日信サービスは物流業務を中心に、運送・梱包・倉庫業のほか、ガソリンスタンドの運営や二輪車部品の販売も手掛けている。神の倉事業所は同社の物流事業の中核を担い、精密部品から大型設備まで幅広い貨物を扱う。集荷から梱包、保管、輸送までを一貫して行い、単なる物流業ではなく「サービス業」としての価値を重視し、顧客のニーズに応じた最適な物流マネジメントを提案。顧客や社会との「つながり」を大切にし、「驚き」や「感動」を提供できる企業を目指す。5SやVM(目で見る管理)の「見える化運動」、ISO9001取得により効率改善や体質強化を図り、工場見学を通じて“魅せる企業”として新規顧客の獲得にも挑む。
見える化運動の第2 ステージで大変革期へ立ち向かう
日信サービスは本田技研工業の部品サプライヤーである日信工業の運輸課から独立し、1983 年に創設された。創業当初から日信工業から安定的に輸送や保管業務を受注しながら、設備荷役などの新たな事業を展開し、順調に業績を伸ばしてきた。しかし、日信工業が自動車サプライヤー数社と合併し、新会社の日立Astemo となったことで企業体制や経営環境が大きく変化した。それまで以上に効率改善や体質強化の必要性が高まり、神の倉事業所では5S やVMを軸とした「見える化運動」を推進し、新たなステージへと進化を遂げた。
2009 年4 月、中部産業連盟の支援を受けて、見える化運動をスタート。業務部門の運行、梱包、設備荷役の各グループと間接部門の従業員約70 人の全員参加。改善と業務を切り離さないよう、職制ごとに活動グループを組織し推進してきた。
長年にわたる活動だが、経営層の入れ替わり、意識の希薄化、コロナ禍の影響などで一時的に停滞した時期もあった。しかし、物流2024 年問題、働き方改革、競争激化といった外部環境の変化、また主要取引先の受注確保と新規顧客の獲得といった課題に対し、改めて活動を強化する必要に迫られた。この大変革期に立ち向うため、神の倉事業所では、5S の徹底、VMの定着、ISO9001 の取得を目標に掲げ、新たな見える化運動として第2ステージに突入した。
徹底した5S で“魅せる企業”へ
マンネリ化から脱却するため、5S 活動では、まず管理職が率先垂範する体制を整え、5S 委員会の組織を見直し、イチからやり直した。月2 回の5S委員会で情報共有と課題確認を行い、継続的な改善を促進している。各作業場には5S 管理ボードを設置し、毎週金曜日の終業前に30 分間の「5S の時間」を設けるなど、日常業務に取り入れた。宮下直也代表取締役社長は「“どんなに忙しくても5Sの時間はみんなでやりましょう”と伝えています。つい目先の仕事を優先しがちになりますが、手を止めて5S に集中してもらいます」と語る。
さらに5S マニュアルの見直しと刷新、朝礼などを利用した周知方法の改善も実施し、5S 活動の標準化と定着を図っている。5S 委員会の委員長でもある木内純営業本部部長は「月1 回のパトロールの際、月次計画表をチェックし、その場で注意点や改善点などを指摘して書き込み、それを5S の時間で改善する、とすべての動作がつながる仕組みを実施しています。それをマニュアルに落とし込みたいと見直し中です」と特に運用面での改善を重視している。
5S の徹底により、営業部門も顧客を積極的に倉庫へ案内できるようになり、機能的な工具収納スペースや貨物のかんばん管理を見てもらうことで、安心と信頼を提供でき、新規案件の獲得にもつなげている。
平置きにしていた工具を立体収納でコンパクトかつ見やすく整理
VM強化によるコミュニケーションの復活と品質管理の向上
以前は日信工業一社への依存度が高かったが、より多くの顧客の獲得のために、業務の質をさらに高める必要があった。そこで作業の進捗や問題点を可視化し、誰もが情報を共有できる環境を整えるため、5S と並行してVMも強化した。
