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機械設計 連載「若手技術者戦力化のワンポイント」

2026.08.25

第30回 実験結果の数値が羅列された生データをそのまま成果物として提出してしまう

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FRP Consultant 吉田 州一郎

よしだ しゅういちろう:代表取締役社長。東京工業大学工学部卒業後、Fraunhofer Instituteでのインターンを経て、同大大学院修士課程修了。繊維強化プラスチック関連の技術指導や支援を企業に行いながら専門性鍛錬を行う一方、技術者に特化した育成事業を法人向けに展開。自らの10 年以上にわたる研究開発と量産ライン立上げ、国内外企業連携によるプロジェクト推進の経験を踏まえ、繊維、機械、化学などの企業の研究開発現場での技術者育成の指導、支援に尽力。福井大学非常勤講師。
若手技術者戦力化のワンポイント
「実験結果の数値が羅列された生データをそのまま成果物として提出してしまう」場合、「技術業務の成果構成の3要素を事前に伝える」ことを心がける。

はじめに 

 もともとその傾向はあったが、ここ最近、製造業企業の現場でも強く感じることが増えたことがある。それが“効率重視”の考え方だ。 

 無駄をできる限り省き、成果を徹底的に求め、それを“生産性”という単語で表現する。IoT、自動化、高速通信、AI といった技術用語、コスパ、タイパ、残業時間削減、働き方改革といった単語があたかも万能解のように扱われることとも無関係ではないだろう。 

 このような社会環境下で社会人としての人生を歩み始めた若手技術者も、当然だがその影響を受けている。向上心の高い若手技術者を中心に、成長効率を求める傾向は昔からあったが、今は完全なる二極化が進んでいるというのが筆者の印象だ。成長を求める若手技術者は今まで以上に効率を重視しながらもチャレンジし、またその結果を能動的に思考する。一方で、そのような競争とは距離を置きたい若手技術者は、プレッシャーのかかる仕事を避け、自分の時間を重要視するゆえに残業を悪とし、しかし給与はできるだけ多く欲しいため、いかに効率よく高い給与をもらうかに注力する。このように二極化が進む一方で、どちらも“効率”を重視するところは大変興味深い。 

 今回はこの二極化する若手技術者のどちらにおいても、効率重視の思想ゆえに陥りがちな課題とその解決法について若手技術者育成の観点から考察する。

若手技術者戦力化のワンポイント 

 実験結果の数値が羅列された生データを成果物として若手技術者が提出する場面に直面した場合、「技術業務の成果構成の3要素」を当該業務開始前の段階で、明確に伝えるよう心がける。

効率重視の若手技術者による違和感ある成果物

 リーダーや管理職が若手技術者に何かしらの技術評価を行ってもらうケースを想定してほしい。 

 元素分析、機械特性評価などの数値が結果として出てくるものだとする。リーダーや管理職は評価の指示を伝え、若手技術者が技術評価を進めた。納期が近くなってきたため状況を確認したところ、若手技術者からは“もうすぐできます”という返事があった。こうして出てきた技術評価の結果が、図1のようなものだった。
図1  数値の羅列は技術者にとっての成果物にはなら ない

図1  数値の羅列は技術者にとっての成果物にはなら ない

 これを見てどう思うだろうか。想定通りの結果であるというリーダーや管理職は皆無だろう。多くが“これは何だ?”という印象を持つに違いない。もちろん図1 に示した数値そのものは乱数表なので、何か意味のある数値ではない。しかしこれが仮に意味のある数値だったとしても、技術評価の結果として若手技術者から出てきたものが、図1 のような数値の羅列であった場合、受け手はどう思うだろうか。 

 一方でこれを提出した若手技術者は、数値の羅列をリーダーや管理職に提出した時点で、それは“成果”であると考えている。果たして何人のリーダーや管理職がそれを“成果”というかは考えるまでもない。若手技術者は技術評価、すなわち実験や試験といった“作業を効率的に成果にしよう”としているのだ。効率重視の考えが常識では考えにくいアウトプットを生み出す。 

