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工場管理 連載「闘う!カイゼン戦士」

2025.06.09

自発的な改善提案がモノづくりの質を高める―聖徳ゼロテック

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 プレス金型の設計製造をコア技術に金型の外販、精密プレス部品加工を手がける聖徳ゼロテック(佐賀県佐賀市)。現場からの改善提案を基礎に品質向上、コスト低減、納期短縮など20年以上にわたって展開している。社員、パートやアルバイトが一緒になって身の回りの片付けから治具の改良、生産ラインの見直しなど幅広い内容を「なんでも提案書」としてトップに提出。評価の高い案件には金一封を与えるなどモチベーションの維持にも配慮しながら継続してきた。最近は技術・技能継承の案件も目立ち始め、パート社員が自ら教わった内容をわかりやすく作業標準手順書にまとめるなど現場からの技術の底上げにも活かされている。

金型の開発設計からの一気通貫が持ち味

 聖徳ゼロテックは金型の設計・製造からプレス量産加工まで一貫体制で手がける金属プレス金型・加工企業である。創業からほぼ半世紀、弱電メーカーの端子やコネクタなどの製品を主力とし、最近では電気自動車(EV)の普及や自動車の電動化に合わせて強電向けバスパーなどの需要も拡大している。また、順送プレスとトランスファプレスの長所をあわせ持つ独自の「ハイブリッド金型」を生み出し、歩留りを30%以上向上させるなど技術開発力にも定評がある。

 2022 年8 月には新工場を建設。恒温室を備え、独自の自動化設備や各種の作業工程を見渡せるレイアウトとするなどさらなる品質向上、作業環境の向上に取り組み、新規顧客の獲得にも結びつけている。
デジタル化にも積極的に取り組む。協働型汎用ロボット導入による生産性向上にも着手

デジタル化にも積極的に取り組む。協働型汎用ロボット導入による生産性向上にも着手

2022年8月から稼働する新工場。整理整頓が行き届き、工場内の工程がすべて見渡せるレイアウトとなっている

2022年8月から稼働する新工場。整理整頓が行き届き、工場内の工程がすべて見渡せるレイアウトとなっている

 こうした同社のモノづくりの基礎となっているのが5S(整理・整頓・清掃・清潔、しつけ)活動である。5S を通じた「気づき」の涵養が品質と生産性の向上を促してきた。特に同社が重視しているのが現場からの自発的な提案だ。日頃のちょっとした気づきから生まれるアイデアを仕事に反映していくことで職場環境や仕事のやり方を改善し、その積み重ねが現場力となって現れている。「だいたい年間100 件以上の提案があり、大きな成果を上げている案件も少なくありません。年間の事業計画にも目標提案数を部署ごとに組み込んでありますが、毎年、自発的な提案で目標をクリアしています」と提案制度が社内に根付いていると古賀忠輔社長は強調する。

 同社が本格的な改善活動に乗り出したのは先代の古賀鉄夫取締役相談役の社長時代に遡る。「私が40 歳の頃、5S を始めたのがきっかけです。最初はなかなか定着せず、まず、整理・整頓・清掃の3Sを徹底し、不必要なモノを整理するための赤紙(赤札)貼りなどに取り組んでいました」(古賀相談役)。 提案制度の導入も5S 活動の一環だった。ただ、社内に根付くようになったのはその後に実施したTPS(トヨタ生産方式)による改善活動が引き金となったという。

「20 年ほど前に佐賀県の企業がTPS に取り組むことがあり、当社にも講師が派遣されて指導を受けました。そのときに改善の着眼点などを学んだことがその後の5S 活動が変わるきっかけになりました」(古賀相談役)

TPS から生まれたなんでも提案書

 そこから生まれたのが「なんでも提案書」だった。「それまでの提案活動は堅苦しくとらえられていましたが、『なんでも提案書』という名称に変えて、整理整頓の張り紙や清掃個所の指摘などちょっと気づいたことを書き込んで出せるようにしました。そこから現場の意識が変わってきました」と古賀社長は振り返る。
20年近い実績を持つ「なんでも提案書」。社内のだれもが参加できるのが特徴だ

20年近い実績を持つ「なんでも提案書」。社内のだれもが参加できるのが特徴だ

 提案書は気づいた個所の改善前、改善後を記入して社長に提出する。評価はA ~ F にランク分けされ、最も効果が大きいA 評価には報奨金が支給される。同社の特徴は、提案者は正社員だけでなく、パート社員やアルバイトも含まれる点にある。始まってから15 年以上経過し、中には年間数十件の提案書を提出する人もいるという。

