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型技術 連載「巻頭インタビュー」

2025.11.25

モノづくりの基盤技術が集まる新潟で新たなアイデアにつながる刺激を得る―三条市立大学 川﨑一正教授

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「型技術ワークショップ2025 in にいがた」実行委員長/
三条市立大学 工学部 教授
川﨑一正氏

Interviewer
上智大学 理工学部 教授
田中秀岳氏

 今年の型技術ワークショップは、新潟市中央区の複合施設・朱鷺メッセで開催される。精密加工や金属プレス加工などモノづくりに不可欠な基盤技術が集積する新潟は、新たなアイデアやイノベーションにつながる刺激を得る格好の地域。実行委員長を務める三条市立大学の川﨑一正教授に、各種講演や工場見学会の見どころなどについて聞いた。

田中

11 月27 日と28 日に新潟市で開催される型技術ワークショップの実行委員長をお務めになります。今回のテーマについてお話いただけますでしょうか。

川﨑

テーマは「にいがたから始まる“ 新” 型技術」としました。「新」の文字を強調しているのは、「新しい」ということと「新潟(型)」の2 つの意味を込めたダジャレ的な表現ですね。私自身、大学進学をきっかけに新潟で暮らすようになってわかった部分もありますが、新潟は工芸品が盛んです。気候の関係で農業も盛んで、多くの人には新潟といえば米という印象があると思いますが、昔から地場産業として金属製品や精密機器、工作機械というモノづくりの文化が定着しています。
今、産業構造の変化が激しい時代になって、特に金型に従事する人の数が減っていますが、ワークショップでは温故知新で、少しでも新しいことを取り入れて、新たなアイデアや付加価値を付けられるようなイノベーションが生まれてくるようになればいいな、という意味を込めています。新潟が、そうしたものが発生するスタートの場になればうれしいですね。

1 日目に実施されるオープニング講演や特別講演、特別セッションについて教えてください。

オープニング講演では、ブルボンの先端研究所先端工学技術研究室の室長である大西慶様に「工場IoT の内製化とその後の展開」と題してお話いただきます。新潟の地場産業の中で特徴的な取組みを行っている企業や団体について、金型にこだわらずに候補者を選定し、異業種から金型に応用できることもあるのではないかということで検討して、ブルボンに決まりました。
これまで多くの工場では人による目視観察や手作業が当たり前でしたが、今は製造現場も変わってきています。ブルボンは早くから工場のIoT 化、データのデジタル化にスポットを当てて、データの自動収集なども行っています。先端工学技術研究室という部署はこうしたことに特化して取り組んでいるところだと思います。今後の展開なども含めてモノづくりの変革の参考になるお話が聞けると思います。

ブルボンは全国的に有名な菓子メーカーですが、先端工学技術研究室というのは意外性があって興味が湧きますね。実は私は甘党でして、ブルボンの菓子は大好きで昔からファンなんです。当日はどのようなお話が聞けるのか楽しみです。

新潟の歴史的な酒づくりを学ぶ

特別講演は2 件を用意しています。1 つ目は新潟県醸造試験場の場長である青木俊夫様に「新潟の日本酒」というテーマでご講演いただきます。米どころは酒どころということで、新潟のお酒は淡麗辛口が代名詞になっています。以前、私が産学連携の仕事をしていたときに新潟県のお酒について調べたことがあって、出荷量は全国3 位で、酒蔵の数は1 位。つまり、少量生産の酒蔵が多いということになるのでしょうね。新潟には歴史的な酒づくりの技能があって、これもまた新潟の特徴と言えます。酒づくりに関する技術やそれを支援する仕組み、酒づくりに携わる人々の気質などについてお話をいただけると思います。
2 つ目は「自動車の作り方の変化」と題して、米谷製作所(新潟県柏崎市)の取締役相談役である米谷強様にお話いただきます。自動車は金型が必須の代表的な産業だと思いますが、その中でも最近の技術の進歩や自動車の構造の変化、製造法の変化に焦点を当てて話していただけると思います。10 年前くらいだとダウンサイジングやモジュール化が言われていましたが、今はギガキャストが一つのトレンドですね。同社はまさにこのギガキャスト向け金型の開発に取り組んでいる金型メーカーですので、そのあたりのことも講演の中で触れられると思います。

米谷製作所のギガキャストの話が聞けるのは非常に興味深いですね。とても貴重な機会で注目度も高いと思います。食品工業の講演からスタートして、金型の話に入っていくというのもユニークな構成ですね。特別セッションについてはいかがでしょうか。