「VMボードが掲示板と化していました。また目標管理表などは別の部屋に貼られ、現場は何が目的か、何を目標に取り組んでいるのかわからない状況」(木内部長)。そこで、新設された設備荷役グループの新メンバーらがモデルとなり、率先してVMボードの改善に取り組んだ。
各エリアに大きなVMボードを設置し、工程ごとの進捗、不良・トラブルの発生状況などをリアルタイムで確認できるようにした。朝礼もVMボードの前で行い、その日の目標や課題を共有する仕組みを確立。異常・工程不良記入表や課題管理表を活用し、トラブルが発生した際にはその場で書き込み、迅速に対応できる体制を整えた。これにより不具合が減り、トラブルの未然予防もできるようになった。
左側に業務管理(作業計画、異常・工程不良記入表など)、右側に5S管理(月次計画表、カメラパトロール実施報告書、5Sチェックシートなど)を並べたVMボード
若手の1 人である業務部業務課設備荷役グループの小池辰哉リーダーは「VM強化により各エリアの意識が変わりました。VMボード前での会話や決定が増え、コミュニケーションが活性化し、モチベーションも向上。自分たちで考えた計画だからこそ責任感が生まれ、他エリアを支援する協力体制も築かれました」と話す。VM強化により、自発的に課題解決に取り組む姿勢が定着し、従業員同士の連携も強化。結果として、クレームや不具合が減少し、信頼性の向上につながっている。
また業務部業務管理課の市川雄太課長は「5S やVMを通じて若手に成長してもらいたい。細かいことに気づく心を養い、それが業務品質の向上、信頼の獲得、新規顧客の獲得につながります。変化し続ける時代において、自ら気づける人材が求められ、それを育成することが、5S やVMの狙いでもあります」と人材育成の側面を強調した。
荷役作業場の様子。仕分け場や梱包場のほか、木箱などは木くずが広がらないよう屋外スペースで製作している
ISO の実用的な運用、工場見学への積極的な取組み
ISO 認証の有無が事業に影響することから、神の倉事業所は2024 年5 月、ISO9001 を取得した。これは顧客からの要望に応えるだけでなく、品質管理のさらなる向上が目的でもある。
ISO の導入に当たっては、単なる形だけの認証ではなく、業務プロセスの改善に直結するような運用を目指した。5S マニュアルをISO の枠組みの中に統合し、またVMボードの活用で品質目標の共有や管理を徹底した。「ISO と改善活動を分けてしまうと、どちらもうまくいきません。もともと実施していたVMの中での品質改善活動を、ISOでさらに客観的に評価し、証明・補完する形で進めていくことが重要だと考えています」(宮下社長)と、品質改善活動とISO を一体化させることで、実用的な管理体制を構築する。
見える化運動やISO 取得への取組みの結果、2023 年度から24 年度にかけて労災ゼロを達成し、不具合率も大幅に改善された。従業員の意識向上だけでなく、安全性や業務の質の向上にもつながったのである。
一方、工場見学の実施も重要な取組みの1 つである。23 年、5S 活動の次世代リーダー育成を目的に若手中堅社員数人を選抜し、他社の工場見学会に参加した。さらに、翌年に自社の工場見学会を開催し、5S やVMの取組みを披露した。「若いメンバーを工場見学へ連れて行ったことで彼らの意識が変わりました。また自社の見学会では、人から見られる緊張感、顧客からほめてもらえたことが従業員のモチベーション向上につながっています」(宮下社長)。最近では個別見学の申し入れも増え(月1 社以上)、そこから新規顧客の獲得につなげるなど、“魅せる企業”としてのブランディングを強化することで、競争力を高めている。
当面の課題は、5S やVM、ISO の運用のさらなる強化、習慣化・定着化で、工場見学も積極的に実施してゆく予定だ。現場の温度差をなくし、従業員全員が同じ意識を持って取り組むことで、さらなる成長を目指す。一連の取組みで企業の競争力を向上させてきた神の倉事業所は、今後も継続的な改善活動を行い、“魅せる企業”としての発展を続けていくだろう。
仕分け先ごとの作業指示書にしたがって梱包作業を行う