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工場管理 連載「闘う!カイゼン戦士」

2025.01.31

失敗を積み重ね、改善文化を根づかせる―二ノ宮製作所

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 高精度な板金技術を核に金属筐体を手がける二ノ宮製作所(埼玉県秩父郡皆野町)。顧客の要望に柔軟に応えられる体制づくりを目指した改善活動に取り組んでいる。新規顧客が増え、仕事の質が変わる中、さまざまな課題へのアプローチが改善活動の原動力となってきた。昨年からは従業員の自主性に任せた改善チーム「アスヨク」を発足。定例の活動にも乗り出した。全社の約4割を占める外国籍スタッフからも自ら参加を申し出るなどボトムアップによる活動の機運も出始めている。「お客様に選ばれる金属筐体専門メーカー」を旗印に、失敗を恐れず、日々小さな改善を積み重ねることで独自の改善文化の定着を目指していく。

顧客視線の改善活動

 二ノ宮製作所は半導体製造装置や測定機器、社会インフラ機器などのハウジングを手掛ける精密金属筐体メーカーである。1947 年の創業以来、板金、溶接をコア技術として電信電話や無停電電源装置(UPS)などで事業規模を拡大してきた。一方、リーマン・ショックの前後から電信電話分野の受注が激減するなど市場環境の変化に苦しみ、厳しい経営を強いられることとなった。

 転機となったのは2011 年。先代の長女で三代目となる二ノ宮紀子社長が就任してからだ。20 年までの経営ビジョンを策定し、「お客様に喜ばれる金属筐体の専門メーカー」をスローガンに事業全般の見直しに着手。製造、営業、人材育成の改革に乗り出した。下請的な賃加工から脱皮し、メーカーとの直接取引に特化。さらに受注に不安定要素が強かったUPS からも撤退するなど事業内容を大幅に変えていった。
1つの筐体をつくるために必要な部材は約500点。すべて事前にピッキングを行い、品質不具合のリスクを減らす

1つの筐体をつくるために必要な部材は約500点。すべて事前にピッキングを行い、品質不具合のリスクを減らす

 その改革を進める中で重視してきたのが改善活動だった。「板金、溶接といった加工だけでなく、塗装や組立など完成品に近い仕事を増やす中で数多くの改善テーマが生まれてきます。その課題を1 つひとつ解決することがお客様からの信頼を得ることであり、当社の意識改革としても取り組んできました」。二ノ宮社長の右腕として二人三脚で改革を実行してきた堀安吉城専務は改善活動を経営ビジョン実現の基盤と位置づける。

 先代時代からもコンサルタントを入れた改善活動を実施してきたが、経営状況が悪化する中で、従業員のモラールが低下し、3S(整理・整頓・清掃)などの基本からやり直すことが求められていた。11 年に設定した課題は108 と「人の煩悩と同じ数」(同)にも上った。それらを1 つひとつ解決していく過程で、従業員の意識や行動も少しずつ変わっていった。とはいえ、当時は職人気質の従業員が多い職場だっただけに方向性が合わずに、離職していった人もいたという。

 「二ノ宮社長と設定した当社の5 つの価値観(しなやかさ/ 行動継続力/ 情熱・チャレンジ/ チームワーク/ 品格)を共有することを前提に改革を進めていきました。残念ながら当社から離れる人もいらっしゃいましたが11 年からの3 年間で改革への体制が整ってきました」(同)。

 13 年には塗装設備を導入し、塗装事業に進出したほか、筐体製造エンジニア育成プログラムの導入などハード、ソフト両面での改革を着々と進めていった。また、15 年にはフィリピン共和国マプア大学、サンホセレコレトス大学との国際インターンシップ協定を締結し、外国籍の人材活用にも動き始め、社内の雰囲気も変わり始めた。
国際インターンシップ生もKAIZENにチャレンジ

国際インターンシップ生もKAIZENにチャレンジ

改善チーム「アスヨク」が発足外国籍メンバーも加入

 改善活動がさらに本格化してきたのは渡邊浩明氏の入社からだ。自動車部品メーカーで工場長を務め長年改善活動に取り組んできた経験を買って旧知の堀安専務が招聘、改善の専任者として配置した。「改善文化を根づかせるには現場改善に詳しい人材が不可欠と考えました。特に塗装事業への参入や最新のパンチレーザーの導入で業容が広がり、顧客の変化について行くことが求められる中、渡邊さんの加入で改善の着眼点やポイントを学び、改善レベルが格段に上がっていきました」(同)。

