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機械技術 巻頭インタビュー「独自技術で光る日本の機械加工現場」

2025.05.27

蓄積した機械加工に関する知見を活かし、迅速な量産の立上げでモノづくりを支える

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㈱名高精工所 代表取締役
名高 新悟氏

Interviewer
オーエスジー㈱ 今泉英明

 自動車をはじめ、さまざまな産業向けに試作・量産を手掛ける名高精工所(京都府宇治市)。複合旋盤や5 軸マシニングセンタ(MC)での複雑形状・難削材の加工と治具を活かす高効率な加工で迅速な量産の立上げを行い、モノづくりを支えてきた。近年はこうしたノウハウを、パッケージ化して提案することで新規顧客の獲得に取り組む。さらに、ロボットを活用した自動化やAI など先進技術の導入により、競争力のある生産体制の確立を目指す。名高新悟社長にこれからの方向性を聞いた。
名高新悟代表取締役

名高新悟代表取締役

ロボットを活用した省人化に取り組む

今泉

手掛けるモノづくりを教えてください。

名高

自動車や油圧機器、建設機械、航空機、医療機器向けなどの部品を製造しています。たとえば、自動車向けはVG ターボチャージャー用のノズルの部品です。形状はフランジ部分があったり、穴やねじ、くびれがあるものが多いです。材質は鉄やステンレス、アルミニウムに加え、チタンやインコネルなど幅広く扱っています。数個程度の試作から月産10 万個程度の数量を得意にしています。製品の形状ごとに治具を製作することで、ばらつきなく、効率的な加工を行います。
主力の工作機械は複合旋盤やMC、自動盤です。また、MC での製品の着脱や穴加工後のバリ取り工程で、ロボットを活用しています。MC への取り付け、加工完了後、MC から加工物を取り出し、バリ取り装置が設置されている場所まで搬送して、加工後に保管箱へ収納する作業を省人化するシステムを運用中です。
名高新悟代表取締役
自動車のターボチャージャー部品

自動車のターボチャージャー部品

事業の変遷を教えてください。

航空機部品メーカーで技能職だった祖父・登が京都市伏見区で1954 年に創業しました。自宅兼工場の形態です。その後、同区内での移転を経て、70 年に京都府宇治市へ移転しました。祖父が現役だったころは汎用機が主力で、オペレータが旋盤に付きっきりで毎晩遅くまで働いていました。88 年に父・俊郎が社長になってから自動盤を導入し、量産を手掛けるようになりました。扱う部品の種類や取引先が増えて会社として経験が積み重なる中で加工技術に関する知見も蓄積されました。海外展開も行い、タイに工場があります。 私が社長になった2019 年からは、父の方向性を継承しつつ、事業の改善に取り組みました。工場でのモノづくりに関する実務的なことや、組織運営に関することなどです。また、21 年に京都府木津川に工場を新設し、より生産性を高めるための仕組みを構築中です。
治具を活用して加工品質と効率を高める

治具を活用して加工品質と効率を高める

製品の着脱やバリ取り工程でロボットを活用する

製品の着脱やバリ取り工程でロボットを活用する

経営課題を3 つの層に分けて解決を目指す

これまで取り組んできた事業の改善について、詳しく教えてください。

経営課題を3 つのレイヤー(層)に分け、社員主体で取り組みました。1 つ目の層は、既存事業の改善です。デジタル技術を活用して予実管理に力を入れました。現場にタブレット端末を設置し、生産数、不良数、作業時間などをその都度入力し、そのデータを基に日次や週次、月次で予実をチェックします。また、見積もり書の作成や受注、材料調達などモノづくりの前の工程でも予実管理を徹底するようにしました。当社のモノづくりの仕組みに合ったものになるように社員がシステムを構築してくれました。
2 つ目の層は差別化です。「量産最速立ち上げサービス」と「アーリーステージコラボレーション」という新たなサービスで独自色を打ち出しました。3 つ目の層は「スモール・イノベーション」です。当社のありたい姿の実現とそのための人づくりに向けた取組みです。独自製品の開発に関するワークショップや経営の方向性・戦略について議論を行う「経営戦略セミナー」を社内で実施し、多くの社員が参加しています。

