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工場管理 連載「闘う!カイゼン戦士」

2026.04.17

地道な改善活動が日々の業務に磨きをかける―末吉ネームプレート製作所

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 金属銘板をはじめ各種ネームプレートを手掛ける末吉ネームプレート製作所(東京都港区)。創業100年を超える老舗として培った印刷技術と経験が幅広い顧客を獲得し続けている。日々の環境整備点検による5S、改善活動をベースに「気づき」を得ることを習慣づけ、日常業務のミスを防ぎ、顧客の困りごとに応えられる「人財」を育む。一方、独自の生産システムの構築やスマートフォンを使ったコミュニケーションツールを積極的に活用し、生産性向上に結びつけている。市場環境の変化が激しくなる中、基幹システムのブラッシュアップ、設備の自動化、従業員の多能化に取り組むなど人づくり、モノづくりを推進している。

3 代目として意識改革に着手

 末吉ネームプレート製作所は、1923 年に沼上昌範社長の祖父・沼上末吉氏が創業。中島飛行機の航空機部門に銘板を納入し、市場開拓に取り組むなどネームプレート一筋に事業拡大を進めてきた。現在は金属銘板のほか、シール印刷、シルク印刷を柱に「水、空気以外は何でも印刷します」をキャッチフレーズに食品、医療、金融をはじめ、あらゆる業界で必要とされる印刷・加工品をオーダーメードで提供している。

 同社が、改善活動に取り組み始めたのは98 年。沼上社長が父の沼上正夫氏から引き継ぎ3 代目として就任してからだった。大学卒業後、大手電機メーカーに勤務していた沼上社長は、整理整頓がされていない雑然とした工場を何とかしなければと考えていた。

 最初に着手したのがQC 活動だった。神奈川県中小企業センターの専門家派遣制度を活用し、ABC 分析やフィッシュボーン図などQC7 つ道具の基礎から学び始めた。ただ、職人気質の古参従業員からは反発の声もあり、簡単には浸透していかなかった。それでも年1 回のQC 大会を開催するなど10 年近く継続し、活動が定着しつつある中、次の課題として着目したのが生産管理の改善だった。

「当時の生産は現場任せで、在庫管理なども担当者の勘と記憶に頼っている状況でした」と沼上社長は振り返る。神奈川県産業振興センターからPEC 産業教育センター(現PEC 協会)を紹介され、これが同社の改善活動を推進する転機となった。PEC のコンサルタントからは、指導を受け、生産計画を策定し、製造工程のボトルネックを見つけ出すことから始まった。「従業員はもちろん私自身、ボトルネックという知識はありませんでした。それまでも機械化して改善は進めていましたが、1つの工程を改善しても次工程がネックになってしまうと生産性は上がりません。こうした工程に対する見方を学んだことは大きく、今も肝に銘じています」(同)

 同社の場合、手作業を機械化することが課題だった。

 たとえばプレートに文字や模様を刻印する際のエッチングもその1 つだった。エッチングとは金属やプラスチックなどの表面に薬品を使って彫刻を施し、文字や図柄を刻印する技法である。「当社では感光材の塗布を手作業で行っており、同じ職人でないと厚みにムラができ、均一にするには特定の人に頼らざるを得ず、そこがネックとなっていました」(同)。試行錯誤の結果、シルク印刷の技術を応用し、自動化に成功。その後も属人化している個所を機械に置き換えるなど、ボトルネックをつぶしていった。
エッチングの自動設備。各工程を自動化し、生産性を大幅に向上

エッチングの自動設備。各工程を自動化し、生産性を大幅に向上

 課題であった在庫圧縮にも着手した。製造部門だけでなく、上流工程である営業も巻き込んでの取組みとなった。顧客からのED(I 電子データ交換)をもとに生産計画を見直し、実需に沿って稼働することで在庫圧縮に寄与し始めた。TPS(トヨタ生産方式)も取り入れ、リードタイムやボトルネックを検討しながら最適なロット数を確定し、生産していく体制へと移行していった。

「すべてTPS に置き換えるのはなく、EDI のあるもの、ないものでやり方を変えて進めてもらえたのがよかったです。特にEDI がない受注品の生産計画の立て方は非常に効果がありました」(同)

