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機械設計 連載「若手技術者戦力化のワンポイント」

2025.09.25

第16回 成長を急がせたい若手技術者に経験させたい対外的業務

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FRP Consultant 吉田 州一郎

よしだ しゅういちろう:代表取締役社長。東京工業大学工学部卒業後、Fraunhofer Instituteでのインターンを経て、同大大学院修士課程修了。繊維強化プラスチック関連の技術指導や支援を企業に行いながら専門性鍛錬を行う一方、技術者に特化した育成事業を法人向けに展開。自らの10 年以上にわたる研究開発と量産ライン立上げ、国内外企業連携によるプロジェクト推進の経験を踏まえ、繊維、機械、化学などの企業の研究開発現場での技術者育成の指導、支援に尽力。福井大学非常勤講師。
若手技術者戦力化のワンポイント
「若手技術者の成長を急ぎたい」場合、「学会聴講参加を指示し、その参加報告を技術チーム向けに行わせることを通じ、技術議論に慣れさせる」。

はじめに

 技術者育成を含む人材育成は、企業の売上げや利益に直結しないと認識されることも多いため、資金的余力のある大企業を除き、ゆとりをもって取り組むことが難しい。長期目線では人材育成によって人を育て、その取組みを通じた帰属意識を高めなければ組織は成立しなくなることは、多くの企業において共通認識としてあるだろう。それでも、前述の状況を示す事例には枚挙に暇がない。

 この余裕のなさは、技術系の若手社員である若手技術者にも影響を与える。多くの若手技術者が考えることは、“自分も早く成長したい/しなければならない”ということだ。この“焦り”が、技術者育成の観点でいうと弊害となるのは盲点かもしれない。同時に若手技術者の成長を急ぎ、即戦力にしたいと考える企業が多いのも既述のとおりである。

 今回は技術者育成を通じた成長を急ぎたい若手技術者に経験させたい対外的業務について述べてみたい。

若手技術者戦力化のワンポイント

 「若手技術者の成長を急ぎたい」とリーダーや管理職が考えた場合、「学会聴講参加を指示し、その参加報告を技術チーム向けに行わせることを通じて技術議論に慣れさせる」ことを、繰り返し行ってほしい。

技術者としての成長に必須のものとは

 読者の方々にとって、技術者として成長するにあたり必須のものは何と考えるだろうか。このような問いかけをすると、多くの技術系部門のリーダーや管理職が答えるのが、「技術的基礎知識や技術的専門性」だ。これはこれでもちろん重要だが、技術者育成の観点でいうとさらに重要なものがある。それは、「当事者意識を強く持った状態で、技術業務の実践経験を積み上げる」ことだ。どれだけ知識があっても、それを活用することができなければ、それは無用の長物となる。

 “当事者意識”を持つことは大変重要だ。常にどこか他人事であり、何かあると自分以外の誰か、もしくは環境のせいにする技術者は、おそらくどの読者の周りにも一人はいるだろう。このようなタイプの技術者に最も欠けているのは当事者意識だ。自分でなくても誰かが何とかしてくれるだろう、うまくいかないのは職場の方針をはじめとした環境に原因がある、といった考えが当事者意識の低下を助長している。

 このように、どこか一歩引いている立ち位置から技術業務を推進したとしても、経験で得られるのは“知っている”という知識止まりだ。企業から求められ、そして技術者育成を通じて技術者が獲得すべき“知恵”を得ることはできないだろう。知恵とは単に知っていることを意味する知識を応用し、実践的な行動まで結びつけられる知見のことで、当事者意識を持たない状態では絶対に身につかないことは過去の連載でも述べた1)

 同様に“実践経験”は極めて重要だ。インターネットで検索する、生成AIに質問する、専門家に相談する。どれも技術業務を推進するには妥当なアプローチであるが、それよりも自分自身が一歩前に踏み出し、自分の手足を動かして何かしらの結果を得ることの方が重要だ。実践することで失敗することもあるだろう。この失敗を含むさまざまな経験の蓄積が、技術者として最重要の知恵を育む最良の手法なのだ。

 特に若手技術者のうちにさまざまな実践経験を積むことが望ましい。若手技術者はいろいろなことを偏見なしに受け入れる、という素晴らしい柔軟性を有しているからだ。一方で若いうちから失敗を恐れて実践経験を後回しにすれば、理想論ばかりを言う評論家になることは言うまでもない。評論家の中堅やベテラン技術者は“組織のお荷物”への道を進むこととなる。

当事者意識を持った実践経験蓄積の機会獲得を阻害する要因

 若手技術者を一刻も早く即戦力にするためには、リーダーや管理職は若手技術者に当事者意識を持たせ、実践経験を積ませることが最良だ。このような取組みを言葉にすることは簡単だが、実行するのは容易ではない。このような機会獲得を阻害する要因は、実はリーダーや管理職にある。とはいっても、リーダーや管理職が悪いという意味ではなく、若手技術者にそのような経験をさせることに“不安を覚える”ことが要因なのだ。

 リーダーや管理職がいだく代表的な不安が、「技術業務経験も浅く、自らの意見をベースに技術議論もできない若手技術者に、当事者意識を持たせたうえで実践経験をさせるのは早いのではないか」というものだ。

「技術者育成の観点から技術業務の実践経験をさせる必要性はわかるものの、仮に若手技術者が失敗して業務が後戻りし、業務推進効率が低下するようなことがあれば大変である。まず若手技術者には、技術業務よりも雑務をこなしてもらい、企業組織で働くうえで理解すべき基本的な部分を理解してほしい」。

 このような考え方がリーダーや管理職の本音ではないだろうか。当然、若手技術者は企業組織で働く基礎を理解しなければならず、前述の考え方は妥当といえる。しかし、若手技術者のうちに当事者意識を持たせ、技術業務の実践経験を積ませることは、技術者育成に長い時間をかけられない多くの企業にとって必要な取組みであることも事実なのだ。リーダーや管理職はこのことを念頭に、若手技術者のうちから技術業務を実践経験させることを意識してもらいたい。

技術業務の実践経験の第一歩は技術議論から

 若手技術者に技術業務の実践経験を積ませるにあたり、何を重視すべきかについて述べる。一言でいえば“技術議論”だ(図1)。技術業務の多くは、期待したものと異なる結果が出る、得られた結果の解釈が不明といった不確定要素が含まれる。このような不確定要素を一つひとつ明らかにし、技術業務を前進させるのに必要なのが技術議論である。
図1 技術議論は技術業務の基本中の基本

図1 技術議論は技術業務の基本中の基本

 技術議論の基本は、情報の発信者である技術者が“自分はこう考えるが”という枕詞を付けられることにある。わからない、知らない、経験がないといった他力本願のようなスタンスではなく、自分の意見を述べたうえで、ほかの技術者はどう思うか、自分と異なる意見はあるかといった、自分を出発点にする、つまり当事者意識を持つことがポイントだ。

 技術議論ができるようになるには、若手技術者のうちから場数を踏むしかない。リーダーや管理職は技術者育成を急ぎたいのであれば、技術議論をする機会を若手技術者に、できるだけ早く、かつ高頻度で提供するよう心掛けなくてはいけない。
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