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機械設計 連載「セラミックス材料の基礎と活用の要点」

2026.06.01

最終回 セラミックス材料のプロセス制御(不具合対策と改善)

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技術士事務所 ALEITA(アレイタ)福井 剛史

ふくい つよし:代表、技術士(化学) 大学院修士課程修了後、2009 年三菱化学(株)(現:三菱ケミカル(株))に入社。その間、一貫してセラミックス分野にて3つの職務・部署(事業開発、製造、基礎研究)に従事。順に、事業開発(国内外企業との繊維製品開発、委託生産、事業化、ほか)、製造(工場や製造現場での新たな仕組みづくりとその運営、教育、製造プロセスおよび機械設備の改善、リスクアセスメント、ほか)、基礎研究(大学や企業と連携した水素製造関連素材の研究、ほか)など。2025 年に技術士事務所ALEITA(アレイタ)を設立。

前回の内容と今回の構成 

 前回はセラミックスの中心的な製造方法である「焼結」について基本的な内容を解説した。今回(最終回)は、実際の焼結を含むプロセスの不具合対策についての基本的な考え方を述べ、続いてその考え方に基づいた開発、製造での不具合対策の特徴について述べる。

不具合対策への基本的な考え方 

 セラミックスを取り扱うエンジニアがプロセスの不具合に出合ったとき、その不具合対策への基本的な考え方として、まずは仮説演繹法1)を振り返ってみたい。「仮説演繹法など知らない」という読者がいたとしても、普段の職務からその内容は身に染み付いていると思う。つまり、セラミックス材料またはそのプロセスについて不具合が起こったとすれば、何か対策を実行する前に不具合について「どうしてこうなったか」などを見立てて、「その見立てが正しければ実際には何が起こるはずか」を考え出し、「考え出したことが実際に起こるか起きないかを確認する」ようなことである。 

 この仮説演繹法の構成は下記のように2 つの部分から構成される。 
 ①なぜこうなったのか原因を見立てる(仮説形成部)  
  証拠+前提*1→仮説 
 ②その見立てが正しければ、どうなるはずか予測を立てる(演繹部)  
  仮説+前提→証拠 

*1:規則、補助前提などと表現されることもある。

 証拠は、実験や生産などで得られるデータなどの形式知に加えて、観察を含む経験の暗黙知などが含まれる。一方、前提は、セラミックスにかかわる不具合であれば、科学的な法則に加えて、実際上は企業、エンジニア個人の経験、機械設備の構成なども含まれる。 

 また、この仮説演繹法は演繹法とあるが、帰納法であることに注意が必要である。「仮説演繹法が本来の演繹法ではなく、帰納法の一類型であることは、初級の論理学書などにおいても解説されており、論理学においては初歩的・基本的な事項にほかならない」2)と書かれることもある。これは次に示すように、少なくとも結果の取扱いが大きく異なるためである。 

 帰納法を用いる場合、提出された仮説は論理的に完全ではあり得ない。仮説は「一般化」された法則(案)とされる一方で、そのために使用した根拠は「有限である」。全部は確認していない。例えば、「西の空が明るくなれば晴れてくる」は、かつて人々が(有限の数だけ)天気を観察して導き出した法則で、大気の流れを考えるとそれなりに妥当だが、観察を続けていくと外れるケースが出てくる(変化する余地・可能性があるとも言われる)。 

 以上の考え方(仮説演繹法)をベースにして、以下に開発、製造において焼結プロセスを例とした不具合対策について順に述べる。

開発での不具合対策 

 開発は、製造条件(安定化した量産プロセス条件)が1つも完成していない状態と言える。その条件に合致する候補は無数にあり、まずはそれを案として提出しなければいけない。そのため、開発においてまず重要なのは、前章で述べた2 つの部分のうちの仮説形成部である。 

 想定不具合として、開発途中のセラミックスについて「高密度焼結体が得られなかった」ことを考える。前提として、「開発の過程で検討している原料や機械設備を用いるプロセスでは焼結温度が1200℃であれば高密度焼結体が得られることが明らかとなっている」とする。この場合、「焼結温度が1200℃(A)」、「高密度焼結体が得られる(B)」とすると「A ならばB」(焼結温度が1200℃ならば高密度焼結体が得られる)が成り立つ。 

 上記のように考えると、不具合では高密度焼結体が得られなかったため(B ではない)、多くのエンジニアは1200℃ではなかったこと(Aではない)を疑うと思われる。この推論は「A ならばB」の対偶「B でなければA ではない」に対応している。ここで温度が1200℃であった場合、何かの異変の兆候に気がつく。 

 さらに偶然に(1つの分かれ道)、低温(例えば900℃)での実験が実施され、高密度焼結体が得られたとする。こちらは多くのエンジニアにとって兆候ではなく「意外である」(素通りしない、気づく)と思われる。そこで思考が駆動される。この場合、プロセスに含まれる不純物(原料品質ばらつき由来、機械要素の摩耗・混入、保管庫の粉塵混入、前ロットの焼成炉内残差など)が混入し、結果として液相焼結となっていることの仮説が立てられ、検証の結果、原因と認定されるかもしれない。このような方法はアブダクションと呼ばれる2)。人に意外さを喚起(発火)させ、仮説形成部の前提に作用することで「発見」に導く。 

 また、「意外」と書いたが、今回のケースにおいてそもそも高密度焼結体であれば(B であれば)1200℃である(Aである)と考えていたのであれば、実はこれは正しくはない。高密度焼結体を得るには1200℃とすること以外にもたくさんの条件があるはずだからである(上記のように高密度焼結体であるには1200℃でなくとも原料粒子条件、フラックス、機械設備からの成分混入など無数に考えられる)。このような推論は後件肯定の誤謬(ごびゅう)と呼ばれ誤りである。一方で、発熱しているから風邪をひいた(風邪以外にも発熱理由はたくさんある)、と考えることなど日常の場面でも見られるありふれた誤りでもある。 

 開発での不具合対策において、有用な仮説を思いつくにはいろいろな方法があるが、1 つの泥臭い方法(地に足の着いた方法)として、上記のように地道に、誤謬も犯しつつ実験を続ける途中、意外な事実に出会い、仮説形成部が駆動されることが挙げられる。実際、ノーベル化学賞を受賞された田中耕一さんは、著書「生涯最高の失敗」にて「私は間違って、いつも使っているアセトンの代わりにグリセリンを、金属超微粉末と混ぜてしまいました」と述べている3)。もちろん、間違うことだけが重要というわけではなく、急速加熱のためにレーザーやマトリックスとして金属超微粉末を当時の開発チームの方々が用いたことなど専門の土台があってこそ、である。
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