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機械技術

2024.11.21

精度を追求する中でバリを抑えた加工に到達―フォワード

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 精密部品加工を手掛けるフォワード(長野県諏訪市)は、「バリを抑えた加工」を日頃から実践している。微細形状や高い平面度・平行度などの要求品質を保証するには、後工程でバリを取り除くのではなく、切削加工の段階でバリを極力抑えるのが最善との判断からだ。加工条件の選定や工具・加工機の選び方・使い方、ツールパスの出し方などさまざまなノウハウを蓄積しており、大きな強みとなっている。

“攻めの姿勢” で難加工に挑戦

 同社は1988 年に堀内岩夫社長(図1)が創業。社名のフォワード(forward)は「前へ向かって攻める姿勢」を表しており、その名の通りμm単位の微細加工やチタン、ステンレスなど難削材の加工、超硬合金の直彫り加工、鏡面切削加工にチャレンジしてきた。短納期対応も強みの1 つで、最短で翌日の発送が可能。手掛けるのは自動車や半導体の製造ラインに使われる機械部品や治具部品、各種検査機器部品で、その多くが一点ものだ。
図1 堀内岩夫社長

図1 堀内岩夫社長

 加工設備は牧野フライス製作所の立形マシニングセンタ(MC)「iQ300」や「V33i」、安田工業の立形MC「YMC 430」など微細加工に適した機種を揃える。2023 年9 月には安田工業の立形MC「YBM 9150V Ver. Ⅱ」(図2)を新規導入した。同機は各軸移動量X1,500×Y900×Z450mm、最大主軸回転速度24,000min−1 で、一体型ブリッジ構造により長期間、安定して精度を出せる。フォワードは現在、高精度が要求される大物部品加工の受注に力を入れており、YBM 9150V Ver. Ⅱはそのための設備投資だ。
図2 大物部品の高精度加工に適したMC

図2 大物部品の高精度加工に適したMC

 仕事をするうえで重視するのは精度を保証できるかどうか。「モノづくりは精度が基本です。ですから、要求精度を満たせるとはっきりわかってからでないと、仕事を引き受けません。加工後の品質保証もしっかりやります」(堀内社長)。東京精密のCNC3 次元測定機「XYZAX AXCEL」やキーエンスのデジタルマイクロスコープ「VHX-7000」(図3)など検査機器も充実させている。
図3 検査機器も複数保有

図3 検査機器も複数保有

 精度に対するこのこだわりが、バリを抑えた加工につながっている。同社が得意とする微細加工では、そもそもバリ取りが不可能なケースが多い。たとえば、図4 上のチタン製部品には、微細な溝が何本も彫り込まれている。チタンは硬くて粘りがある素材のため、溝の縁にバリが出てしまえば手作業で取り除くのは難しい。同図下のアルミ製部品のような、薄物でわずかに段差がついた形状もバリが取りにくい。研削盤で仕上げる際も、といしの回転方向によってはバリが発生する。つまり、切削加工の段階でバリが問題にならない状態まで仕上げる必要がある。
図3 検査機器も複数保有
図4  微細な溝が施されたチタン製部品(上)とアルミ製の薄物部品(下)

図4  微細な溝が施されたチタン製部品(上)とアルミ製の薄物部品(下)

小径工具による高送りでバリを抑制

 バリの発生を左右する因子の1 つが加工条件だ。同社では、被削材ごとに最適な回転数や送りを選定している。回転中心に近づくほど周速が遅くなるため、特に小径工具を使う場合は主軸回転速度が速いMC で加工する。同社のMC はその点を考慮して選ばれており、iQ300 は最大45,000 min−1 の主軸回転速度をもつ。ただ、堀内社長によると「これでも足りないくらい」。MC に関しては、主軸の高速回転に伴う振れが少ないかどうかも選定のポイントとなる。

 工具はφ12mm までの超硬エンドミルをメインで使う。横幅400mm を超える比較的大きなワークもφ12mm までの工具で加工する。「細めの工具を使い、高回転数で高送り加工するとバリが出にくい。逆に、荒・仕上げに関わらず、切込みを必要以上に増やそうとすると、ワークの変形や切れ味の劣化が起こり、加工品質が悪くなります」

 工具はいろいろなメーカーの製品を試し、現在はユニオンツールのエンドミルを多用している。振れ精度や刃先形状、母材の品質が良く、「安心して使える」(堀内社長)。ツーリングは、微細加工用に関してはMST コーポレーションの焼きばめホルダに信頼を置く。また、同社ではエンドミルの刃先の再研削をオペレータ自身が行っており、「こういう刃先形状なら、バリが出にくい」というノウハウを蓄積している。

 ツールパスにも工夫がある。パス同士を、工具径の35~38%の幅で重なりあうように配置することで、工具の左右で異なる切削抵抗の影響を緩和し、バリを抑制。これにより、100 分台の平行度・平面度が求められる半導体検査装置部品を切削のみで仕上げる。35~38%という比率は、これ以上大きくなるとバリが発生しやすくなり、小さくなると生産性が悪化する、考え抜かれた数値だ。

 これらのノウハウは一朝一夕に手に入るものではない。「SUS304 やチタンでのバリを抑えた加工は、今でこそ苦労しないが、手掛け始めた当初は非常に大変だった」(堀内社長)。同社はリーマンショックを機に、独自の微細加工技術を確立しようと取り組んできた。その成果であるバリを抑えた加工を強みに、今後も顧客の要求に果敢に挑んでいく考えだ。