 改善に活用するイレクターパイプなども積極的に使い始め、改善に対する発案も増えてきた。また、改善活動に熱心な企業の工場見学を実施し、他社の取組みからも刺激を受けるようになった。その中から23 年5 月に発足したのが「アスヨク」である。他社の活動にヒントを得て「明日は今日より良くなる」ことを意識した名称を冠した改善チームだ。メンバーは希望者で構成し、現在16 人で運営、外国籍スタッフも3 人参加している。

 堀安専務は「これまで当社の改善活動はトップダウン的に進めてきましたが、ようやく現場が自ら動く機運が出てきました。発足以来1 年間で58件の改善を実施するなど成果も出始めています」とボトムアップによる活動に期待を寄せる。

 24 年4 月からは不定期に実施していたアスヨクメンバーのミーティングを毎週水曜日朝8 時40 分~ 10 時に固定。全従業員参加の改善活動は毎週木曜日に30 分実施しており、10 月からは1 時間に延長を予定するなど改善活動が全社的に定着しつつある。
KAIZENポイントについて話し合うアスヨクメンバー

KAIZENポイントについて話し合うアスヨクメンバー

移動式スタッド溶接機。共有設備は移動式にして使いやすくした

移動式スタッド溶接機。共有設備は移動式にして使いやすくした

「失敗おめでとう」文化の定着

 アスヨクグループでは現場への声がけや改善アイデア提案の収集を行い、改善テーマをまとめて全員参加の改善活動で実施していく。時間が足りない場合は残業するケースもあるが、渡邊氏がサポートに入り時間内に終わらせるように進めている。「どんな改善提案でも評価する。失敗してもかまわない。むしろ失敗も評価する『失敗おめでとう』を受け入れられる職場環境をつくることが改善文化の定着につながると考えています」(同)とまずは発言することを推奨する。

 改善案件は自分の持ち場以外を担当する。他部署からの異なる視点で考えることで解決のヒントを見いだすことも少なくない。また、外国籍スタッフらは自分のアイデアが採用されることに喜びを感じるとともに他人の役に立てていることがモチベーションにつながっているという。

 「外国籍スタッフが改善を面白がって取り組んでくれていることはうれしく感じています。最近は外国籍の女性の従業員も増えてきて清潔さや安全性に対する改善案も増えてきました。男性職場で力仕事も多いですが、女性の視点から道具を使って負荷を下げることや、安全性に配慮した設備のあり方などを考え直すきっかけにもなります。今後、国籍にかかわらず女性の採用を増やすことも考えています」(同)と多様性の観点からの職場環境の改善にも期待する。
大型製品が多いので、安全対策には特に力を入れている

大型製品が多いので、安全対策には特に力を入れている

改善活動は来年度から毎日1 時間

 改善活動の活発化によって顧客満足度が向上し、より付加価値ある仕事の受注も可能になってきた。「顧客目線に立った改善の取組みが予想以上に事業との相乗効果が得られた」(同)と評価する。このため25 年度からは全従業員の改善活動を週1 時間から毎日1 時間へと日常業務に組み込むことを計画している。「これまでの活動を見てお客様の困りごとを解決していくことで生産性が上がると判断しました。改善活動のための改善でなく、付加価値の高い仕事に向けた活動を継続していけるかがカギです」(同)と新たな取組みに意欲を見せる。

 その一環として24 年4 月に人財開発チームを開設した。チーム長には二ノ宮社長の長男である二ノ宮賢人氏が就任した。堀安専務は「当社は外国籍のスタッフが4 割を占め、『3 カ月で1 人前、3 年でベテラン』を人材育成のキャッチフレーズとしています。人財開発チームではこの仕組みを検証し、外国籍スタッフに最適な育成法を確立して実際に多能工化を育てられることを目指します」と狙いを説明する。

 また、室長は海外経験が長く、語学指導も行っていたので外国籍スタッフをサポートしていく目的もある。

 「当社は海外6 大学とインターンシップ契約を結び、海外人材は確保できる体制にあります。すでに外国籍スタッフの中には雇用の継続希望や家族、恋人を働かせて欲しいとの要望もあり、今後も人が集まる会社にしていきます」(同)。改善活動を通じて魅力ある企業づくりに取り組む。

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