プレス技術 連載「新人技術者のためのものづくり現場の基礎知識」
2026.08.18
第6回 本当に大切なコミュニケーション・スキルとは
エフエーティシステム㈱ 寺島 潔
てらしま きよし:代表取締役。スーパー銭湯の特殊清掃を業とする会社の社長。労働集約的事業であるため、多くの短時間労働人材を雇用する。
スキルという言葉をGoogle で検索すると「訓練や学習によって獲得した特定の能力や技術、知識のこと」と出てきます。例えば、社会人にはパソコンのスキルが求められます。今やパソコンは家庭でも当たり前のように使われ、学校の授業でも採用されています。ほかにも英会話や簿記の資格をスキルとして取得済みの人もいるかもしれません。
また、近頃よく耳にする言葉にコミュニケーション・スキルやコミュ力というものがあります。初対面やあまり親しくない関係の人ともすぐに打ち解けてしまう便利な能力です。顧客や職場の上司、同僚との円滑なコミュニケーションは、社会人としては最重要事項の一つでしょう。今回はコミュニケーション・スキルについて具体的なシーンを想定して説明します。
A 君とB 君
ある会社に2 人の新入社員が入社しました。仮にA 君とB 君とします。A 君は人当たりがよく、飲み込みも早いので職場の上司や同僚から好感をもって受け入れられました。ただ、少し難点があり、早とちりで自信過剰気味なところがありました。
B 君は少し無愛想で笑顔も少なくとっつきづらい面がありましたが、人の話を一生懸命聞いていました。A 君は要領もよく理解も早いのですが、1 つのことに打ち込むことが苦手でした。B 君は不器用ですが自分なりにいろいろと工夫をして、多少時間はかかるもののコツコツとやり遂げることができました。
A 君は早々と転職しました。聞くところによると「自分の得意なスキルがこの職場では活かすことができない」という理由でした。
対するB 君は、まだ若いながらも主任という立場を任され、新人の教育にも励んでいるということでした。B 君は「自分にはこれといったスキルがないので、とりあえず目の前の与えられた仕事を一生懸命にやり続けただけ」と言っていました。
冒頭で述べたように、スキルとは訓練や学習によって習得した知識や能力のことです。家庭の中や学校で得たスキルでは、実社会ではほとんどと言っていいほど役に立ちません。
むしろ周囲の人たちのアドバイスや教えを素直に聞ける能力こそ、本当に必要なスキルではないでしょうか?それと同時に、教わったことや自分の考えでたどり着いたことをこつこつと貫き通す愚直さこそ必要なことかもしれません。
自己紹介
筆者はスーパー銭湯の内部を清掃する会社の社長です(写真1)。モノづくりに携わっているであろう、あなたたちの職場とは違います。しかし、きれいになると気持ちがいいことは同じです。そのような仕事にあこがれて高齢や中年のパートタイマーたちに交じって若い人も働いています。当社のお客さん(スーパー銭湯)は千葉や埼玉、東京、神奈川に十数軒ありますが、そこで清掃する当社の従業員はその近くに住む人です。お客さんごとに担当する従業員が違うので、人間関係もすべて違います。一つひとつ気持ちよく働くために工夫をしています。その経験からコミュニケーションのためのスキルについて、大事だと思うポイントをお話しします。
写真1 筆者の仕事風景。水垢で汚れた鏡がピカピカに。きれいになると気持ちいがいい
素直さ
あなたがどのような仕事をしようが、最も大事なことは「素直さ」ではないでしょうか。素直さについて深掘りしたいと思います。
素直さとは他人の話を聞くということです。あなたのまわりにいろいろな人がいますが、それらの人の話を聞くのです。高齢の人は細かいことを何度も言うかもしれないし、あなたの上司は乱暴な口調かもしれません。それでも聞くのです。
大事なことは、次です。やってみるのです。高齢の人が言ったとおりに、上司が言ったとおりにやってみます。やってみるといろいろな結果が出ます。うまくいくこともあり、うまくいかないこともあります。それでいいのです。
やってみて、その結果を見直してください。あなたの予測を超えてうまくできる場合があり、普通の出来栄えである場合もあり、またうまくいかないこともあるでしょう。
その結果を指示した人に報告しましょう。すると指示した人(高齢者や上司)とあなたとは打ち解けます。この状態を「人間関係を築くことができた」と言います。
あいさつ
朝または夕刻、ほかの社員に会ったら「おはようございます」とあいさつします。職場を出るときも「お先に」などと言います。やや大きめの声で律儀に声を出すのです。そう、そしてあいさつをし続けるのです。
しかし、こちらがあいさつしても返事をしてくれない人がいるかもしれません。数回(数日)、あなたがあいさつしても返事をしてくれない場合、あなたもあいさつをやめたらいいです。その人はなんらかの事情があって返事をしない可能性があり、無理にあいさつすることは相手の負担になるかもしれないからです。
素直さを意識することもあいさつも、明日からすぐに実践できます。職場でよい人間関係を築くためにぜひ取り組んでみてください。
上司や社長には二面がある
最後に、読者のあなたより筆者の方が年上なので、筆者の経験を踏まえてアドバイスします。上司や社長は、あなたに指示し、命令し、ときには叱ることがあります。それと同時に、普通のおじさん、おばさんでもあります。この二面を認めましょう。
会社での立場は違いますが、人間としては平等です。あなたの方が上になる領域もあります(例えば、スマートフォンに関する知識・技術はあなたの方が上だし、体力も上だし、社会的に新しい知識も上です)。上司・社長のことを、ほんのちょっとでもいいので考えると、あなたは大きな人間になります。