特別セッションは「にいがたから世界へ、型技術の最前線」をメインテーマとして、3 件を予定しています。いずれも金型に関わる内容ですが、それぞれで切り口が異なります。1 つ目は「ミクロンの世界を制する金型技術~微細はつらいよ~」と題して共栄エンジニアリング(新潟県阿賀野市)営業課シニアエキスパートの伊藤孝夫様に講演いただきます。同社は精密加工、金型設計、微細加工の3 つを柱に、試作品の製作などを主に行っています。光学製品向け金型の鏡面仕上げに強みがあるので、曲面形状の鏡面性、表面粗さを向上させるための手法や見極め手法の部分、特にRa=2 nm を実現するための過程などについてお話していただけると思います。
2 つ目は、モノコミュニティ(浜松市中央区)のテクニカルコンサルタントである荒井善之様に「データ連携により本領発揮する3D 設計、DX を実現するための環境構築に向けて」という題名で講演いただきます。浜松市の企業ですが、荒井様は新潟県三条市の出身で新潟の製造業企業にも勤めておられた方です。3D データから後工程に必要なデータを出力・連携し、工場内でいつでもどこでもすべての情報を確認する環境の構築や、金型製作における課題を数字で明確にし解決へと導く方法、それに伴う苦労話なども含めて解説いただけると思います。
最後が「CAE と機械学習によるプレス金型設計の効率化にむけた取り組み」で、新潟県工業技術総合研究所の技術統括センター主任研究員である村木智彦様にお話いただきます。機械学習とCAE は相性が良いという考えのもと、両者を連携させた設計業務で金型の設計を効率化させたという共同研究事例などについて発表される予定です。

新潟は、手工業から始まって工作機械、金型、精密加工などが盛んということは私自身は理解していますが、県外の方にとってはやはり「米・酒・魚」のイメージが強い。今回実施されるさまざまな講演では、その中で地場に根づいた工業があることをしっかりとアピールできる内容になっていると思います。

私も同感です。ちなみに今回の一般講演は50件と、従来より少し多い件数で実施する予定です。

県内の優れた技術をもつ企業を巡る

2 日目は工場見学会ですね。今回の見どころをお聞かせください。

見学先についても金型には限定せず、県内で優れた技術、オンリーワンの技術をもっているという視点でピックアップしました。見学コースは地域で分けてA~D コースの4 つを設定しました。A が新潟地域、B が燕三条地域、C が柏崎地域、D が長岡地域という具合です。まず、A コースは総合車両製作所の新津事業所(新潟市秋葉区)と共栄エンジニアリングを回るコースです。総合車両製作所は首都圏向けの通勤電車を製造する企業です。

電車の中で社名のロゴを見かけますよね。

かつてはJR 東日本の新津車両所という名前でした。旧・新津市(現在の新潟市秋葉区)は私の印象では鉄道の町というイメージが強くて、鉄道に関係する企業を1 社入れたいと思ったのです。電車は自動車と違って大量生産がそれほど必要ではなく、1 日につくるのは1 車両だけなのだそうです。大量生産ではなく、手づくりの文化もあるところに学ぶものがあるのではないかと考えています。特別セッションでも講演いただく共栄エンジニアリングでは、講演内容と関連した金型技術などが見学できると思います。

B コースは三条市立大学がある燕三条地域です。

ここではツバメックス(新潟市西蒲区)と共和工業(新潟県三条市)を見学いただきます。いずれも自動車業界ではよく知られた金型メーカーですね。この2 社の間で私が所属する三条市立大学も見学していただきます。大学では工作機械や協働ロボット、X線CT 検査装置、SEM 走査型電子顕微鏡を揃えた「ものづくりシアター」が見られます。大学の教育に関する話も聞けると思います。次のC コースは、米谷製作所とリケンの柏崎事業所剣工場(同柏崎市)。米谷製作所は講演でも触れられるギガキャストに関するところも見られると思います。リケンは、個人的にはピストンリングを製造する企業という印象があります。

ブレーキキャリパーの製造も行っていますね。

2007 年の中越沖地震のときは、リケンの工場が被災したことで国内の主要自動車メーカーが生産を一時停止する事態になりました。あのインパクトが強かったこともあって、今回選ばせていただきました。D コースはユニオンツール見附工場(同見附市)とマコー(同長岡市)。ユニオンツールは田中先生もよくご存じですよね。

PCB ドリル、エンドミルのメーカーですね。

見学ではエンドミルの製造工場が見られます。ここは昨年度に生産現場の拡張を行ったようです。最近では工具という事業を柱にしてデジタル測定機や生体センサとビジネスの幅を広げてきている印象です。マコーはこちらも田中先生がよくご存じのウェットブラスト装置の専門メーカー。うちの大学にもあります。

