医療機器の設計・製造に関する展示会「Medtec Japan(メドテックジャパン) 2025」(主催:Medtec Japan 事務局)が4月9日~11日の3日間、東京ビッグサイトで開催された。16回目の開催となった今回は、海外企業44社を含む、478社の企業・団体が出展し、3日間に17,261人が来場した。(『機械設計』編集部)
医療機器
医療機器の設計・製造において、国内企業による革新的な医療機器を表彰する「Medtecイノベーション大賞」。野村ユニソンは、優秀賞を受賞した「REVOシリーズ シングルシャフト回転型手術器具」を協力会社のブースで出展した(写真1)。外科手術に必要な持針器、鉗子、剪刃をラインナップしている。特許技術である、親指と人差指のみでのハンドル操作により、シングルシャフトで先端部のはさみを開閉、ロック、回転できる機構が特徴だ。
写真1 シングルシャフト回転型手術器具(野村ユニソン)
また、出展はなかったが、大賞には、ゼオンメディカルの「ゼメックス先端可動カニューレ」が選ばれた。ERCP(内視鏡的胆管膵管造影)検査や内視鏡的胆管処置に用いるもので、内腔に通した駆動ワイヤにより、先端部を2 方向に屈曲できる。屈曲部の素材にePTFEを使用することで、カテーテル先端付近での急峻な屈曲と内腔確保を実現しているとしている。
千葉県東葛地区の中小製造業が連携して医療機器を開発・設計している「東葛医療ものづくり会」では、医療器具や装置を出展した。その中の一つとして、長浦製作所は手術室などで使用する点滴スタンドの電源確保補助具「スマート紺タップ」を展示した(写真2)。点滴スタンドのポールに固定することで電源ケーブルの取回しを安全に行える。上部のホルダは点滴の液が上から漏れた際にコンセントに液が流れ込むのを防ぐ役割を果たす。開発にあたっては千葉県内の病院からの要望を受けて改良を重ねてきたという。
写真2 点滴スタンドの電源確保補助具(長浦製作所)
設計技術・機器
パンチ工業のブースでは、自動機の設計・製作を手がけるグループ会社のASCeが、牛乳から牛の病気を検査するため工程の一部を自動化する装置のデモを行った(写真3)。酪農家から検査用に送られてくる牛乳が入ったチューブは、キャップを押し込んで取り付けるタイプと回して取り付けるタイプがある。同装置では、カメラでキャップのタイプを認識し、タイプごとに分けたうえで、キャップを取り外す。次に液面の高さを見て、チップで吸い込み、検査用ディープウェルプレートに順番に注いでいくまでの工程を自動化できる。
ダイトロンのブースでは、ガードナー・デンバー製の液体ダイアフラムポンプや気液混合ダイアフラムポンプ、樹脂製多層マニホールドなどが展示された(写真4)。気液混合ダイアフラムポンプは、体外診断装置の廃液用途に向き、廃液量に合わせて複数種類のポンプから選べる。接液部は耐薬品性の高いPTFE材質もラインナップしている。モータは、高性能・長寿命のBLDCモータ、低コストのDCモータから選択できる。樹脂製多層マニホールドは、25種類以上の樹脂から選択でき、最大6層までの積層により複雑な流路を形成できるフルオーダー品。複雑な配管やチューブを必要としない。
写真4 ダイアフラムポンプと樹脂製多層マニホールド(ダイトロン)
精密シャフトメーカーの三和ニードル・ベアリングは、同社の研削加工技術を活かしたすべりねじなどを出展。歯科用麻酔装置やPCR検査装置に採用実績のあるφ3のすべりねじのほか、φ0.55の極小すべりねじ(写真5)も紹介した。ばらつきが少なく、クリアランスは2μmで調整可能だという。ボールねじと比較した同社のすべりねじは、価格が約1/5、ねじ効率は他社製品と比較して約20%高い約75%としている。
写真5 極小すべりねじ(三和ニードル・ベアリング)
JSOLは、非線形構造解析ソフトウェア「Ansys LS-DYNA」を用いた医療分野でのシミュレーション適用例を紹介した。例えば、ストラットステントの曲げや縮管、カテーテルの曲げや挿入、血管内の血液の流れ、人体傷害解析などが紹介された(写真6)。
写真6 医療分野でのシミュレーション適用例(JSOL)
日立製作所は、医療分野への参入を試みる企業を対象に、テーマの創出やそれを実現する手段の検討などをサポートするコンサルテーションを提案した(写真7)。具体例としてはインスリン注入ポンプ制御アプリケーションの開発などを紹介していた。医療機器の開発だけではなくDX活用による高付加価値化といったところまでサポートする点に特徴がある。
写真7 医療分野への参入を支援するビジネスの展示も目立った(日立製作所)
成形・加工技術
ホッティーポリマーは、シリコーンゴム100%で造形可能なLAM(液体積層造形)方式を用いた自社開発の3Dプリンタ「SILICOM(シリコム)」と、その造形品を出展した。スタンダートタイプ(SS-01)とデスクトップタイプ(SD-01)があり、前者は最大造形サイズがW140×D140×H80mm。30°、40°、50°の硬度を選択でき、色調は標準で6色をラインナップする。造形品は、心臓モデルや血管モデル、耳モデルなどの医療分野のほか、カキフライの搬送の自動化に採用されたロボットハンド、ワイヤシールなどの自動車向けも展示した(写真8)。
写真8 シリコーンゴム成形品(ホッティーポリマー)
BMF Japanは高精細3Dプリンタ「microArch」や造形材料の開発、造形サービスを手がける。同3Dプリンタは、DLP方式をもとに、PµSL(Projection Micro-Stereolithography)と呼ぶ独自の光造形技術を備えている。ブースでは、同3Dプリンタで造形した医療向け試作品を出展した。写真9は、寸法1.2×2×0.15mmの心臓血管ステントで、造形材料はアクリル樹脂、解像度は10μm。ほかにもアルミナセラミックを造形材料とした、サイズ9.7×5.4×7.4mm、解像度10μmの内視鏡部品なども出展していた。
写真9 寸法1.2×2×0.15mmの心臓血管ステント(BMF Japan)
FA装置などの請負設計や部品加工などを手がけるZESTIAでは、顧客の要望に応じた柔軟な対応で医療分野の開拓を試みている。設計から組立てに至るまでさまざまな工程に対応できるという。例えば、金型設計と解析を自社内で行い、品質評価を行ってから数十個から数百個くらいの少ロットダイカスト生産を得意としている(写真10)。
写真10 少量生産に対応可能なことが強み(ZESTIA)