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型技術 連載「巻頭インタビュー」

2026.04.02

顧客時間価値を創造する、ミスミの「時間戦略」と「デジタルものづくり」―駿河生産プラットフォーム

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㈱駿河生産プラットフォーム 代表取締役社長
遠矢 工氏

Interviewer
アイダエンジニアリング㈱ FA 生産BL 特機部 部長代行
下間隆志氏

 メーカーと流通事業をEC プラットフォーム上で行い、3,000 万点超のカタログアイテム、800 垓(1兆の800 億倍)もの商品バリエーションを国内外約32 万社の顧客に超短納期で届けるミスミ。そのグループのマザー工場の役割を担うのが駿河生産プラットフォーム(静岡市清水区)だ。同社の「デジタルものづくり」現場の実際について遠矢工社長に聞いた。
遠矢工氏(左)と下間隆志氏(右)
下間
 まず、遠矢様のご経歴についてお話をお聞かせください。

遠矢
 大学を卒業したのが1986 年です。特殊鋼メーカーで技術者の卵として精密加工部門に配属となったことがビジネスキャリアのスタートです。そこではプレスや樹脂、鋳造などの金型の精密加工・設計・生産技術に携わりました。その後、フィルムメーカーで17 年間、光学機器の開発・製造などに関わったあと、2007 年にミスミグループ本社に入社しました。当初は金型製造部門などの責任者を任され、17 年からミスミグループの一員である駿河生産プラットフォームと、グループ本社の生産プラットフォーム・ハブの責任者を兼務しています。生産プラットフォーム・ハブというのは、ミスミグループ本社の生産に関し、競争力強化のための最新技術の実装や拠点政策など、グローバルで横串の役割を果たす組織です。

下間
 ありがとうございます。では次に、御社の沿革と事業概要について教えてください。

遠矢
 すでにお話したとおり、当社はミスミグループの一員です。ミスミはメーカー事業と流通事業を併せもっていて、EC 基盤上でグローバルにビジネスを展開しています。当社はグループのメーカー事業における製造事業を担っており、FA 部品や金型部品、光学関連部品などを製造しています。

 沿革としては、当社はミスミグループ本社が生まれた1963 年の翌年、64 年に創業した会社で、ミスミの主要仕入れ先の一つとなっていました。そうした関係の中、2005 年にミスミグループ本社の中に経営統合され、今日に至ります。金型業界に携わる方はご存じのとおり、ミスミは1970~80 年代にプレス金型やモールド金型の標準部品のカタログを発刊し、それからFA、エレクトロニクス部品などへ取扱い品目やサービスを拡大していきました。ミスミとしては商社を生業として歩んできたのですが、2005 年の経営統合でメーカー機能を併せもち、グローバル展開、MRO などの製造間接材を扱う「VONA」、後述する「meviy」などさまざまな新サービスを展開させていったという流れです。
機械部品調達のAI プラットフォーム「meviy」の生産ライン(写真提供:駿河生産プラットフォーム)

機械部品調達のAI プラットフォーム「meviy」の生産ライン(写真提供:駿河生産プラットフォーム)

取扱い商品は約3,000 万点、800 垓の商品バリエーション

下間
 現在、生産拠点は国内外にどれくらい広がっているのですか。

遠矢
 ミスミグループとしての生産拠点はグローバルに22 拠点あります。日・中・亜・米・欧の5 極生産体制をとっていて、各地域へ販売・生産・物流機能をワンセットにして進出しています。当社に関して言えば、日本・中国・アジアに11 拠点展開しています。

下間
 生産拠点が世界の各地域にあると、品質のばらつきを抑えるための工夫が必要になると思います。どのようなことを行っておられるのでしょうか。

遠矢
 特に金型の標準部品に関して言えば、「半製品(ブランク)」というものが使われていて、このブランクをグローバル集中生産する拠点がベトナムのホーチミン市にあります。そこから世界の各仕上げ工場にブランクを供給するのですが、ブランクの品質はそこで一元的に担保されています。つまり、ここで品質のばらつきが抑えられているわけです。一方で、ブランクはベトナムでの集中生産ということになるのでBCPが問題になりますが、それを見越した在庫を各生産拠点にもたせているので、想定範囲内の生産停止であれば供給上大きな問題にはなりません。

下間
 御社が扱う部品には高精度のものも多いと思いますが、発送前の品質チェックなどの品質管理体制について教えてください。

遠矢
 そうした品質管理はすべてデジタルで行っており、測定データがすべて生産基幹システムとつながっています。ミスミのラインナップ商品は全部で約3,000 万点あり、最も細かい寸法の組合せで言えば1兆の800 億倍にあたる800 垓という天文学的な数字になります。それらの品質管理では正確なデータベース管理が不可欠となります。

