないまま勤務することを命じていたとも報道された。21 年には、同社に未払いの残業代を求めた労働組合の幹部が懲戒解雇の処分を受けたが、東京地裁は解雇を無効と判断した。

失敗から逆算するための解説

 事例1 は、ビジネス社会だけでなく、芸能界においても長時間労働が深刻化していることを世間に示した。また、過労死やうつ病などの精神疾患を引き起こす原因が、単に長く働くだけでなく、ハラスメントなどの心理的、精神的な負担を伴う過重労働にあることもわかってきた。たとえ長時間労働を減少させても、過重労働にも注意をしなければ、精神疾患による長期休職が増加し、退職が相次ぐといったことが起こりかねない。

 ハラスメントなど、大切な従業員を精神的に追い込む職場環境を放置することは、労働法令に違法することはもちろん、企業にとって大きな損失となる。事例2 のように、仮にも会社が時間外労働の記録を慢性的に改ざんしていたとすれば、人件費の削減に腐心するあまり、従業員の安全衛生に配慮する視点がまったく欠落しているという点で、もはや論外とも考えられよう。

失敗から逆算して得られる教訓

 長時間労働や過重労働をできる限り少なくするために労働環境を整備し、過労死や精神障害の被害から大切な従業員を守るにはどうしたらよいのか。

 ■改革はトップダウン
 通報による労働基準監督署の立ち入り調査、過労死の発生、サービス残業による賃金未払訴訟の提起、どれも会社の信頼を失墜させ、起きてからでは遅すぎる事態ばかりである。 

 長時間労働や過重労働を避けるには、ボトムアップではなく、なによりトップダウンによるリーダーシップの発揮と予防策や改善策の実施が求められる。

 ■業務の棚卸と決断
 部門別、個人別に業務を具体的に書き出して不要な業務、無理な仕事やムダな業務の重複がないか検討する。IT 化ができるか、外部にアウトソースするか、業務の分担を工夫するか。棚卸の結果、複数の事業の中には、どうにも方策に行き詰る事業があるかもしれない。そうしたとき、事業から撤退する勇気を持つことも必要となる。

 ■半ば強制的なノー残業デーは止める
 業務に要している実際の業務時間を把握したい。実情の調査もせず、なかば一方的にノー残業デーを設け、定時帰宅のために職場を消灯して回るようなことは避ける。実情を踏まえた業務の改善をおろそかにしながら、表向きの残業時間を削っても、水面下で仕事の持ち帰りやサービス残業が起きたのでは、本末転倒である。

 ■従業員のスキルアップ
 長時間労働の原因は人手不足や企業の認識不足によるものばかりではない。若い従業員の経験不足やスキルが未熟であることが原因にもなる。社内のスキルアップ研修、OJT や関連の資格取得に繋がる研修を充実させていくことにも配慮してほしい。

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