さかもと さとし:共創環境部部長、特殊緑化推進室室長
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民間事業者が実装するグリーンインフラ事例
前回(1月号)では、防災・減災・BCP 対策に貢献するグリーンインフラの潮流と公共で実装された事例を紹介した。グリーンインフラはすでに、さまざまな民間事業者の事業所においても導入されている。
まずは、アマダの事例を紹介する。同社の富士宮事業所は富士山麓に75ha という広大な敷地を所有し、その6 割を森林として残している。もともとの自然を活かしながら緑化を進めてきた。そのため敷地内には自然林と人工林、そして植栽した緑地が整備されている。
同社は森林経営計画を立てて整備していく計画の中で、森林に住まう動植物の生態調査や保全を進めるなど、環境活動にも精力的に取り組んできた。緑化を中心とした環境活動の展開にも意欲的であり、現地の施設担当および本社施設担当とさまざまな意見交換をしてきた。その中で、敷地内での新設備の導入に伴い、人工林の整備が必要な箇所が出てきた。ここは自然な窪地になっており、降雨時には植物と土壌によって雨水浸透するような場所だった(図1)。この地形を活かし、人工林伐採後も伐採前と同様の機能を敷地内に確保できるよう、同社と筆者のチームで計画を立てた。
図1 アマダ富士宮事業所グリーンインフラ(写真提供:日比谷アメニス)
今回のグリーンインフラ整備では極力、地形の形状をそのまま活かしている。人工林があるときには目立たなかった富士山由来の大石などを景石として景観形成にも利用している。窪地の中腹には砕石帯を設けて、雨水が一気に窪地の底部に流れ込まない工夫をした。底部はもともと浸透機能が高い基盤を持つため、周辺には貯留性能が高い基盤材料を敷き込むことで、一旦、雨水を貯留してゆっくり浸透できる機能に置き換えた。また、貯留性能基盤は植栽基盤としても活用できるため、富士山周辺に自生する在来植生を植えることで、生態系にも配慮している(図2)。
図2 グリーンインフラのメカニズム(画像提供:日比谷アメニス)
同社のグリーンインフラは、国土交通省主管のグリーンインフラ官民連携プラットフォームが主催する「第3回グリーンインフラ大賞」にて、優秀賞を受賞した。また本社の敷地内にも、地域の学生を対象とした環境教育の効果を狙い、レインガーデンを設置している。
都市型のグリーンインフラ事例
アマダの事例は、郊外型または地域での大型グリーンインフラ事例であり、大規模なグリーンインフラはその設置によるインパクトも大きい。
次に、都市域でつくられるグリーンインフラを紹介したい。都市域では大規模な事例は多くないが、小規模につくられるグリーンインフラは、敷地内に分散して設置されるため、敷地内氾濫を防いでくれる効果が期待できる。
図3 は、千代田区にある約15㎡の小規模なグリーンインフラ事例である。整備場所は民間メディア企業の創業地で、本社移転後は地域に開かれた公開空地として、また都会の小さな森としてその役割を担っている。「森」という名のとおり、豊富な緑によるCO2 削減や、環境貢献、生物多様性の保全など、地域と共生するサステナブルな広場をコンセプトにデザインされ、さまざまな人々が気軽に集えるインクルーシブでオープンな広場である。地域の保育園児が日常的に利用しており、夏の盆踊りをはじめとして地域のコミュニティスペースとしても活用されている。
図3 レインガーデン事例(千代田区の民間施設内)(写真提供:日比谷アメニス)
強雨時には敷地内の最も低いエリアへ水が流れていく傾向があり、これまでは砕石などを用いて排水性を高めていた。今回、この敷地内の水災被害を緩和する目的で、「排水性」を強化したグリーンインフラ機能を持つ広場へと、部分的な再整備を行った。
現状の地盤から30㎝下まで掘削を行い、貯留性能の高い基盤材料に置換した。掘削した土壌は敷地の性質上、外部に搬出できないため、水が流れてくる逆側の部分に堤防のように盛り土を行った。貯留基盤材料は植栽基盤を兼ねているため、乾燥と浸水の両方に耐性を持ち、関東地方で在来性のある植物を植えて、生態系に配慮した。新たに植えた植物のまわりには化粧的に粒形の小さな砂利を敷き並べて、景観機能を強化した。この公開空地は、園児や子どもたちが多く利用するため、子どもでもわかるような文言でレインガーデンを説明する看板を設置している。
今後のグリーンインフラの動向
最後に、浸透・貯留機能に限らず、防災・減災・BCP 対策に貢献する技術を持つグリーンインフラを紹介したい。
1 つ目は、「雨水循環型」のグリーンインフラである。現在でも建物を建築する際に雨水貯留槽の設置が義務づけられることが多いが、建築・設備業界では、建物内の雨水利用、雨水循環について積極的な議論が始まっている。あわせてレインガーデンをはじめとするグリーンインフラに貯留された雨水を使い、水の循環に組み込めないかという検討も行われている。これは「ネットゼロウォーター」という概念で、水資源の消費を制限し、それを同じ流域に戻すことで、その地域の水資源を年間を通して量的にも質的にも枯渇させないことを意味する(米国EPA 環境保護局より)。
もう1 つは「人工湿地」とよばれる装置である。湿地生態系の持つ水質浄化機能を工学的に強化した人工生態系を利用した排水処理を行う手法だ。太陽光で稼働するオフグリッドな施設で整備した場合、災害時においても利用可能な設備になる。
グリーンインフラには防災・減災・BCP 対策に対してさまざまなメニューが用意できている。環境配慮が重要課題といわれる時代だからこそ、企業価値と課題解決を両立させるインフラとして活用の検討を考えていただきたい。