 評価については提案者の経験年数を考慮しつつ、単なる対処法でなく、恒久対策までを含んだ場合など評価レベルは高くなる。古賀社長がすべてにコメントを記入し、最終評価を下す。「評価は私の独断ですが、かなり高めに評価しています。内容は当然大切ですが、提案してくれること自体、うれしいじゃないですか。その姿勢、心意気も含めての評価です」と古賀社長は全員のモチベーションを高めることに重点を置く。

 また、同社が提案制度に加えて、重視しているのが失敗報告書である。「ISO9000 の導入から始めましたが、以前は始末書に近いものでした。これも少しずつ改良を重ね、現在はトラブルが起こる仕組みの解明に目を向けるようにしています。個人の力量も大切ですが、治工具の改良や、プログラムを見直すなどヒューマンエラーを防ぐ工夫が重要。平準化し、誰が担当しても問題を起こさないシステムにすることを狙っています」(同)

 失敗を全社的にとらえることで個人の心理的安全性を高め、萎縮させることなく仕事に取り組めることも大きなメリットとなっている。

作業手順書作成にパート社員も参画

 一方、喫緊の課題としてあげるのが技術・技能継承である。コロナ禍から回復し、事業拡大の機運が出始めているだけにベテランの退職、若手人材の採用難が経営の足かせとなってきた。同社の心臓部である金型製造を担当する生産技術部門の大海孝幸部門長は「数年前から技術者の退職などで工作機械のオペレーションに支障を来すことがあり、技術・技能の伝承の必要性を強く感じていました。そうした背景から当社では昨年から技術の標準化を経営目標として掲げています。私の若い頃は苦労して自分で覚えるのが当たり前でしたが、もうそんな時代じゃありません。標準作業手順書の見直しに着手し、放電加工機やマニシングセンタなど全社で1 年間に30 件を達成、生産技術部門でも12 件を作成しました」
若手や女性の活用がこれからの課題

若手や女性の活用がこれからの課題

 見直しに当たっては手順書の書式を統一し、視覚的にもわかりやすく工夫した。ベテランだけでなく、初心者も手順書づくりに参画している。「昨年入ったパートの女性はフライス盤の操作や焼入れの発注の手順書をつくってくれました。習ったことをメモにとって注意点をうまくまとめており、社員でもなかなかそこまでできません」と大海部門長も高く評価する。たとえばフライス盤で面取りする際、後工程の研磨を意識した取り代の設定など初心者が間違いやすいポイントをすくい上げて記入している。焼入れ発注書でも希望納期の記入忘れや毎回図面を見て材質を確認することなど発注時の注意点を細かく指示し、きめ細かい手順書に仕上がっている。
パートの女性が作成した作業手順書。初心者の視点からベテランが見落としがちなポイントも指摘(画像提供:聖徳ゼロテック)

パートの女性が作成した作業手順書。初心者の視点からベテランが見落としがちなポイントも指摘(画像提供:聖徳ゼロテック)

「作業手順書を使いやすくしたことで、教える側も一度教えたらあとは手順書を見てやってくれるので手間が少なくなりました。逆に教わる方も気を遣いながら聞きに行くことが減って仕事がやりやすくなったようです」(同)と早々に効果も出始めている。また、現場からの手順書作成はなんでも提案書としても採用し、高評価を得ることで作成者のモチベーションアップにもつながっている。

技術教育による人材育成を強化

 2024 年は全社で年間135 件の標準書・作業手順書の作成を目標とし、生産技術部門では50 件を掲げる。生産技術部門の部署ごとにテーマを設定し、設計は設計標準書やCAD の取扱い手順、組付・測定では順送金型組付手順、測定器操作手順・測定手順、事務では書類作成手順などに着手する。

 また、24 年は技能・技術継承として高度ポリテクセンターの能力開発セミナーも活用していく。「今年からは現場の基本となる社内用の技術資料の作成にもとりかかります。すでに放電加工機で少し手がけていますが、ほかの工作機械についても進めていきます。また、金型についての新人向けの教育資料が必要と感じています。たとえば順送金型の基本的な資料を来年には完成する予定で、今年はその土台づくりに取り組みます」(同)

 技術・技能を基礎とした人材育成を核に一段上のモノづくりを目指していく。

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