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プレス技術 連載「キラリ光る!塑性加工分野のモノづくり力」

2025.08.08

第11回 インナーブランディング/アウターブランディングの構築に寄与する人材育成システムー三松

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 シートメタルメーカーの㈱三松(福岡県筑紫野市)は、2010 年に自社の人材育成システムを「三松大学」と称して整備した。それまでは部署ごとに取りまとめられ、運用されていた人材育成カリキュラムを全社統一の形で構築し直して運用を始めた。

「単に人材を育成するというだけでなく、当社のブランド構築の一環として人材教育と研修を体系立てたのが三松大学です」

 そう話し始める田名部徹朗代表取締役社長によれば、板金加工のみならず各種機械装置の組立てや小ロット製造代行サービス、ロボットシステムインテグレーションと幅広く手がける同社がどのようなメーカーであるかを周知するためにはブランディングが重要であり、そのため2009 年に九州大学と共同で中小製造業のブランド構築を実施し、その1 つのアウトプットとして人材育成システムをつくり上げた。

「三松とはどういうメーカーであるかを社外に伝える1 つの手法として人材育成があり、同時に社内に自社の技術・技能を確実かつ継続的に伝承する重要なカリキュラムになっています」(田名部社長)

 常にユーザーニーズに応えるため自社の製品開発力、加工力で堅実に技術・技能を継承する。それによっていつの時代でも変わらない技術力を提供することでユーザーに安心感をもたらす。本来はインナーブランディングの手段である人材育成を体系化することでアウターブランディングの1 手法として社外に発信する。そう企図したのが三松大学だ。

 同社は、農業機械関連部品の加工から事業を始め、現在では半導体製造装置をはじめとする各種産業機器部品の加工および組立て、自動化のためのロボットシステムの構築と事業領域を広げている(写真1)。そのため業務では機械加工のみならず電気系、制御系などの多岐にわたる技術が不可欠になる。それを三松大学として全社で体系立ててカリキュラムとして学べるようにした。
写真1  農業機械(上:葉煙草乾燥機)をはじめとする各種産業機器部品の加工・組立てからロボットシステムの構築まで事業領域は幅広い

写真1  農業機械(上:葉煙草乾燥機)をはじめとする各種産業機器部品の加工・組立てからロボットシステムの構築まで事業領域は幅広い

将来展望を描きやすくなった

 同社の人材育成システムは階層別、部門別に全社統一のカリキュラムが整備されている。まずは入社後の2 ~ 3 週間で「図面の読み方・書き方」や「箱物展開」、「品質、安全作業」、「三松における一般的知識」など同社における基礎知識を全社員が学び、統一試験を受ける(図1)。
図1  入社2 〜3 週間後にすべての社員が受ける「三松 統一試験」

図1  入社2 〜3 週間後にすべての社員が受ける「三松 統一試験」

「これは技術や営業などの職種、社員、パートなどの雇用形態にかかわらず全員が受ける試験であり、用意された教材を読めば解ける問題ばかりです」(同)

 入社直後の統一試験を経て2 カ月間は初期教育として座学と工場実習を実施する。座学では事業と業務の内容・特徴、工場実習では1 工程を1 週間かけ、合計6 工程を教える。その後、各部署に配属し、2 年間かけてブランク、ブレーキなど最低2 工程の技術を習得させてから最終的な配属を決める。同社は多数の小ロット品を短期間に加工するため、生産状況に応じて他工程を応援できる人材が必要になる。そのため最低2 工程の技術の習得が必要になるわけだ。

 入社2 年後に本人の適性と希望を勘案して配属先を決め、その後も部署ごとに板金図面、溶接など、階層ごとに生産管理、安全衛生管理、財務分析などのカリキュラムを用意している。また、各種の溶接技術やフォークリフトなど社外の資格取得も奨励する。

「各階層で習得すべき技術や知識、資格などを示すことで将来展望を描きやすくなったことから、皆が目的意識を明確にできるようになりました」(同)

 それが三松大学の最大の効果だと言う。なお、“大学”と冠した人材育成システムだけあり、各部署でカリキュラムごとに実習や座学を指導する先輩・ベテラン社員を「教授」、「准教授」、「助教」と称している(写真2)。遊び心もちりばめた人材育成システムのようだ。
写真2  座学や実習は先輩・ベテラン社員が「教授」、「准教授」、「助教」として指導する

写真2  座学や実習は先輩・ベテラン社員が「教授」、「准教授」、「助教」として指導する

新たな事業展開の基にもなる

 三松大学で全員をシステマティックに育成する同社は3 工程に対応できる人材の増加を目指している。1 日に600 個、そのうち70%が1 個生産という超多品種小ロット製品を生産するため、特急の注文が入るとそれに該当する工程の負荷率が上昇する。また、その上昇率が急激になると他工程から応援の作業者を送らなければならないため多能工が必要になってくる。

 また、ロボットの操作など社外に向けた講習も実施している。これは社外から人を受け入れて実施する講習ではなく、社外に赴いて実施する講習だ。それはつまりコンサルティングであり、今後は社員がコンサルタントとして社外で生産改善などを指導することを拡充していきたいとも考えている。すでに同社ではオリジナル開発の生産管理ソフト「SINS」(Sanmatsu Integrated NetworkSystem)を販売し、そのコンサルティングも手がけている。そうしたコンサルティングの拡充で新たな事業展開を推進する。内外へのブランディングを意識した人材育成であり、さらに新しい事業展開の基となる人材育成システムでもあるようだ。

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