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工場管理 連載「キラリと光る技術をM&Aでつなぐ」

2025.07.07

第2回 製造業界の大型M&Aから学ぶ成長戦略

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スピカコンサルティング 松栄 遥

まつえ はるか:製造業界支援部 取締役。岐阜県出身。2012年にキーエンスに入社し、国内トップクラスの成績で受賞歴多数。2016年、日本M&Aセンターに入社。2019年にはM&Aコンサルティングを共同創業し、代表取締役に就任。2023年にスピカコンサルティングに参画。
https://spicon.co.jp/
 今回は、2023~24年(6月時点)に起きた大型のM&A を解説いたします。大手企業のM&A を活用した成長戦略は、中小企業の戦略を検討するうえで参考になるため、近年のM&A 動向とその特徴をご紹介します。

2023 ~ 24 年上半期、製造業における大型M&A

 デジタル技術やイノベーションへの投資が増加し、サプライチェーンの変革が進む中、これに関連する取引が増えています。近年の製造業における大型M&A を図にまとめました。その中から3つの事例をピックアップし、M&A の狙いを解説します。
2023 ~ 24 年上半期の大型M&A

2023 ~ 24 年上半期の大型M&A

1.日本産業パートナーズ×東芝

 日本産業パートナーズ(JIP)陣営は東芝の非上場化を目的にTOB(株式公開買付)をし、全株式の取得を目指すと発表しました。経営に圧力をかける「物言う株主(アクティビスト)」の影響力を排除し、混乱から抜け出すことを目的としており、迷走が続いていた東芝の経営問題は新たな段階に入ります。

2.ベインキャピタル×スノーピーク

 2024 年4 月13 日、スノーピークは米投資ファンドのベインキャピタルと実施したMBO により、非公開化が成立しました。同社は17 年連続の増収を続けてきており、特に近年のコロナ禍によるキャンプ特需によって売上高が4 年間で2.5 倍の307億円まで跳ね上がっています。しかし2023 年12月期の連結業績は売上高が前期比16.4%減の257億円、純利益が同99.7%減の100 万円の結果となり、キャンプブーム失速で在庫過多に苦しむ中MBO に踏み切りました。上場廃止で経営の自由度を高め、長期的なビジョンの実現に軸足を移していくでしょう。

3.丸の内キャピタル×永谷園ホールディングス

 2024年6月3日、永谷園ホールディングスは三菱商事系の投資ファンドである丸の内キャピタルと組みMBO を実施。株式の非公開化を発表しました。国内市場が成熟期を迎えた中で、海外展開・大規模な設備投資・M&A が必要だと認識し、非上場化による経営の自由度を高めることが狙いだと考えられます。

目立つ大手の非上場選択

 大正製薬ホールディングスや、アウトソーシング、スノーピークのように、MBO を選択する企業が増えています。MBO とは、マネジメント・バイアウトの略称で、経営陣などが自社の株式や事業部門を買収して独立することを指し、株式を非公開化する代表的な手法の1 つです。2023 年のMBO 件数は17件で、金額は1兆4,153億円と、過去最高となりました。

 MBO の増加については、最近の東京証券取引所の動向が大きく影響していると推察されます。東証は2022 年4 月に市場再編を行い、上場維持に厳格な審査基準を設けました。また2023 年3 月には、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を企業に要請し、2024 年1 月から要請への取組みを開示(2023 年12 月末時点では、PBR〈株価純資産倍率〉1 倍未満かつ時価総額1,000 億円以上のプライム市場上場企業のうち78%が開示)した企業名を毎月更新するとしております。まだまだ米国よりも基準が甘いのですが、各社が上場する意義を問われています。

投資ファンドとのM&A

 また大型案件の譲受先には、投資ファンドが選ばれる傾向が目立ちます。投資ファンドの中には、プライベートエクイティファンド(以下、PE ファンド)というプレイヤーが存在します。PE ファンドは、投資家からお金を集め、そのお金を未上場企業に投資をし、当該企業のバリューアップをすることがおもな役割となります。

 注目すべき点は、昨今、中堅・中小企業の事業承継先としてもPE ファンドが台頭してきました。米国では「会社を売るのもファンド、会社を買うのもファンド」といわれるくらい、経済のハブ的存在になっているのがPE ファンドです。近年の、国内における事業承継問題の解決に動き出した外資ファンドも相次ぎ、米ベインキャピタルは今後5 年で5 兆円と、直近5 年の約2 倍の投資計画なども発表しています。中堅・中小企業の経営者にとっても、“事業承継先”として、また“成長戦略のパートナー”として、PE ファンドとのM&A が1つの戦略になっていくでしょう。

後継者不在、経営課題の解決手段として

 重要なのは、大手規模であっても企業の売却や買収を通じてより会社を良くしていこうと経営陣が意思を持ち行動している点です。

 2023 年の日本企業全産業におけるM&A の件数は4,015 件(前年4,304 件、前年比▲ 6.7%)でした。そのうち製造業におけるM&A が占める割合は、譲受企業が789 件の19.7%、譲渡企業が1,145 件の28.5%であり、産業別に比較すると最も多い結果になっています。

 さらに、中小企業の賃上げ定着などを柱とする「新資本主義実行計画」では、企業の参入・退出を円滑化するために中小の事業承継やM&A を促進する経営者保証の見直しが検討されています。また、自社株を使った海外企業の買収を可能にする会社法の改正が2025 年を目処に施行されることが決まり、今後ますます国内外でのM&A が活発になることが予測されます。後継者不在の解決手段としてだけでなく、多様な経営課題の解決手段としてM&A が活用できるということを今後もご紹介してまいります。

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