型技術 連載「モノづくりの未来を照らす高専突撃レポート」
2025.03.14
第6回 高専ロボコン初優勝! 公大高専優勝までの軌跡
フリーアナウンサー 藤田 真奈
ふじた まな:大阪府出身。元とちぎテレビアナウンサー。関西学院大学卒業後、金融業界の企業に就職。その後転職してアナウンサーに。とちテレニュース9(とちぎテレビ)、アクセント!、ミライを照らせ~KOSEN*Passport to the world~(ともに栃木放送)、Berry Good Jazz(Radio Berry)などに出演中。
Instagram:mana.fujita
全国の壁を感じていた「高専ロボコン」
大阪府の東北部、淀川の左岸に位置し、大阪梅田から在来線で20 分ほどの場所に位置する寝屋川市。住宅や商業施設、町工場などが立ち並ぶ、大阪市郊外のベッドタウンであるこの地に大阪公立大学工業高等専門学校(公大高専)はあります。
以前は大阪府立大学工業高等専門学校(府大高専)という名称でしたが、大阪府立大学と大阪市立大学が統合して公立大学法人大阪が発足したのに伴い、同法人が高専の設置者に。2022 年4 月1 日に名称が変更されました。
高専と言うと多くの方が連想するであろう「高専ロボコン」。公大高専では「ろぼっと倶楽部」のメンバーたちが毎年参加し、ロボットづくりの技術を磨いています。しかし、自慢のロボを携えて出場しても地方大会で敗れてしまうこと多数…。仮に全国大会に進めたとしても強豪たちを前になかなか勝ち上がることができず、全国の高い壁を感じていました。
2023 年の大会テーマは「もぎもぎ!フルーツGOラウンド」。会場に設けられたコースを周回しながら、高い場所に吊るされたフルーツ(を模したボール)をロボット自体が収穫しながら進むという競技で、コースには、ロボットの行く手を阻む「段差」や「ロープ」という障害物が設置されています。制限時間内にその中をいかに素早く動いて多くのフルーツを収穫できるかを競うというものでした。
そんなお題に対して公大高専のメンバーたちが製作したのは、黒のスタイリッシュなフォルムが美しい「鴉(カラス)」です(図1)。
図1 優勝ロボ「鴉(カラス)」(写真提供:藤田真奈)
これは、圧倒的なスピードが武器のロボットで、どのチームよりも早く障害物を越え、真っ先にフルーツを収穫できる場所に到着することを目指しました。さらに、フルーツにはそれぞれ収穫した際にもらえる点数が割り振られているのですが、いち早く収穫作業を始められるため、高得点のフルーツの独占を狙います。また、相手が落としてしまったものを拾い上げたり、相手が取ろうとしているものを横取りしたりする機能も搭載しました。
会場内にはさまざまな高さの場所にフルーツが吊るされているのですが、高い位置にあるフルーツを収穫する際にはロボット表面のカバーがカラスの羽のように広がり、中の機構が伸びてくるという仕組みになっていて、この動きも見ていて楽しいと高評価を得ました(図2)。
図2 伸びた状態の鴉とチームリーダーの星川くん(写真提供:藤田真奈)
目標は全国優勝! そのために選んだ地区大会後の“ゼロスタート”
そんな工夫が詰まったロボットで近畿地区大会に臨みましたが、優勝には手が届かず…。しかし、ロボットの移動スピードとほかのチームにはない数々のアイデアが評価され、審査員推薦枠で全国大会への出場権を手にしました。
全国大会への出場は決まったものの、あくまでも自分たちの目標は全国大会での優勝。「このままでは全国制覇はできない」。そう感じた星川聖くん(チームリーダー)は、ここから思わぬ行動に出ます。まずは部員全員で改めて目標を共有しようと、部室に「打倒〇〇」、「目指せ全国優勝」などと書かれた紙を掲示。サポートメンバーを含め、全部員の意識の統一をはかると、次はロボットをいったん解体し、イチからつくり直すことにしたのです。この時点で全国大会まで1カ月半。地区大会でも十分通用し、勝ち上がれたロボットを解体するという勇気。私なら真っ先に「もったいない」と思ってしまいますが、解体への迷いや間に合わないかもしれないという不安はなかったのかと尋ねると、「間に合わせるにはどうしたらよいかしか考えていなかった」と星川くんは振り返ります。
問題点を改善してイチからつくり直したことが功を奏し、公大高専は全国大会で悲願の初優勝! 全国124 チームの頂点に立ったのです。「全国優勝」という明確な目標を掲げ、「そのために必要なものは何か」、「自分たちに足りないものは何か」というのを洗い出して一つひとつつぶしていく、この“逆算の思考” が彼らを優勝に導きました。
後輩たちに受け継がれるモノづくり愛
3 月上旬のある日、京都で行われていた新人ロボコン大会(関西春ロボコン)の会場にろぼっと倶楽部のメンバーの姿がありました。昨年の優勝メンバーだった先輩たちが抜け、チームも一新。中には1 年生(3月現在)のみで編成したチームもありました(図3)。
高専に入学して1 年足らずの学生たちだけで、はたして複雑な動きを実現するロボットをつくることができるのだろうか…。そう思い、メンバーに尋ねてみると、「授業で習うのを待っていたら不可能なので、自分で調べ、手探りでやってみて、失敗を繰り返しながら学んでいる。そうしている間に進級して授業で理論の部分を習うそうなので、授業を通して復習したい。甲子園球児が自主トレするのと同じことです」とさわやかに答えてくれました。
しかし、ここで私には1 つの疑問が。授業における課題や実習が多い高専生は、ただでさえ忙しいという印象…。はたしてそんな彼らに「自主トレ」の時間はあるのだろうか? そこで1 年生リーダーの正田貴悠くんに1 日のスケジュールを聞いてみました。
平日は授業終了後、部活動へ。部活動が終わるのは19 時頃で、20 時に帰宅。帰宅後はすぐに夕食をとり、まず仮眠。23 時に起きて入浴を済ませ、0 時頃から課題やテスト勉強、部活から持ち帰った「トレーニング用商材」に取り組み、午前4 時半にようやく睡眠。6 時45 分に起床するという生活を送っているのだとか。まさに寝る間も惜しんでロボットづくりに勤しんでいるわけですが、「大変では?」という私の問いに、満面の笑みで「毎日が楽しい」と即答してくれました。
日々好きなことに全力で取り組めているという充実感に満ちあふれている彼ら。全国優勝という先輩たちの勇姿を間近で見ていた世代の今後の活躍が楽しみです。