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機械設計 連載「事例から見る摩擦・摩耗の基礎とトラブル解決手法」

2025.09.19

第4回 潤滑

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安藤技術士事務所 安藤 克己

あんどう かつみ: 所長、博士(工学)、技術士(機械、金属、総合技術監理)。1977 年東北大学大学院工学研究科修了、新日本製鐵入社(現日本製鉄)。釜石製鐵所、君津製鐵所、技術開発本部(富津)にて、製鉄設備エンジニアリング、設備長寿命化などの研究開発に従事。2000 年から日鐵テクノリサーチ(現日鉄テクノロジー)にて、材料・トライボロジー、腐食防食技術の試験・分析・評価、研究支援、コンサルティングに従事。2016年安藤技術士事務所開設、技術コンサルタントとして活動中。

流体潤滑と弾性流体潤滑

 鉄道車両用部分ジャーナルすべり軸受を用いたTowerの実験1)による油膜圧力の発見(1883)に触発され、Reynolds により流体潤滑理論の基礎が確立(1886)された。流体潤滑の骨子は、摺動面の接触を妨げるために十分に厚い油膜の存在を予測し、定量化するものである。油膜を発生させる支配因子は油の粘性である。

 粘性は、流体(潤滑油)において最も重要な性質である。粘性は、図1に示す、距離hだけ離れ、下板は静止し、上板がすべり速度Uで移動する、流体で満たされた平行平板(面積A)で定義される。摩擦力をF、せん断応力(単位面積当たりの摩擦力)をτとすると、速度勾配はU/h=du/dy、であるから、τ=F/A=ηU/h=ηdu/dy、の関係が成り立ち、粘度(粘性係数)ηが定義される。流体によるせん断応力は流体粘度と速度勾配に比例することを示すτ=ηdu/dy、で与えられる関係をニュートンの粘性法則と呼び、この関係に従う流体をニュートン流体と呼ぶ。
図1 粘性の定義

図1 粘性の定義

 粘度ηのSI単位はPa・sであるが、従来用いられてきたcP(センチポアズ)と、1 cP=0.001 Pa・s=1 mPa・s の関係があり、mPa・s が使われることが多い。粘度を密度で除した値を動粘度νと呼ぶ。動粘度νのSI単位はm2/sであるが、従来用いられてきたcSt(センチストークス) とは、1 cSt=1 mm2/s の関係があることから、mm2/s が一般に使われる。水(1 気圧、20℃)の粘度は1.002 mPa・s(cP)、動粘度は1.01 mm2/s(cSt)である。潤滑油の粘度、動粘度は、40℃、1 気圧における値が用いられるが、温度が上昇すると低下する特性、圧力が上昇すると上昇し最終的に固化する特性があるので2)、温度特性、圧力特性には留意する必要がある。

 流体潤滑HL(Hydrodynamic Lubrication)は、流体の潤滑膜が形成され、両面が完全に離れている状態である。Reynolds は、種々の仮定において、潤滑部内の流体にかかる力のつり合いと流量が一定という関係から、Reynolds 方程式と呼ばれる流体潤滑の基礎式を導いている。Reynolds 方程式の導出と物理的意味については、多くの教科書2)に記述されているので参照いただきたい。

 流体潤滑のポイントは、発生圧力pの勾配は∂ p/∂ x∝ηU/h2、発生圧力はp∝η UB/h2(B:軸受長さ)の関係があることである。すきまhが小さいほど、発生圧力は大きくなることが、流体潤滑作用の利点である。速度Uが大きく、かつすきまhが小(高精度面)であれば、圧力が発生し、粘度ηの小さい水や空気も潤滑流体となることが示されており、水や空気軸受として実用化されている。一方、紙、フィルム、薄鋼板などのロールによる高速搬送では浮上によるスリップや製品変形などの問題が起きるため、浮上抑制技術が技術課題となっている。

