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機械技術

2025.04.14

成長の喜びを実感できる職場から高付加価値な製品が生まれる―竹内型材研究所

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 精密プレス金型向けのプレートや特注部品など「MAST(マスト)ブランド商品」を製造販売する竹内型材研究所(神奈川県伊勢原市)。平面や直角、平行といった基本的な研削加工技術に強みをもち、熱処理から加工までの一貫生産や短納期対応で他社との差別化を図ってきた。近年は、研削による鏡面仕上げや極薄難削材加工など難易度の高い加工技術の確立に注力。技術者の育成や技術の継承・改善にも力を入れており、社員1 人ひとりの成長を会社の発展につなげている。

体系的なOJT で人材を育成

 2025 年に設立50 周年を迎える同社は、もともとマストブランド商品を販売する企業としてスタートした。40 年ほど前から加工の内製化に力を注ぎ、徐々に技術を蓄積。現在は主力機である岡本工作機械製作所製の平面研削盤やNICCO 製の成形研削盤のほか、ワイヤ放電加工機、マシニングセンタなどを保有し、平面研削2 名、ワイヤ放電加工1 名、旋盤1 名の計4 名の1 級技能士が在籍する。また、熱処理のための真空炉を数年前に導入し、後加工を考慮した熱処理を社内で施すことで、金型材料「マストハードンプレート」の高品質化と短納期化につなげた。さらに、Ra0.005~0.1μm の鏡面を研削加工で実現する「G-LAP(ジーラップ)」(図1)や、非磁性で粘りのある難削材の薄板研削加工技術を開発。金型以外の需要の掘り起こしにも成功している。
図1  ラップ加工を代替できる「G-LAP」は大幅なコスト削減が可能(写真提供:竹内型材研究所)

図1  ラップ加工を代替できる「G-LAP」は大幅なコスト削減が可能(写真提供:竹内型材研究所)

 これら高度な加工を支える技術者は、独自のステップアッププログラムを活用したマンツーマン指導やOJT で育成している。その際、重視しているのは「その人がもともともっているものに目を向けること」(叶俊輔マネージャー、図2)。教える側は各人の適性を見て、「こういう仕事に向いている」、「ここが苦手だけれど、こういう教え方をすればうまくなるのでは」などと考えながら指導する。「図面通りに加工するというゴールはあるが、そこに至るプロセスは人それぞれ」(廣川和久マネージャー)という考え方が浸透しているため、ベテランが若手に自分のやり方を押し付けることがない。逆に、それぞれの得意な技術やノウハウを教え合う文化が根付いている。
図2  左から叶マネージャー、廣川マネージャー、掛布サブリーダー。いずれも研削加工を担当

図2  左から叶マネージャー、廣川マネージャー、掛布サブリーダー。いずれも研削加工を担当

 ステップアッププログラムは、同社の主力機である平面研削盤と成形研削盤の作業について整備されている。特に成形研削盤は“ 職人技” を要する汎用機のため、時間をかけた丁寧な指導が行われる(図3)。加工業務を「基本操作」、「基本作業」、「通常作業」、「応用作業」のようにレベル分けし、各レベルで習得すべきことを明確化。指導を受ける側はレベルチェックシートを見て、自分が今どのレベルにいて、これからどんな技術を習得しなければならないのかを把握できる。実際のOJTにあたっては、実施期間や研修の方法、内容、目標などを明記した計画書を作成し、教える側・教えられる側が共有する。OJT 後の感想や反省も報告書の形で残され、次回の指導に役立てられる。

 社外セミナーの受講や技能士資格の取得、個人的なチャレンジを支援する体制も整っている。セミナーは当人が希望する以外に、上司が必要と感じた内容のセミナーに部下を送り出すことも。体系的な社内教育とセミナーを活用した知識の更新を継続することで、さまざまな経歴をもつ社員が個々の能力に応じて技術力を高めている。
図3 成形研削盤はハンドル操作の難易度が高い

図3 成形研削盤はハンドル操作の難易度が高い

顧客要求のさらに上を目指す

 成形研削盤を担当する入社5 年目の掛布洋平サブリーダーは、ステップアッププログラムに沿って技術を習得した1 人だ。「最初は苦労したが、新人を脱したときの喜びは大きい」と振り返る。研削加工は、といしの状態や研削液の汚れ具合で加工条件を変えなくてはならないなどマニュアル化が難しい。「金属は生き物。状況に応じて対応する必要があるからこそ、つくりがいがあります」(掛布サブリーダー)。

 平面研削の1 級技能士である叶マネージャーは「加工順序や方法を考えて、思い通りに加工できたときにやりがいを感じる」と話す。同社のオペレータは、公差の中央値を達成することや美しい見た目へのこだわりが強い。同じく1 級技能士の廣川マネージャーも「加工時間は増やさずに、顧客要求のさらに上を目指すのが当社のオペレータ」と語る。職人らしいこだわりは、顧客の信頼を得るうえでも重要だという。

「数値化」でノウハウを共有

 加工ノウハウが属人化しがちな研削加工だが、同社では「数値化」によるノウハウの共有にも取り組んでいる。テーブル送り速度やといし回転数、主軸抵抗値を数値として確認できる平面研削盤を導入。といしがワークを削る音や加工中に手から伝わる感覚といった、言語化しにくく他者に伝えにくいノウハウを数値化している。たとえば、といしとワークとの接触音が「いい音」だったときのテーブル送り速度やといし回転数を記録し、蓄積したデータを基に標準的な研削条件を決める。

「この取組みで研削条件をある程度は均一化できました。主軸抵抗値は切込み量を増やしたり、ドレスインターバルを調整したりする際の目安として使えるため、加工能率も2~3 割アップしています」(廣川マネージャー)。研削条件の目安ができたことで若手の教育がしやすくなった。表示される数値を常に確認しながら加工するので、異常に気付きやすくなるという効果も生まれている。数値化を重視しつつ、その基盤となる“ 職人の感覚” も大事にする同社。「高額な精密研削盤と競っても、負けないくらいのものを人間の創意工夫でつくり上げていきたい」と廣川マネージャーは抱負を語った。

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