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工場管理 連載「闘う!カイゼン戦士」

2025.09.26

アルバイトが支える成長企業 大学生が挑む現場改善と仕組みの構築―サンタフェ

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 安心・安全・無添加のスクラブソルト「星野家の手作りマッサージ塩」を製造・販売するサンタフェは、正社員を置かず、アルバイト・パート従業員のみで運営する全国的にも珍しい体制の企業である。大学生アルバイトを主力に、発注から製造、梱包までを担い、自発的な改善活動を展開。5Sや3定管理が徹底され、誰もが即戦力として働けるよう、動画マニュアルの整備・運用も進んでいる。作業の属人化を防ぎ、仕組みによる課題解決の体制が整えられており、その基盤として「TOC(制約理論)」を据えている。製造工程や備品管理におけるボトルネックを特定し改善することで、経営課題を着実に乗り越え、事業を拡大してきた。

正社員ゼロの事業体制 大学生アルバイトが戦力として活躍

 手づくりの無添加マッサージ塩(スクラブソルト)の化粧品製造・販売を手掛けるサンタフェ。代表の星野玄氏の母親が約30 年前に自身の肌のために開発した無添加レシピを起点とし、改良を重ねてきた。鳴門産の天然塩にはちみつ、アルブミン、トコフェロール(天然ビタミンE)などを配合し、防腐剤や化学成分は一切使用していない。髪から足先まで全身に使用でき、抗炎作用や皮膚の修復、角質ケアの効果も期待される。おもなターゲットはアトピーや敏感肌に悩む人々で、年間生産数は約10 万個にのぼる。

 当初は父親が経営するアパレル企業にて副業的にスーパー銭湯などへ卸していたが、その価値に着目した星野氏が化粧品事業を承継した。口コミやSNS を通じて評判が広がり、1 週間で8,000 件もの注文が殺到したこともあり、引合いも増加。徐々に販路を拡大し、現在では大手雑貨チェーンや主要EC サイト、海外でも販売されている。
185~950gのサイズ展開で、詰め替え用・お試し用のパウチも販売(写真提供:サンタフェ)

185~950gのサイズ展開で、詰め替え用・お試し用のパウチも販売(写真提供:サンタフェ)

 同社の事業体制は、正社員を置かず、アルバイト・パート従業員のみで構成されている。大学生アルバイト約20 人と、シルバー人材センターからのパート1 人で、発注から製造、出荷準備までの全業務を一貫して担っている。星野社長は「学生時代に受けた恩を次世代に返したい。大学生にこそ活躍してもらいたい」と語る。また、高齢者雇用も「働く意欲があるのに働く場がない」という社会課題の解決につながると考えている。

 働き方も柔軟で、シフトは学業や就活などに応じて調整可能。理由を問わず、当日の欠勤も許容されているという。途中で1 年間の留学を挟みながら働き続けている学生もいる。また、採用は在籍している学生による紹介制で続いている。星野社長は「“経営者が作業をしない”という体制づくりを徹底し、アルバイトさんだけで会社が回る仕組みづくりを意識してきました」と、彼らを実質的な戦力として中核に据え、外部パートナーと連携しながら事業を展開している。
マッサージ塩の充填機:充填商品の画像の位置に合わせるだけで充填が可能。数値確認が不要でミスを低減。ハンドル部分には量の増減方向を視覚化している

マッサージ塩の充填機:充填商品の画像の位置に合わせるだけで充填が可能。数値確認が不要でミスを低減。ハンドル部分には量の増減方向を視覚化している

改善の出発点は“つまずき”を取り除くこと

 正社員ゼロの事業体制ながら、工場内では5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)が徹底され、3 定管理(定位・定品・定量)も行き届いている。作業場の至るところに改善の跡が見られ、それを担っているのも大学生アルバイトたちである。「改善活動もすべて彼らに任せています。人のせいにしない仕組みとして、誰でもモノの場所がわかり、戻せるような環境づくり、作業ミスや漏れが起きない仕組みづくりを継続してきました」(同)

 10 年ほど前、シルバー人材センターからの高齢者パートが主力だった当時、彼らの“つまずく石”(困りごと)を取り除くことから改善が始まった。まずは定位置管理に着手し、その後大学生アルバイトが増えると、かんばん方式による発注、治具の製作、作業の見える化など、改善の幅が大きく広がっていった。

