型技術 連載「デジタルマーケティングで切り拓く異業種参入への道」
2026.08.03
第1回 異業種開拓における営業活動の実態と打開策
テクノポート 小林 正道
こばやし まさみち:取締役。製造業のWeb マーケティング支援に15 年以上の専門性をもち、3,000 社を超える製造業への直接訪問実績を有する。豊富な加工技術知識と綿密な市場調査に基づき、製造業における新規顧客開拓営業を戦略的に支援している。
本稿は「中小製造業の営業とマーケティング」を主題とする連載の第1 回である。国内需要縮小と価格競争激化により、多くの製造業が「新規市場」、「異業種開拓」に活路を求めている。しかし、展示会や訪問営業に注力しても成果が出ず、結局は価格競争に巻き込まれる現実は少なくない。
本連載では営業の実態と課題を明らかにし、その打開策を紹介する。初回では、異業種開拓の難しさの背景にある発注者側の行動心理に焦点を当て、Web 活用の可能性を提示する。
中小製造業の営業の現実
中小製造業の営業は「人脈」、「展示会」、「訪問営業」に依存し、労力やコストがかかるわりに成果は不確実である。営業が困難な理由は主に2 つある(図1)。
1. 技術を売る難しさ
強みが伝わりにくく、差別化もしづらいため価格競争に陥りやすい。
2.顧客との関係性の問題
下請けとして立場が弱く、発注タイミングもつかみにくい。口コミ中心で新規開拓が広がりにくい。
メーカーが新規外注先を探す最大の理由は「既存サプライヤーでは対応できない課題が生じたとき」である。発注者は常に新しい取引先を探しているわけではなく、「必要が生じた瞬間」にしか動かない。このため、営業担当者の努力とタイミングが合わなければ成果につながらない。
発注者の行動心理を理解する
「ユーザーの新規発注したいタイミングをいかに効率良くつかめるか」が受託加工営業の最大の課題である(図2)。発注者の心理を理解せずに営業活動を続けても的外れに終わる。調査・インタビューから以下の行動パターンが判明している。
1. 探すのは「必要が生じた瞬間」
既存先のキャパ不足、品質問題、コスト不一致が契機となる。平時は新規を探さないが、必要になれば迅速に候補を探し始める。
2. 情報収集の起点は「Web 検索+紹介」
商社や知人の紹介は依然として有力だが、それと並んで検索エンジンによる情報収集が主流となっている。検索キーワードは「部品名」、「加工方法」、「材料」、「機能」など具体的であり、まず「技術的に対応可能かどうか」を確認することが目的である。
3. 「特化した強み」が好印象
「何でもできます」より「これに特化しています」と明確に打ち出す方が信頼を得やすい。8 割以上の発注者が特化型企業に好印象をもつ。
この行動心理の根底にあるのは、問合せをする段階で「この会社ならできるかもしれない」と期待感をもってもらえるかどうか、そして、そもそも存在を認知されているかどうかである。期待感と認知の両方が揃って初めて、発注者は自ら次のステップへ進むのである。
異業種市場の可能性と参入の壁
周りの同業者を見渡してほしい。同じような設備をもっているにも関わらず、付き合っている業界・業種はさまざまなはずだ。汎用性の高さが中小製造業の強みでもある。新規開拓の方法は2 つしかない(図3)。
① こちらからユーザーを探し出す方法
② ユーザーに見つけてもらう方法
従来の営業活動は前者に偏りがちだが、ユーザー心理を踏まえれば後者の重要性が際立つ。発注者は「必要が生じた瞬間」にしか新規を探さないため、その瞬間に見つけてもらえるかが勝負を決める。新市場や異業種に挑戦する際は、「ユーザーに発見してもらうにはどうすればよいか」を戦略の中心に据えることが重要である。
1.打開策①:ユーザー心理に沿った情報発信
発注者がWeb 上でまず確認するのは技術の信頼性と過去の実績である。情報発信では以下が重要となる。
・特化領域を明確に打ち出し、専門性をアピールする。
・製品写真やデータ、取引先、設備、不具合対応事例を提示し、具体的な裏付けを示す。
・ ISO 規格の取得状況、サイト更新頻度、問合せ対応体制などを明示し、安心感を与える。
単なる会社案内的な情報ではなく、「この企業なら自社の課題を解決できる」と確信させる情報を提示することが求められる。
2. 打開策②:Web から探される仕組みづくり
発注者が用いる検索語は具体的である。「フランジ加工」、「SUS304 切削」、「微細 加工」、「軽量化 部品」といった語句で検索される以上、これに対応したページ設計が不可欠となる。また、ユーザーが実際に検索した語句を分析し、それに応じてサイト構成を調整することで、より高い精度で見込み客にリーチできる。
実際にWeb 活用に成功した企業の中には、月に10件前後の新規問合せを安定的に獲得する事例や、累計200 社を超える新規開拓に成功した事例がある。これらは決して特殊な成功例ではなく、再現可能な仕組みとして位置づけることができる。
3. 打開策③:問合せ傾向から強みを明確化
Web からの問合せは単なる新規案件獲得の入口ではない。どのような案件が寄せられるかを継続的に分析すれば、市場から見た自社の「評価」を客観的に把握できる。
例えば、「薄板加工の事例に集中して問合せが集まる」、「医療分野からの引き合いが多い」といった傾向が見えれば、自社がどの領域で高く評価されているかが明確になる。それはすなわち、外部から見た自社の強みの証拠である。
この情報をもとに戦略を軌道修正すれば、「選ばれる理由」を強化できる。営業現場の感覚だけに頼らず、実際のデータに基づいて強みを定義し直すことは、異業種市場への参入において大きな武器となる。
心理理解とWeb 活用が突破口
異業種開拓の成否を分けるのは、発注者の行動心理を理解するかどうかにある。
・探すのは「必要が生じた瞬間」
・探し方は「Web と紹介」
・判断基準は「専門性と期待感」
この心理に応えるためには、Web 上で「探される仕組み」を構築し、問合せ傾向を分析して強みを磨き上げることが不可欠である。従来の「足で稼ぐ営業」だけでなく、発注者の行動と心理に沿ったマーケティングへの転換こそが、異業種開拓の突破口を開く。