差別化の取組みについて、もう少し詳しく教えてください。

量産最速立ち上げサービスは、スピーディーな量産体制の構築を行います。工程設計や治具設計・製作、工具選定、実際の加工といった当社のモノづくりに関する基本技術と協力工場への依頼を含めた管理能力を駆使した、ワンストップ体制を顧客に提供します。アーリーステージコラボレーションは、顧客の開発段階からプロジェクトに加わり、部品サプライヤーとしての知見を活かして、お客様が必要とする部品の最適化を支援します。

モノづくり企業が提供するべきサービスの本質とも言える部品製造の知見とノウハウを提供しているんですね。

創業以来、さまざまな形状・材質・数量の部品を供給してきました。量産立ち上げサービスでは、「既存のサプライヤーの生産能力が限界だが、来月末には増産を始めないと間に合わない」、「海外工場での生産を計画していたがトラブルが発生し、3 カ月後の増産に間に合わない」といった事例に対応しました。カーエアコン部品2,000個/月を3 カ月で、ディーゼルエンジン部品4,000個/月を1.5 カ月で、オルタネータ部品100 個/日を3 日で立ち上げた実績があります。
立上げ期日や形状・数量・材質、納入先といった条件、設備余力の把握、設備新設の要否、各種生産計画、お客様との擦り合わせを適切に迅速に行うことで、量産立上げ期間を圧倒的に短縮できることをお客様にアピールしています。

部品の供給能力の確保はアッセンブリメーカーの課題です。きっと助かったことでしょう。

そのように評価していただくとありがたいですね。難削材や精密微細形状の加工、一切無駄のない合理的な仕組みで部品製造を行っている金属加工業が日本にはたくさんあります。当社はまだその域に達していません。一方、これまでお客様のモノづくりを支えることで成長してきた自負もあります。お客様の製品製造ラインを止めないということを常に意識して、学んで知識を増やし、技術・技能を磨き、最適な方法を考えてきました。そうした知見をパッケージにすることで、困っている方の力になれると思っています。これは当社の独自性だと考えています。

論理と創発のバランス

価値を理解いただくには差別化の取組みは大切なことだと感じます。スモール・イノベーションの層についての狙いは。

会社の将来像やそこに到達するための道筋を社員と共有することです。経営を自分事にしてもらって現場改善や新サービスにつながる意見・アイデアを出してほしいという思いがあります。「創発」という意識です。お客様から図面をいただいて、求められた品質と数量を供給するために最適な手法を考え、不良が発生したら論理的に考えて対応、解決する。そのことに自信はありますが、創発は足りていなかった気がします。経営には論理と創発のバランスが必要だと思っています。 
実際に社内で議論したり、セミナーを開催して学ぶ機会を設け、アイデア出しと顧客へのアピール方法の検討、利益の想定などに取り組みました。その中で、面白い製品のアイデアが生まれました。結果的にはある部分の機構がつくれず、実現しなかったのですが、短期間でも社員の成長を見ることができて手応えを感じました。

事業展開と社員の成長に向けた取組みに知恵を絞っていますね。

社員に届いていれば嬉しいです。社員にアンケートを実施してみたところ、彼らの感じていることが明らかになりました。この取組みに対して、私が思っているより評価が低かったり、不満も見えたので、落ち込むこともあるのですが、当社での働きがいに対する評価が高かったことは励みになりました。日常の実務につながる機械加工技術に関する研修を希望する声もあったので、そうした前向きな意見を取り入れていきたいと思います。

今後は。

自動化の知見を蓄積してより最適な体制を構築します。自動化をもっと進めれば、人員を最適に配置して生産性を高められます。単純作業であっても人しかできない工程や加工条件の修正など高度な判断が必要な工程に人員を配置したい。
また、最近、AI を活用した図面管理システムを社内で運用しています。ここに使われているAI はスタートアップ企業が開発したものです。過去に扱った類似形状の図面を素早く探し出すことができ、見積もりのスピードも上がるし、設計業務の効率化ができるでしょう。このシステムの販売代理業を行う予定です。当社にない知識や経験をもつ企業との協業なので、新しい知見を得られる可能性があります。当社は機械加工のコンテストで評価されるような精密微細加工技術を保有しているわけではありませんが、お客様が求める量やタイミングで部品を供給できるように知見を蓄積して、技術も組織力も磨いていきたいです。

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