 EC と生産の基幹システムが直結され、受注ごとに工程・工順が自動生成され、現場の各機械のタブレット端末に測定ポイントがナビゲーションされ、作業者はその通りに測る。次々に提示される手順通りに測ってOK が出なければ次の工程に進めないようなシステムにしています。トヨタ生産方式の「ニンベンの付いた“ 自働化”」ですね。それをデジタルのシステムの中に組み込んで、良品しか流れない工程にしています。

 金型部品で言うと、カタログにより、お客様は図面を描かなくてもEC で簡単発注でき、商品の標準化でブランクのローコスト計画生産と、仕上げ工場での時間勝負の1 個流し生産する。ミスミ流のマスカスタマイゼーションを構築し、高品質・低コスト・確実短納期・安定供給を実現しています。
同社が提供する多種多様な金型部品の例

同社が提供する多種多様な金型部品の例

受注製作品でも最短当日出荷

下間
 私も1990 年頃の入社当時から、ミスミでよく金型部品を購入させていただいていて、非常に助かっています。注文すると、ものによっては翌日、あるいは当日発送されるなんてものもあります。きっとこうした超短納期をスムーズに実現するためのノウハウをおもちなのでしょうね。

遠矢
 ありがとうございます。ベトナムの生産拠点には集中生産をしているがゆえに世界中の需要が集まるので、そこで過去、現在、さらにその先のトレンドを見据えた計画生産をしています。仕上げ加工を行う各生産拠点の在庫も同様の見方で安全在庫と発注点管理をするわけです。そして、現場では「デジタルものづくり」の環境を構築し、さまざまなムダを徹底的に除く自働化も取り入れながら、受注後にブランクをピッキングして、あとは時間勝負の1 個流しで生産するという感じです。

下間
 工場の生産体制としては24 時間体制で生産されているのですか。

遠矢
 基本的には夜も稼働していますが、24 時間というわけではありません。工場によって、あるいは受注の状況によって工場の稼働時間は異なります。当社では天文学的な組合せの少量多品種かつ変種変量生産をするのですが、先ほども述べた膨大な商品バリエーションもロングテールの構造になっていて、ヘッド部分、つまり受注が比較的多いものについてはかなり自働化・デジタル化が進んでいます。そのラインでは1個流しでも無人化が進んでいますので、人に頼らず昼夜稼働させることができます。

 一方テール部分は、デジタル化しているところはあるものの、手動で加工しなければならない部分が残っています。そこでのモノと情報の良い流れをつくるため、デジタル化の前にコテコテな生産改善を行います。

下間
 私自身、御社のサービスを利用してきた中で、当初に比べて商品バリエーションがかなり増えていると感じています。ユーザーのニーズに関する情報はどのように収集をされているのでしょうか。

遠矢
 われわれはEC プラットフォームでのビジネスを手がけていますが、グローバル各地域の営業拠点が65 拠点あり、そこでお客様の声を受け止めています。ところ変わればニーズも競争環境も変わる。それを顧客時間価値向上につながるサービスに盛り込みます。

9工程を1台にまとめた自働化システム「ALASHI」

下間
 御社は精密加工で非常に高い技術力があると感じていますが、こうした高い技術を維持するうえで、特に力を入れていることを教えてください。

遠矢
 われわれは製造現場でデジタルを多用していますが、精密加工・精密測定・精密位置決めがコア技術になっています。そこにはまだ加工技量が必要な部分があります。例えば、金型部品は熱処理後に研磨するものが多く、加工の勘やコツが必要になる難しい部分もあるのですが、われわれはこうした個の技量を「ニンベンの付いた“ 自働化”」に埋め込むという考え方にこだわっています。

 それと、変種変量受注でも1 個流しでも、モノと情報の良い流れをつくるチームプレーが非常に重要になります。現場に届く受注は日々刻々と変動します。日ごとの受注数は月中の安定状態でも±30 %程度変わり、ばらつきは最大で3 倍ほどになります。また、1日の中でもお客様の昼休み前と終業前に受注が跳ねます。しかも、われわれの受注の半数以上が当日から翌々日出荷の短納期。そうした中でジャストインタイムを実現するには、前述のチームプレーがとても重要です。

 さらに言えば、デジタルを駆使し実現しているのがわれわれの強みでもあります。製造現場では一般に紙の指示書や製作図が用いられますが、当社にはそれが一切ない。図面もありません。現場に流れてくるのは製造に関する情報を呼び出すためのRFID とブランクだけです。生産管理も納期属性をコントロールし、平準化生産できる投入制御のロジックをもっています。

