icon-sns-youtube icon-sns-facebook icon-sns-twitter icon-sns-instagram icon-sns-line icon-sns-tiktok icon-sns-etc
SEARCH

機械設計 連載「機械設計者のための金属材料の基礎と不具合調査の進め方」

2025.08.05

第2回 疲労破壊

  • facebook
  • twitter
  • LINE

福﨑技術士事務所 福﨑昌宏

*ふくざき まさひろ:代表。2005 年,千葉工業大学大学院金属工学専攻修了。同年電子機器向けの金属加工メーカーに入社。研究・生産技術部門で材料開発や引抜き加工技術開発に従事。2013 年に建設機械メーカーに転職。研究・生産技術部門で歯車などの機械部品の材料開発,材料分析評価に従事。2017 年に技術士(金属部門)取得。2019 年4 月に福﨑技術士事務所を開業。
URL:https://www.fukuzaki-gijutsushi.com/

疲労破壊の段階

 疲労破壊とは,材料に降伏応力以下の小さい応力が繰り返し多数回加わることでほとんど伸びずに脆性的に破壊する現象である。機械部品の不具合の多くはこの疲労破壊が原因とされている1),2)。疲労破壊の段階として,第1 に疲労破壊の起点がある。これは材料中の不純物や欠陥が起点となる場合と,表面の応力集中などが起点となる場合がある。第2 にこれを起点にして割れが進行する。この過程では,材料はゆっくりとき裂が進行していく。第3 段階として割れが一定以上大きくなると,断面積が減少するので,一気に材料が破断する。疲労破壊は大きく分けて,この3 つの段階がある。

疲労破壊にかかわる項目

 疲労破壊は応力とき裂を扱う。そのため,応力とき裂について材料力学的な知識が必要になる。き裂を扱う材料力学や破壊力学は非常に広範囲にわたる。ここではその中から疲労破壊に特に関係のある応力の種類,応力集中,き裂の負荷モードという3項目について簡単に説明する。

1.応力の種類

 まず応力の種類である。材料にかかる応力を取り扱う場合,応力の種類を明確にすることが重要である。材料にかかる応力とは縦,横,高さの3軸方向があり,その応力が材料のどの位置に負荷されているかによって主に5 種類に分けられる。これを図1に示す1)
図1 材料にかかる応力の種類

図1 材料にかかる応力の種類

 ①    引張・圧縮
 ②    曲げ
 ③    ねじり
 ④    せん断
 ⑤    接触

 この5 種類のうち,①~③の引張・圧縮,曲げ,ねじりは丸棒など1 個の製品にかかる応力として扱うことができる。一方,④のせん断,⑤の接触は2 個以上の製品,例えばボルト締結などでお互いに応力が影響している場合に扱うことがある。金属疲労を扱うときに,材料にこの5 種類の応力のどのタイプが負荷されているかを判断することが重要になる。それは,応力の種類によってき裂の進行方向や破壊の形態が異なるからである。また,実際の機械部品などには,これら5 種類の応力が単体ではなく2 種類以上が組み合わさって作用することもある。

2.応力集中

 材料力学では材料の形状や断面積を一定として計算することが多いが,実際の機械部品は平行な断面積ばかりではない。それに小さい傷や加工の凹凸などにより微小の断面積の変化がある。このように,製品にかかる応力が一様ではないときに応力集中と呼ばれる現象が起こる。その例を図2に示す1),2)。
図2 応力集中

図2 応力集中

 今,一枚の板に引張応力を負荷したときの状況を考える。材料が均一であれば,そのときの材料内部の応力の方向やその量は均一になる。この線を力線と呼ぶ。ちょうど水の流れのようなイメージである。次に,き裂がある場合を考えてみる。き裂部分に応力はかからないから,残りの断面積で応力を受けることになる。き裂から離れたところはあまり関係ない。しかし,き裂付近ではその周りを力線が避けるような流れになる。これが応力集中である。

 そして,この応力集中はき裂が鋭利になるほどその度合いが増す。応力集中によって,材料全体にかかる応力が例え降伏応力以下であったとしても,き裂付近では降伏応力を超えてしまい,変形が始まってしまうのである。疲労破壊もこのようなき裂から割れが進行する。

3.き裂の負荷モード

 き裂にかかる応力について見ていく。材料にかかる応力の種類として先ほど5 種類あげたが,き裂の負荷モード,き裂にかかる応力の種類は3 種類になる。その様子を図3に示す2)。1つ目はモードⅠの引張形式である。材料に引張・圧縮応力が負荷されたときは,き裂にも引張・圧縮応力が働く。また,材料に負荷される応力が曲げ応力であっても,き裂に働く応力としては引張・圧縮になる。2 つ目はモードⅡのせん断形式である。例えば,ボルトなどの棒状のものに2 方向から応力が負荷されたときなどに起こる。3 つ目はモードⅢの面外せん断形式で,モードⅡのせん断形式の向きが変化したタイプである。ボルトに横方向の応力が負荷されたときや,ねじれ応力が負荷されたときに起こる。
図3 き裂の負荷モード

図3 き裂の負荷モード

38 件
〈 1 / 3 〉

関連記事