型技術 連載「モノづくりの未来を照らす高専突撃レポート」
2024.11.27
第2回 ロボットか人間か―小山高専のチャレンジ
フリーアナウンサー 藤田 真奈
ふじた まな:大阪府出身。元とちぎテレビアナウンサー。関西学院大学卒業後、金融業界の企業に就職。その後転職してアナウンサーに。とちテレニュース9(とちぎテレビ)、アクセント!(栃木放送)、BerryGood Jazz(Radio Berry)、軽井沢ラジオ大学モノづくり学部(FM軽井沢)などに出演中。
E-mail:manafujita.mc@gmail.com
Instagram:mana.fujita
ユニークなモノづくりで2 年連続ロボコン日本一!
栃木県の南部、東京から新幹線で40 分ほどの場所に位置する小山市。その住宅地の一角に小山工業高等専門学校(小山高専)はあります。開校から50 年以上の歴史があり、これまでに輩出した卒業生は8,000人以上。また、求人倍率は毎年25 倍を超え、就職率は100 %という実績を誇ります。そんな小山高専は高専ロボコンの強豪校でもあります。2020 年と2021年は、アイデアあふれるロボットを携え、見事ロボコン大会で優勝に輝きました。
私が小山高専を訪れて最初に向かったのは「ロボコン部」の活動部屋です。ロボコン部というのは、その名のとおり「高専ロボコン」への出場を主な活動とした部活動で、学生さんたちは課外活動として放課後に製作活動に取り組んでいます。この日は私が来るということで、これまでに手がけた作品を手元に置いて出迎えてくれました。
女性の頭頂部を模したロボットには、バッチリお化粧が施され、美しく伸びたまつ毛やきらびやかなヘアアクセサリーが輝いています。「シンクロシスターズ」と名づけられたこのロボットは、その名のとおりシンクロナイズドスイミング(アーティスティックスイミング)をする選手の動きを陸上で表現しようとつくられたものです(図1)。頭の形をしたロボット3 体と脚の形をしたロボット3 体が対になっていて、水面に見立てた地面にその6 体のロボットを置いて動かします。
図1 2020 年のロボコン優勝作品「シンクロシスターズ」(写真提供:藤田真奈)
ロボットの見た目をできるだけ実際の選手たちに近づけようと、頭の部分には本物のウイッグを使用。選手たちが水に入っても髪型をくずさないためにゼラチンを使ってヘアセットを行っていることを知り、木工用ボンドで髪の毛のウエットな質感を表現しました。また、製作したロボットがスイッチ一つですべてやってのけるのではなく、人間のスキルが加わって初めて完成するというのが、この作品の特徴です。
ロボット1 体につき1 名の操縦者がつき、1 体ずつリモコン操作で動かします。ロボットに動作をプログラミングしてしまえばぴったりと動きを合わせることはできるのですが、そうではなくあえて人間が動かすことで機械ではうまく表現できない微妙なズレを演出し、人間らしさを出しているのだそうです。AI が人間に取って代わると言われている時代の流れの中で、ロボットと人間の共存のあり方を見たような気がしました。
ロボットは人間に勝てるのか?
そんな小山高専に、ある日1 本の電話が ―。内容は「人間と勝負して勝てるサッカーのシュートロボをつくれますか?」というものでした。納期は3 カ月後。モノづくりに携わる者として「No」の選択肢はなかったという担当の田中教諭。そこから部員たちが中心となって連日放課後に構想を練り、製作したのがシュートロボ「タムジーニョ」です(図2)。
図2 大型シュートロボ「タムジーニョ」(写真提供:藤田真奈)
ゴムの反発力と振り子の原理を使って、ボールを前に蹴り飛ばすよう設計されたロボットです。機能的には骨組みだけで良かったのですが、見た目も楽しいものにしたいとのこだわりから、外国人選手を模した外見につくり上げました。ボールをセットする位置で軌道が変えられ、ゴムにかける負荷を調整することで蹴る強さも調節できます。ボールのセットポジションは遠くから見ただけではわからないので、軌道を読まれる心配もありません。ここまでで十分人間と勝負できそうに思いますが、彼らのすごいところはここで満足しないところ。さらにアッと驚かせる仕掛けを加えようと、このロボにしゃべる機能を搭載したのです。「右とみせかけて…左!」など、声によるフェイント機能を追加、さらに、より人間らしい動きと迫力を追求し、ボールを蹴るタイミングに合わせて腕を振る動きも加えました。
さまざまな細かい工夫が光るロボットですが、製作の過程で一番苦労したのは、ボールの速度を上げることだったそう。はじめは1 本の棒がボールを弾き飛ばす、まさしく振り子の形状でつくっていたのですが、なかなか速い球にならない。そこでヒントを得たのは自分たちの足でした。振り子の先端につま先をつけることで力を集約できないかと考え、これを試してみると大当たり! 球の速度がグンと上がったのです。
完成したロボットは、テレビ番組の企画で強豪サッカー部の高校生と対決。ゴールキーパーに元日本代表の選手を置いてPK 戦を行いました。強豪サッカー部の選手が軌道を読まれてキーパーに止められてしまう中、タムジーニョはゴールキーパーの手が届きにくいゴール上の隅を狙ってシュート! また、蹴る強さを変えたり声によるフェイントをかけたりする作戦も功を奏し、蹴ったボールはすべてキーパーの裏をかいてゴール。見事人間とのPK 対決を制したのです。
最初の電話の段階で求められていたのは「人間に勝てるシュートロボ」。つまり、ピッチングマシンのように無機質な見た目で良かったし、しゃべらせる必要もありませんでした。しかし、「ここで勝つことが自分たちのモノづくりの終わりではない」という強い思いから、ユニークで楽しんでもらえるモノづくりを目指した結果、タムジーニョは誕生したのだそうです。
“新しいモノづくり” を支えている過去の作品たち
最後に案内していただいたのはロボコン部の歴史が詰まっている場所、格納庫(図3)。彼らの先輩たちが過去に製作したロボットたちが、今も作動する状態で保管されていました。ただ倉庫に収納するだけなら簡単ですが、何年も前のロボットをきちんとメンテナンスしていつでも動かせるようにしておく。これってなかなかできないことですよね。学生さんの1 人は「アイデアに行き詰まったら、昔のロボットに助けてもらうんです」と話してくれました。「そこには必ずヒントがあるから」と。
図3 過去に製作したロボットが並ぶ格納庫(写真提供:藤田真奈)
新しい技術を生み出すことももちろん大切ですが、そうではなく古い技術と古い技術の掛け合わせでイノベーションは起こせる。モノづくりにはそういう発想が大切なんだと改めて感じました。見た人をアッと言わせるモノづくりで高専ロボコンの強豪校と言われるようになった小山高専ロボコン部。その歴史の詰まった格納庫が、彼らの財産であり武器になっているのかもしれません。