 在庫管理はその後も進化している。5 年前からは3 年を過ぎた在庫を処分する制度を導入した。在庫品は年度シールで管理し、その在庫品がいつの製品かを一目で見分けられる。「年度シールは今年が2025 年で5 のつく年は黄色、4 のつく24 年は青、3 のつく23 年は赤と年度ごとに色分けしているので、来年度は赤を廃棄します。これまでの経験で製品サイクルはほぼ3 年とわかり、在庫期間が一目でわかる仕組みにしました」(同)と見える化によって在庫削減を進めやすくする一方、次年度の生産計画の策定にも反映させる。
整理整頓された在庫棚。トレイには年度シールが張られ、製造年度が一目でわかる

整理整頓された在庫棚。トレイには年度シールが張られ、製造年度が一目でわかる

月1 回の環境整備点検で評価

 また、同社の生産性向上への取組みを支えているのが日々の改善活動である。「小さなことの積み重ね」として各部門が月1 点の改善発表を行うことがルール化されている。「環境整備 ココが変わったでSHOW !」と名づけ掲示板に改善前と改善後を明記したシートを当月、前月、前々月の3 カ月分を提示している。それとあわせ各部門の委員で構成する「環境整備委員会」による「環境整備点検」を月1 回実施し、21 項目の点検項目を沼上社長らとチェックする活動を継続している。「同点検は賞与に連動しています。1 回120 点満点で、3カ月で335 点を取ると食事券がプレゼントされる仕組みになっている。特に前回評価が低かったポイントが改善されていないと評価が下がります。これは業務でのミスを繰り返さないための訓練でもあり1 人ひとりの『気づき』を養成し、習慣づけることが狙いです」(同)と改善活動を仕事に対する意識の向上にもつなげている。
「環境整備 ココが変わったでSHOW !」のカイゼンシート。毎月1点提出し、成果を水平展開する

「環境整備 ココが変わったでSHOW !」のカイゼンシート。毎月1点提出し、成果を水平展開する

 点検では沼上社長から「宿題」が提出され、次回までに改善することが求められる。また、宿題にも必ず中間報告することを義務づけている。これも目的の方向性を間違わないためのルールで、日常業務における間違いを防ぐ観点からである。

 そのほかにも点検日の前日までに1 つ「モノを捨てる」ことを各部門に課している。形のあるモノだけでなく、既成概念や成功体験といった過去の考え方や経験もそこには含まれる。整理整頓で見える化し、日常業務でのムダな仕事を改善していくことを目指す取組みである。

「5 つの不」をテーマに市場開拓 社内の多能化を推進

 今後の課題として挙げるのは市場環境の変化への対応だ。プレートも成熟市場であり、少子高齢化などを背景にシュリンクする傾向にある。「創業時はゼロ戦の銘板、その後、金属プレート、樹脂プレート、シールとお客さまのニーズに合わせ業容を広げていきました。この姿勢は現在も変わっていません。不満、不快、不便、不安、不要といったお客さまの『5 つの不』をすくい上げ、お客さまの困りごとを解決することが当社の仕事です」(同)と印刷を核としたソリューション営業に力を入れる。たとえば、単に製品を提供するだけでなく、製品に取付ねじを付けたり、シールを貼る顧客の工程をどうしたら簡略化できるかなど踏み込んだ提案ができるのも同社の持ち味だ。商社を挟まず、直販営業を重視するのも顧客の声を直接聞いて付加価値を高めるためである。その一環として部品の曲げ加工や穴あけなどを手掛ける部品事業も立ち上げた。人手不足に悩む顧客の後工程を引き受けるなど事業領域を広げつつある。

 社内に向けては経営計画をパートも含めて全社で共有し、沼上社長が講師を務める月例の勉強会ではMQ 会計などを学び、日々の改善に取り入れている。また、従業員の多能化にも取り組む。3年単位で持ち場を異動し、複数の業務をこなせる職能を持たせることが狙いだ。また、デジタル化も推進する。コミュニケーションアプリのSlackを活用するなど情報共有を進めるほか、従業員が中心になり、基幹システムのブラッシュアップに着手、受注時点で在庫状況が把握できるなど機能の向上も進めている。最近ではRAG(検索拡張生成)のAI システムを導入して就業規則や作業マニュアルを作成、上司に聞かなくても仕事ができる環境づくりに取り組んでいる。
従業員の指導はOJTが基本。多品種少量生産だけに自動化が進んでも人手に頼る工程は不可欠

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日頃の感謝を伝え合う「サンクスカード制度」。従業員のコミュニケーションを円滑にする取組みが随所に見られる

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「改善活動は自走し始め、活動の意味を理解している従業員が増えてきたと感じています。工場見学で見られなかった工程を担当者が自らサンプルをつくってお客さまに紹介するなど取組みの効果は確実に出ています」(同)。ボトムアップによる改善活動が新たな事業展開を加速しそうだ。

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