 その実現には、技量も必要、それを自働化に埋め込む能力も必要、それをデジタルに翻訳する能力も必要、そして生産現場に必要なハードウェアを開発する能力も必要ということで、さもない部品でも一般的な製造業企業では求められないような総合的な組織能力を備えなければならず、現場・技術・IT 三位一体で人材を育てていかなければならない、ということが課題です。

下間
 御社では内製化率が高いとうかがっていますが、加工設備について教えてください。

遠矢
 金型部品の製作に関して言えば、「ALASHI」という加工設備が挙げられます。これはプレス金型用標準部品の小径丸パンチを生産する自社開発の加工設備で、長年の現場改善を経て、従来の手動での製作の際は9 つあった工程を1 台1 工程に集約できました。当社の現場にはこのALASHI 9 台を円形にレイアウトした「ALASHI スタジアム」を構築しています。加工はワンオペで、受注1 件当たり平均2~3 本という少量多品種をミクロン単位の精密加工で、かつ非常に高い生産性で製造しています。

 具体的には、投入~加工~検査~梱包まで、15 年前には約40 時間かかっていたリードタイムが今は平均40 分で完了できるようになりました。ちなみにALASHI の名称は、円筒研磨加工で荒加工と仕上げ加工が同時に行える設備ということから「荒(ALA)」と「仕(SHI)上げ」を組み合わせて名づけました。

 また最近では、meviy という機械部品調達のAI プラットフォームを展開しています。お客様は設計した3D データをWeb 上にアップロードするだけでAIがすぐに見積もりを完了させ、受注後は最短で即日出荷できるサービスです。そこにも当社独自のデジタル製造システムを開発し、運用しています。これら以外にも、モジュラー化されたデバイスや、あるいは自社で開発したり改造を行ったりした工作機械も備えていますので、製造現場ではほかにないユニークな設備が稼働しています。

下間
 ALASHI スタジアムの導入で、手動で製作していたことに比べてリードタイムは数十分の一と大幅削減し、省人化も実現したとのことで、本当に素晴らしいですね。
小径丸パンチの無人化「ALASHI スタジアム」(写真提供:駿河生産プラットフォーム)

小径丸パンチの無人化「ALASHI スタジアム」(写真提供:駿河生産プラットフォーム)

金型業界の課題は付加価値生産性の向上

下間
 少し目線を変えた質問ですが、日本の金型業界をどのように見られているかお聞かせください。

遠矢
 日本の金型産業の市場が90 年代からダウントレンドであること、生産労働人口が下降の一途をたどっている中で、やはり付加価値生産性の向上を目指すしかないと思います。

 われわれも昔の現場はジョブショップで属人化していてダンゴ流し(ロット単位で生産する方式)で、いわば気合と根性で短納期を実践していましたが、加工技術のデジタル化や、トヨタ生産方式をベースにしたミスミ生産方式(MPS)を編み出し、独自の情報システムや加工設備などを内製化することで、加工そのものや付帯作業に関わる無付加価値なムダを排除し、時間価値を創造してきました。すり合わせ型=手間の温床になりがちな金型産業にもまだやれることはあるのではないかと思います。

 逆に言えば、そういうところに本気で取り組んでいかないと、この先厳しいかもしれません。中国や新興国のプレーヤーと同じことをやっていても勝てないでしょう。日本流のAI 活用もカギかと思います。競争優位につながる独自の金型加工・成形技術を成長産業分野へシフトしていく努力をすることなどで付加価値を高め、持続可能な産業にしていける可能性はまだまだあると思います。

下間
 最後に、御社の今後のビジョンなどをお聞かせください。

遠矢
 ミスミはモノづくり産業を支える基盤として、お客様のモノづくりに関わるプロセス全体をデジタル技術で革新し、「2 つの顧客時間価値」を向上させ続けます。1 つは「確実短納期」、もう1 つは「顧客の工数削減(ムダな業務や作業の削減)」です。そのためにわれわれは未来のモノづくりのアーキテクチャを創出し、社会を豊かにするため挑戦し続けます。

下間
 本日はありがとうございました。
遠矢 工(とおや たくみ)
1986 年 日本大学 理工学部 機械工学科 卒業
2007 年  ㈱ミスミグループ本社 入社
金型企業体 製造部門長
2017 年  生産プラットフォーム・ハブ 本社執行役員
㈱駿河生産プラットフォーム 代表取締役社長

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