 残念ながら、ここで述べた例は机上の空論ではない。ある顧問先での技術指導における筆者の“実体験”である。

技術者の多くは特許出願や新技術・新製品創出“だけ”が成果と妄信し“技術者本来の成果”を理解していない

 効率重視の考えが前出の事象発生の一因であることはすでに述べたが、実はより根深いところに本質的な原因がある。それについて一概に言えない部分もあるが、主たるものの一つとして考えられるのが“技術者としての成果”の未理解だ。 

 改めて技術者としての成果を考えてみる。最もよく出る意見の一つが、「特許を出願する」だ。マスメディアでも、特許出願数を技術力との相関関係を見るデータの一つとして示すことが多い。この理由は技術を知っている、知らないということ以前に、数値化しにくい技術力を定量的に示しやすいためと考える。筆者の考えで言えば、特許出願が技術者の成果として見ること自体については否定しないが、積極的に肯定はしない。模倣の可能性のある技術の権利保護といった攻めの特許出願もあるが、多くは仮に審査で拒絶されても、拒絶されたという事実が残れば、ほかでその権利が抑えられないという、守りの特許が多い。さらに言えば、特許出願数を成果と見る企業組織にて、成果の数合わせのためだけに権利化する必要性に疑問符がつく内容で特許出願することも珍しくない。本当のノウハウはむしろ出願しないのが正解だ。技術者育成でいえば、このような特許の戦略を理解する点を重視する。 

 これ以上に多いのが、 
 ・新しい製品をつくる 
 ・新しい技術を開発する
ということを成果と考えることだろう。こちらはその通りだ。しかし、本当にそれ“だけ”を成果としてよいのだろうか。どれも“結果のみ”の部分だからだ。実はこのような結果のみを成果とする考えは、若手技術者はもちろん、前出のリーダーや管理職を含む、多くの製造業企業の組織全体に根深く浸透している、というのが筆者の実感である。 

 このような思考は、特に研究開発を担う若手技術者を含むすべての技術者、そしてそれを統括するリーダーや管理職であれば是が非でも避けたい。その理由を理解するには“請負業務”という単語を理解する必要がある。

最終成果物だけで評価される業務は“請負業務” 

 請負業務とは何かと問われ、即答できる読者はどの程度いるだろうか。請負業務を一言でいえば、「最終成果物のみで評価される業務」だ。建設工事、デザイン制作、運送などがその代表例である。建設工事でいえば建築物、デザイン制作でいえばデザイン案、運送でいえば荷物を指定場所まで届けることが、それぞれの成果物である。例えばデザイン制作において、「自分は必死に寝る間も惜しんでデザインを考えたが、デザイン案はできなかった」とデザイナーやそれに該当する企業が主張したとする。読者が発注側だとして、この主張を受け入れられるだろうか。どれだけ頑張ったとしても、最終的なデザイン案が出てこなければ発注者は次の段階に進めず、業務の遅延は避けられない。受注側が途中で頑張ったということは関係なく、期日までに成果物を出せなかったという意味で、業務を完遂できなかったことになる。発注者側はこれではお金は払えないということになるはずだ。このように最終的な成果物が最重要であるのが請負業務である。 

 この理解が世の中に不足していることを示す事例を紹介したい。筆者が技術者育成の支援やFRP(繊維強化プラスチック)の技術指導を行うにあたり、これらを要望した多くの企業から“成果物”という言葉を耳にするたびに違和感をいだくことがある。例えば技術者育成において無意識にデジタルや紙媒体からなる文書やスライド資料を念頭に“成果物”と認識したとする。すると、その成果物の“途中経過”にあたる、思考活動とそれを経た助言、提言といった企業支援の実務上ではキーになるものが成果として“認められない”ことになる。報告書や資料、議事録といったものを成果物として求める企業は、おそらく“請負業務”の思考にとらわれており、成果の途中経過を成果として見る考え方が欠落してしまっているのだ。
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