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工場管理 連載「工場はプロフィットセンター 儲けを生み出す工場を実現しましょう!」

2025.06.20

第5回 “令和の大改善” に取り組もう! 新しい設備の導入を前提にせず、工場の能力を120%発揮しよう!

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スマート工場研究所 渡邉 寛 

わたなべ ひろし シニアコンサルタント
URL:https://smartfactory-labo.co.jp/
 工場のDX やスマート化と聞くと、さまざまな自動化設備の導入、それらにロボットや自動搬送機を組み合わせて、圧倒的な省人化を図ることをイメージする方が多いと思います。しかしながら、それには大規模な投資と期間が必要になるので、どの企業もすぐにチャレンジできるものではありません。では、「大きな設備投資を前提にしないとDX やスマート化は進められないのでしょうか?」。実はそうではありません。デジタル技術の優れた点は、今ある設備とデジタル技術を組み合わせることで、工場の能力をさらに高めることができる点にあります。お客様から上記のような相談をいただいたとき、3 つの取組みを実施しました。今回はその事例を紹介したいと思います。

経営効果に直結する課題の設定

 最初にボトルネック工程や課題を上位から3 つ定義することから始めました。先月号で説明しましが、経営成果を醸成すべく、工場全体の生産高や生産性を決定づける重要工程や重要課題を改善対象として選定するためです。3 つというのは、1つの工程で成果を上げたら次の工程へ取りかかる、というように継続的に活動にするためです。

 ボトルネック工程や課題の特定は、経験的に見ても、実際の工場の稼働計画の点から見ても明らかであり、お客様ですぐにリストアップができました。それに加えて、経済的な効果や損失を評価することで優先順位を明らかにすることができ、取組み対象の工程が決定されました。

1つに全社集中!

 2 つ目は工場のほぼすべての部門の代表に集まってもらい、当該工程の改善ポイントと改善方法を検討するようにお願いしました。生産管理、製造、生産技術・製造技術、品質管理、保守・保全、設計・開発などの部門がその対象です。これまでの改善活動のように各部門がバラバラに改善活動を行うのでなく、経営効果を創出するために全部門の力を1 つの工程の改善に集中させることを狙いました。図1 の表をご覧ください。これは工程改善を総合的なアプローチで行うためのチェックリストです。この表の「一般的な担当部門」は各行の改善項目に取り組むべき担当部門を示していますが、1 つの工程の改善を行うために工場全体で考えないといけないことがよくわかると思います。
図1 工程改善チェックリスト

図1 工程改善チェックリスト

従来からの技術や取組み+デジタル技術による強化

 そして、3 つ目は、全メンバーで当該工程や課題解消のために、図1 を参考に取り組むべきことを見つけ出すことをお願いしました。図1 は稼働率を高めること、歩留りを改善すること、生産性を向上させること、そのために検討すべきことを記しています。これらを達成することは工程能力を高めること、つまり、設備を入れ替えなくても能力の増大を達成できる可能性がある取組みです。中身は奇をてらったものではなく当たり前のことを記載しています。分類欄のA は、従来から取り組まれている改善活動、B はデジタル技術であるAI やカメラなどのセンシング技術を活用してできるようになったこと、C はA にデジタル技術を加えることで取り組みやすくなったことです。

 № 3、4、8 は典型的なAI の活用事例によくあがる項目であり、皆さんもすでにご存じの方がほとんどだと思います。一方、№ 9 や13 はうっかり見落としがちな項目です。人作業そのものはなくせないが、そこに一部AI やロボットの力を加えることで、作業の難易度を下げて、誰でもできるようにしたり、効率を上げたりすることができるようになります。デジタル技術で完全に人作業を置き換えるのではなく、人作業を補助することで今より良くする、100 点を目指すのではなく70 点を目指すという発想がとても大切で、これにより改善できる範囲が広がります。

 № 11、15 も類似の項目で、既存の設備や治工具の改造を図ることで、AI やロボットの導入や活用をできるようにする取組みです。ロボットアームを使ってワークを設備にセットする場合も、従来の人作業と同じ動作をロボットが行うことは難しいことが多く、ワークの導入補助機構を設備側に付ける改造をすることで、今まで無理だと思っていたロボットの導入が可能になることはよくあります。

 また、№ 10、14 について、このお客様では製造部門から設計・開発部門や研究部門にフィードバックがうまくできていなかったので、これらの部門にたくさんの気づきを与えることができました。解決には時間がかかるテーマが多くなりますが、大きな効果を生み出す可能性のある取組みが多いことが特徴です。

 以上について、皆さんで検討した結果を各部門の実行計画に落とし込んで進めて行くことで一定の成果を生み出すことができました。

令和の大改善は経営主導で

 お客様は次の工程・課題に向けて同じような取組みを続けておられます。大切なことはこのお客様のように取組みを継続することです。このような取組みを3 年、5 年と続けることで、工場の能力、生産性は少しずつ高まり、結果として大きな成果を積み上げることができます。このような活動の推進には大規模な設備導入に比べると少額ですが、それなりの投資が必要になります。しかしながら、このような取組みにすら投資できない企業には未来はありません。経営が責任を持って取り組むべきテーマと投資を決定し、現場に対してリーダーシップを発揮して経営効果を創出していくことが不可欠です。経営者の皆さん、従来の改善活動を目的達成型に変革して、かつ、デジタル技術を融合したいわば“令和の大改善”に取り組んではいかがでしょうか?

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