さかもと さとし:共創環境部部長、特殊緑化推進室室長
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気候変動による社会課題の増大とグリーンインフラの必要性
気候変動の影響を日常的に感じる近年、国内でも水害を引き起こす集中豪雨は毎年頻発しており、家屋や施設の浸水など、事業活動や社会生活に影響を与えるほどの被害になることもしばしばである。こうした状況下、多くの自治体や事業者にとって、自然災害が起こった際に「いかに事業を継続していくか」を定める事業継続計画(BCP)が、重要課題として扱われている。
国土交通省が2019 年7 月、推進戦略としてまとめたグリーンインフラは、社会資本整備や土地利用などのハード・ソフト両面において、自然環境が有する多様な機能を活用し、持続可能で魅力ある国土・都市・地域づくりを進める取組みである(国土交通省HP 参照)。グリーンインフラ(図1)は雨水の貯留・浸透による防災・減災機能だけでなく、植物の蒸発散機能を通じた気温上昇の抑制や水質浄化、生物多様性保全など、幅広い機能が注目されている。中でも、前述した近年の水災害の増加もあって、雨水抑制や防災・減災の機能が特に関心を集めている。
図1 グリーンインフラ事例(米国オレゴン州ポートランド市)(写真提供:日比谷アメニス)
東京都も「東京グリーンビズ」と銘打ち、都民と企業とともに、東京の緑を「まもる」「育てる」「活かす」取組みを進める、100 年先を見据えた緑のプロジェクトを推進している(東京グリーンビズHP 参照)。「自然が有する機能を活かすグリーンインフラの導入」として、都有施設や民間施設にグリーンインフラを導入することを推進しており、雨水流出抑制に資するグリーンインフラ施設(レインガーデンやバイオスウェルなど)の設置を積極的に働きかけている。
日本国内のグリーンインフラ事例
国内では近年、都市の民間再開発において、防災・減災型グリーンインフラとしてレインガーデンが計画されるようになった。レインガーデンとは、雨水を下水道に直接放流せず、一時的に貯留してゆっくり地中に浸透させる構造を持つ緑地である。またバイオスウェル(緑溝)は、砂利や植栽などにより雨水を浸透させる機能を持つ(国土交通省「グリーンインフラ実践ガイド」参照)。日比谷アメニスでは、公園・緑地などの施工管理の一環として、これらの設備にも対応している。
これらの設置事例として、当社が手掛けた都立大島小松川公園を紹介したい(図2、3)。ここでは30㎡(集水面積は150㎡)程度のレインガーデンが3カ所、15m ほどのバイオスウェルが2 カ所設置されている。大島小松川公園は東京都立東部公園の1 つで、25 万㎡弱の広大な敷地を持つ。前述した東京グリーンビズの取組みの1 つとしてグリーンインフラが導入された。
図2 レインガーデン事例(都立大島小松川公園)(写真提供:日比谷アメニス)
図3 バイオスウェル事例(都立大島小松川公園)(写真提供:日比谷アメニス)
当社の実験では、レインガーデンは周辺個所に比較し、一定規模の降雨が続いたときでも、雨水が外部に流れていくピークタイムをずらすことが示された。また技術的ポイントとしては、機能と景観の調和が挙げられる。既存公園内での整備だったため、既設の土壌を外部搬出することができず、水の流入側の反対側に土壌を土手状に積み上げて貯留機能を担保しつつも景観形成を実現するデザインとした。このような手法により、既存の施設でもグリーンインフラの整備が可能となる。
グリーンインフラのメカニズム
レインガーデンは、集中豪雨やゲリラ豪雨に対して雨水を一時的に貯留することで、雨水の雨水管への直接流入や緑地表面を伝って雨水管に流入するピークタイムを遅らせる。その仕組みはもともとの地形に依存するものの、貯留可能な形状に整正したり、貯留性能の高い基盤材に置換したりすることで実現される。これにより雨水が一気に雨水管に流入することを防ぎ、小規模な氾濫を緩和する効果がある。レインガーデンの特徴的な形状ゆえに、一時的に水没する状態が続くが、浸水に耐え得る植栽を配置しているため、雨水の浸透とともに回復力(レジリエンス)を発揮する(図4)。
図4 レインガーデンのメカニズム(豪雨時)(画像提供:日比谷アメニス)
またバイオスウェルは、浸透機能に特化した設備で、雨水を直接的に地中に浸透させる。集中豪雨時には、周囲からバイオスウェルへ雨水が流れ込み、飲み込んでくれる。
防災・減災型グリーンインフラは、浸透や貯留機能を高めるために、土壌下部に単粒砕石の貯留層を設けている。造園的な特徴として、砕石層の上部には雨水貯留性能を持つ独自の植栽基盤を敷設しており、これにより植栽が可能となる。景観形成とともに、暑熱効果やCO2 固定・生物多様性保全などの気候変動対策にも対応している。既設の敷地では、その地形を活かしたデザインが求められるが、当社が長年培ってきた造園技術によって景観と機能の両立が可能となる。
防災・減災型グリーンインフラは、民間の事業所・工場で設置した場合にも、敷地内だけでなく敷地周辺地域へのBCP 対策にもなり得ると考えている。次回は、実際に事業者施設に防災・減災グリーンインフラを設置した好事例を紹介する。