 Reynolds 方程式を、一定の境界条件を与えて解くことにより油膜圧力分布、油膜厚が求められる。図22)に、ジャーナル軸受(ラジアル荷重を受け回転軸を支承する円筒径の軸受)における油膜圧力分布を示す。図2 では、軸と軸受とのすきまが誇張されて描かれているが、実際のすべり軸受では、1/1000 程度(軸径が50 mm で片側平均すきまは25 μm程度)であることに留意されたい。油膜圧力分布は複雑な曲線であるが、平均軸受圧力は、荷重/軸受面投影面積=荷重/(直径×軸受長さ)で与えられ、実用的によく使用される。
図2  ジャーナル軸受における軸と軸受の相対位置関係と油膜圧力分布

図2  ジャーナル軸受における軸と軸受の相対位置関係と油膜圧力分布

 流体潤滑HLでは、接触圧力が低く、潤滑面の変形は流体膜厚に比較し無視できる。これに対し、接触圧力が高くなると、接触面の弾性変形による接触面積の増大や接触圧力の低下の影響、潤滑油粘度の増大による油膜形成能力増加、などを考慮しなければならない。Reynolds 方程式、接触面の弾性方程式、潤滑油の状態式を連立して解く必要があり、この領域を弾性流体潤滑EHL(Elastohydrodynamic Lubrication)と呼ぶ。弾性流体潤滑理論では、線接触における最小膜厚hmin を求めるDowson-HigginsonのEHL式がある。図32)に、線接触EHLにおける圧力分布と油膜形状を示す。出側で最小膜厚hmin が得られる。EHL最小膜厚の目安は0.1~1 μmである。圧力スパイクは、EHLの特徴であるが、軽荷重時に発生するもので、速度の影響は大きいが、荷重を変えても油膜はあまり変化しない。
図3 線接触EHLにおける圧力分布と油膜形状

図3 線接触EHLにおける圧力分布と油膜形状

弾性流体潤滑と表面粗さ

 潤滑条件における摩擦係数の測定は、固体表面間に粘度ηの流体膜を形成し、すべり速度Uと荷重Wを広範囲に変化させて行うことにより、図4に示す、流体膜による潤滑モードを示す特徴的な結果が得られ、ストライベック曲線(Streibeck、1903)と呼ばれる。縦軸は摩擦係数、横軸は、粘度×速度/面圧、で軸受特性数と呼ばれる、すべり軸受設計のための基本特性数である。軸受特性数はηU/p=ηU/(W/B)、で求められる。ここに、pは平均面圧、Bは軸受長さである。
図4  ストライベック曲線:①~④は潤滑油添加剤の効果

図4  ストライベック曲線:①~④は潤滑油添加剤の効果

 潤滑モードは、合成粗さσと油膜厚さh0との比Λ(油膜パラメータ)で決まる。膜厚比、合成粗さは、下式で求められる。σ1、σ2は、相対する二面の二乗平均平方根粗さ(標準偏差)である。合成粗さは、表面粗さを持つ二面の接触問題において、計算を容易にするため、一方の面を平面、反対面を合成粗さの面として、接触解析するときに用いられる。
図4  ストライベック曲線:①~④は潤滑油添加剤の効果
 図5 に、潤滑モードと油膜パラメータの模式図を示す。流体潤滑領域ではΛ>3 であり、二面は接触しない。弾性流体潤滑領域ではΛ=1~3 であり、局所的に突起間干渉が起こる可能性が出てくる。境界潤滑(Boundary lubrication)領域では、Λ<1 であり、油膜による負荷能力が十分でなく、局所的に金属間接触が生じ、摩擦係数が、荷重、すべり速度、潤滑流体の粘度に依存しない状態となる。混合流体潤滑領域は、境界潤滑と流体潤滑が混在している潤滑状態で、1<Λ<3となる。
図5 潤滑モードと油膜パラメータ

図5 潤滑モードと油膜パラメータ

 ストライベック曲線において、境界潤滑領域の摩擦係数は0.1程度である。動力伝達装置などでは、摩擦係数を制御しつつ低摩耗を達成するために重要な領域であり、接触面の最適表面性状、高面圧用潤滑剤、各種皮膜などが開発されている。
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