icon-sns-youtube icon-sns-facebook icon-sns-twitter icon-sns-instagram icon-sns-line icon-sns-tiktok icon-sns-etc
SEARCH

型技術 連載「モノづくりの未来を照らす高専突撃レポート」

2024.12.17

第3回 四角いアタマを丸くする―奈良高専独自の教育プログラム

  • facebook
  • twitter
  • LINE

フリーアナウンサー 藤田 真奈

ふじた まな:大阪府出身。元とちぎテレビアナウンサー。関西学院大学卒業後、金融業界の企業に就職。その後転職してアナウンサーに。とちテレニュース9(とちぎテレビ)、アクセント!(栃木放送)、BerryGood Jazz(Radio Berry)、軽井沢ラジオ大学モノづくり学部(FM軽井沢)などに出演中。
E-mail:manafujita.mc@gmail.com
Instagram:mana.fujita

文武両道が魅力の奈良高専

 奈良県の北部、大阪の中心部から在来線で1 時間ほどの場所に位置する大和郡山市。郡山駅からバスで10 分ほどのところに奈良工業高等専門学校(奈良高専)はあります。

 今年4 月で開校から60 年、これまでに輩出した卒業生は9,000 人以上。卒業生たちは幅広い分野で産業界を支えています。そんな奈良高専は、勉学だけでなく課外活動でも優秀な成績を収めているんです。全国高専将棋大会では4 連覇! 全国高専ラグビーでも2019~22 年まで4 連覇! 昨年こそ惜しくも優勝を逃しましたが、今年は2 年ぶりに優勝に返り咲きました。さらに高専ロボコンではおととし2022 年に2 度目の優勝(図1)。最も優れたアイデアに贈られるロボコン大賞の受賞回数は、全国トップの4 回を誇ります。
図1 2022 年のロボコン優勝作品「三笠」と優勝メンバー(写真提供:藤田真奈)

図1 2022 年のロボコン優勝作品「三笠」と優勝メンバー(写真提供:藤田真奈)

感性を養う「しなやかエンジニア教育プログラム」

 そんな奈良高専では、近年とてもおもしろい取組みが行われています。その名も「しなやかエンジニア教育プログラム」です。

 歴史を振り返ってみると、「握り寿司×ベルトコンベヤ=回転寿司」、「インターネット×携帯電話×音楽プレイヤー=iPhone」のように、世の中にムーブメントを起こすような革新的なアイデアは、異分野の技術同士を融合させたり、技術とサービスを融合させたりして、既存の技術から「新たな価値」をつくり出すことから生まれてきました。

 そうした異分野のモノ同士を結びつけるという発想はどのようにしたら生まれるのか、言い換えればどういう人が生み出せるのかと考えたときに、「それには感性が必要だ」という答えに行き着いたのです。それなら感性をもった人材を育成する必要がある! しなやかで柔軟な感性を養える教育プログラムを! となって誕生したのがこのプログラムです。

 では、実際にどのような授業が行われているかというと、業種や職種にかかわらずさまざまな立場の人を講師に招いて、その方の職業観や幅広い知見に触れるというもの。これまでの講師陣を見てみると、陶芸家や杜氏、心理学者、航空会社の客室乗務員、e スポーツ選手など本当に多種多様な顔ぶれ。担当の顯谷智也子准教授にうかがったところ、「エンジニアから極力遠いと思われる場所にいる方を招き、さまざまな世界について見聞きすることで、豊かな感性と表現力が培われるのだ」と言います。

私も講義を担当させていただきました!

 このたびご縁あって、私もしなやかエンジニア教育プログラムの講師としてお招きいただき、学生さんたちの前でお話する機会をいただきました。優秀な高専生たちに私が伝えられることはあるのだろうか…といささか不安ではありましたが、学生さんたちがこれから直面するであろうプレゼンの場や就職活動などで少しでも役立ててもらえたらと思い、「声や話し方が人に与える印象」という演題でお話させていただきました(図2)。
図2 当日の講義の様子(写真提供:藤田真奈)

図2 当日の講義の様子(写真提供:藤田真奈)

 参加してくれたのはおおよそ40 名の学生さんと先生方。高専というと理系の男子学生が多い印象だったのですが、驚くことにこの講義を受講していたのは8割が女子学生。このプログラム自体が、まだまだ日本に少ない「女性エンジニアリーダー」の育成を主な目的に据えているということで、向学心の高い学生さんたちが集まっていました。そんな学生さんたちを前に、アナウンサーとはどんな仕事なのか、どんなことが求められるのか、求められることに応えるためにはどうすればよいのかなど、私のこれまでの経験を踏まえてお話すると同時に、声の高さや話す速度、また立ち居振る舞いによって、相手に与える印象が大きく変わるということについてお伝えしました。

 講義の最後には、この日伝えた「印象を演出するための法則」を活用して、「4 人1 組でCM を制作する」というグループワークに取り組んでもらいました(図3)。プロモーションするのは、ペットボトルに入った水。これを何に見立ててCM をつくるかもチームに委ね、ストーリーを考える人、演じる人、ナレーター、監修をする人と役割分担をし、考えたCM をその場で即興で演じてもらいました。
図3 グループワーク時の様子(写真提供:藤田真奈)

図3 グループワーク時の様子(写真提供:藤田真奈)

 15 分ほどの制作時間だったのですが、発表を見てびっくり! それはそれは素晴らしいCM が数多く誕生したのです! 特に驚いたのは、どのグループの発表にも「オチ」があったということ。きちんと商品の魅力を伝え、購買意欲をそそり、最後にオチで笑いを誘うなんて…。これは関西圏ならではのうれしい誤算だったなぁと振り返っております(笑)。

 講義をさせていただく中でいろいろ心に残るシーンはあったのですが、特に印象に残っているのは、講義後に声をかけてくれた学生さんの言葉です。それは「今までなかなか人には言えなかったけれど、実は昔からアナウンサーになりたいと思っていたんです。でも自分は理系に進んだ。理系ではアナウンサーになれませんか?」というものでした。もしかして私の話を聞いて、アナウンサーになりたいという気持ちを思い出してくれたのかなと考えたらとてもうれしくて…。熱くアドバイスしてしまいました。理系のアナウンサーはたくさんいますし、理系は強みです。それに、高専でエンジニアとしての知識をもち合わせた人がアナウンサーになったら…。「話す×?=??」、「伝える×?=??」、「テレビ×?=??」。一体どんなものを世の中に生み出してくれるのだろう。また新たなイノベーションが起こりそうな気がしてワクワクします。

 さまざまな人やモノに触れることで、好きなことや興味のもてることを見つけることができる。興味のあることが多くなればなるほど、その分野へのアンテナが敏感になり、掛け合わせのバリエーションも増える。さまざまなことに興味をもち、考え、経験することがイノベーションにつながっていく。「これこそが『しなやかエンジニア教育』なのだな」と身をもって感じることができました。鋭い感性をもった若きエンジニアたちの将来が楽しみです。