実はオープンキャンパスのときにこっそり来て、ウェットブラスト体験をやらせてもらいました。

ウェットブラストはいろいろな使い方がありますが技術自体は金型にも適用できる部分があって、そういう意味でも参考になるところがあると思います。

4 コースそれぞれで見ごたえがありそうですね。

県内160 社超と産学連携実習

ここからは三条市立大学や川﨑先生ご自身のことについてもお聞かせください。大学の開学は2021年で、今年最初の卒業生が出ました。

はい。カリキュラムとしては機械工学を主軸として材料・ロボット・電子工学、さらに経営なども加わり、アイデアを商品・サービス化し、市場に展開することを目指しています。あとは特徴として産学連携実習という体験型学習が用意されています。160 社を超える県内企業と提携し、2 年生は3 つの企業で各2週間、3 年生では1 社に絞って16 週間、現場実習を行います。これが大学の大きな売りになっていますね。

提携企業のリストを見ると、産学連携を実直に行っているところがキーになって、今回のワークショップにもつながっていると感じます。

企業側の負担も決して小さくないのでありがたい限りです。協力いただける企業は今も開拓していて、今後はもっと広げていきたいと思っています。私自身の話をすれば、本学開学のタイミングで新潟大学から移ってきました。経歴としては、新潟大学で修士課程を修了後、客員研究員としてイリノイ大学へ行きました。その後は新潟大学へ戻り、そこでずっと教育・研究と産学連携マネジメントを行ってきました。専門は機械要素設計と機械加工、それと以前所属していた部署との関係もあって産学連携分析というこれら3 つが研究の柱かなと思います。

切削加工や金型技術の分野で、注目すべき技術トレンドや期待するイノベーションはありますか。

近年は工作機械の多軸制御技術などの進歩によって1 台でさまざまな加工ができるようになったし、金属3D プリンタと機械加工の組合せでプロトタイプの製作時間が短縮されたということもありました。そうした中で、今後は「AI 活用」というトレンドがあるのではないかと思っています。AI を使った工具の摩耗予測や機械の予知保全ができるとダウンタイムなどのムダな時間を最小限に抑えられそうですよね。また、石川県の企業が開発したNC プログラムをAI が生成する完全自動マシニングセンタの話も耳にしています。

確かにコーディングのAI はものすごく伸びていますね。そういう意味ではCAM の概念が少し変わってくるかもしれませんね。

もちろん一朝一夕にできるものではありませんが、今後はそうした技術が発展していく可能性は高いんじゃないかなと思います。

本当に今進んでいる感じがありますね。

大学と企業が少しずつ接点をつくる

川﨑先生の研究の柱の一つに産学連携があるとうかがいました。大学も注力する部分とのことで、成功した事例や今後の展望についてお聞かせください。

本学で産学連携実習が始まってちょうど4 年目ですが、開発された商品が実際に発売された事例があります。また、学生のインターンシップやキャリア形成支援に関する取組みを表彰する「学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード」で文部科学大臣賞を受賞しました。もちろん成果も重要ですが、公立大学として地域に欠かせない大学になるべきで、地域といろいろな点で交わっていくことが大事だと思います。

地域企業が大学との連携を考えるうえで,先生からアドバイスがあればお願いします。

大学との連携の前に地場の中小企業がまずやらなければならないのは、何が課題になっているのかを整理することです。課題を整理するだけで解決する問題もあります。そして、課題解決に大学を活用する際は、大学には何ができて何ができないかを踏まえて相談に行くことですね。大学は決して万能ではありませんから。

それほど大きくない企業の場合、そもそも大学に行くこと自体にバリアを感じることも多いですよね。

大学側も研究者らの仕事に密接につながるものだったら逆に話を聞きに行くことがあっていいと思います。そういうことで少しずつ接点をつくってつながりを深めていければいいですね。

では最後に、ワークショップの成功に向けて読者へのメッセージをお願いします。

ワークショップに参加される方々の業務内容はさまざまだと思いますが、例えば社内で今まさに抱えている課題を解決できるヒントなど、何かしらの成果を得て帰っていただければいいなと思います。また、ご参加の際はぜひ、新潟のさまざまな工業はもちろん食文化にも触れて楽しんでいただきたい。新潟のお酒を楽しみにされている人も多いでしょうから(笑)。

新潟の魅力を十分に感じていただきたいですね。本日は誠にありがとうございました。
川﨑一正(かわさき かずまさ)
1987 年 新潟大学 工学部 卒業
1989 年 新潟大学大学院 工学研究科 修士課程 修了
同 年 新潟大学 工学部 助手
1998 年 博士(工学)の学位を授与(京都大学)
2000 年 イリノイ大学シカゴ校 客員研究員
2001 年 新潟大学 地域共同研究センター 助教授
2015 年 新潟大学 自然科学系 准教授
2021 年 三条市立大学 工学部 教授

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