 備品や道具、器具の保管場所には、写真と名前を記載したラミネートを貼り、棚を開けずとも外から把握できるようにした。台車は床にテープを貼り、サイズごとに収納範囲を区分することで混在を防止。視認性を高めることで、誰が見ても「ここに戻す」と理解できるようになり、整理整頓の徹底や備品ロスの削減につながっている。ほかにも、はかりや釜など、微妙な個体差が作業に影響を及ぼす道具には番号を付けて管理。不具合やクセの把握に役立っている。電源コードは天井から吊り下げ式に変更し、床をすっきりさせたことで、安全性と清掃性も向上した。
写真付きラミネートで置き場所を明確化、棚の中身も外から確認できる

写真付きラミネートで置き場所を明確化、棚の中身も外から確認できる

 さらに、材料の発注や消耗品の補充には「かんばん方式」を導入。あらかじめ設定された最低予備数に達する前に「発注カード」で社長へ発注依頼を行うことで、誰でも発注が可能な体制とし、属人化や発注ミスを防ぐ仕組みを構築している。また、補充時のルールも「左入れ右出し」(左に補充、右から使用)で統一し、混乱の予防につなげている。

 水や塩などの重量物を移動する工程にも、身体的負担を軽減する工夫がなされている。大学生アルバイトが主導し、塩袋用のリフターや釜用の台車などを自作した。「ないものは自分たちでつくる」という文化も根づいているようだ。
はちみつ一斗缶:「左入れ右出し」「発注カード」による在庫管理

はちみつ一斗缶:「左入れ右出し」「発注カード」による在庫管理

DIYの塩袋リフター:高齢者でも25kgをムリなく運搬(写真提供:サンタフェ)

DIYの塩袋リフター:高齢者でも25kgをムリなく運搬(写真提供:サンタフェ)

動画マニュアルの活用で新人でもすぐに即戦力に

 生産規模の拡大とアルバイトの増加に伴い、作業の教育と非属人化を進めるため、マニュアル整備の必要性が高まった。約2 年をかけて、大学生アルバイトの手で60 本以上の動画マニュアルを作成。製造手順に加え、テプラの使い方や動画作成のやり方といった間接業務にも対象を広げ、業務全体の標準化を図っている。

 動画制作の中心を担う大学生の森川陽一朗氏は、「自分では100%説明したつもりでも、その作業を知らない人には伝わりきらない部分が出てきます。そうした実務中に得た経験や視点を動画制作にも反映させています」と語る。常に受け手の目線を意識し、内容の見直しと改善を重ねて運用されている。動画と紙マニュアルは現場で実際に機能しており、新人でもマニュアルを見ればすぐに作業がこなせる体制が整っている。

 また、マニュアルとは別に、作業進行用のチェックリストも作成。作業終了時に確認すべき項目をリスト化し、頭で覚えておく必要がないよう工夫している。作業内容自体はマニュアルにあるため、チェックリストには必要最低限の実施項目のみを記載し、煩雑さを排除したことで、確認作業が習慣化され、作業漏れが減少。また。複数人で行う共有作業においても、抜けやミスが発生しにくい体制が構築された。

「これらの仕組みにより、入って2 ~ 3 カ月で業務をひととおり習得し、“ほぼベテラン”として自立して動けるようになります。属人化を防ぎ、誰もがミスなく働ける仕組みを常にブラッシュアップしながら運用しています」(星野社長)

問題は「人」ではなく、「仕組み」にある

 星野社長は「ミスが起きても決して叱らないし、その人のせいにしません。間違いの原因は人ではなく、手法や方法にあると考えるようにしています」と、人のせいにしない仕組みづくりに取り組んできた。この考えの基盤となっているのが、イスラエルの物理学者エリヤフ・ゴールドラット博士が提唱したTOC(制約理論)である。製造工程や備品管理の「制約」(ボトルネック)を見極めて取り除くことで、働きやすい職場を実現してきた。「アルバイトさんを戦力とする独自の体制だからこそ、“誰でもできる”ことが前提の環境が必要でした。だから仕組みに目を向けることができたのだと思います」(同)

 アルバイトの不安やミスは「改善の種」として大切にしてきたが、改善が進み大きな“石”はかなり取り除かれた。逆に、新しいメンバーの改善経験の機会が減少していることが新たな課題となっている。「大学生アルバイトさんは入れ替わりがあるからこそ、改善の承継が重要です。新たなアルバイトさんの“困った”に耳を傾けられる土壌を維持しなければなりません」(同)

 星野社長は自身のミッションを「水やり活動」と表現する。「人は誰もが可能性を持っています。チャンスと仕組みがあれば育つ。だから大学生にチャンスを与え、仕組みで育てたい。今は“小学2 年生でも回せる会社”をゴールに、誰もが安心して活躍できる職場を目指しています」と、今後も仕組みを軸に課題解決を追求する意向を示す。

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