九州発の米麦合わせみその元祖であるサクラみそ食品は、地域に根差した食品メーカーとして創業112年を迎える。約8割が合わせみそという九州のみそ市場に軸足を置き、独自の「合わせ麹製法」による米麦合わせみそをはじめ、各種みその製造・販売を行ってきた。その後は、インスタントカップ麺向けの乾燥天ぷら、塩こうじ・甘酒といったこうじ製品の製造にも着手。高い開発力と直販力を強みに、時代のニーズをとらえて、着実に事業を拡大してきた。近年では、人手不足や高齢化などの課題に直面しており、生産性の向上や不良率の低減、作業環境の改善に取り組むとともに、新製品の開発や販路の開拓といった挑戦も続ける。
生産現場の課題解決へ本格的に改善に着手
サクラみそ食品の原点である米麦合わせみそは、製麹(せいきく)段階で米と麦を同時に仕込む独自の「合わせ麹製法」が特徴である。1913 年の創業時に開発され、主力商品となった。81 年、久留米工業団地にみそ製造の新工場を建設。92 年には同敷地内に油加工工場を新設し、みそとは異なる方向性のインスタントカップ麺向け乾燥天ぷらの製造に着手した。「インスタント食品に着目した先代の父の先見性が大きい」と三代目の野田豊國代表取締役社長が語るように、大手有名カップ麺メーカーをはじめ、うどん・そばの具材として大手スーパーや外食チェーンに供給し、現在では九州地区で7 ~ 8 割のシェアを誇る。みそと天ぷらの“2本柱”で成長を遂げ、特に乾燥天ぷらは同社売上の6 割を占めるほどに成長した。
同社では10 年以上前から5S 活動や生産性向上に継続的に取り組んできた。近年、てんぷら部門の人手不足やみそ部門の作業環境といった課題を受け、4 年前より油加工工場およびみそ工場で本格的な現場改善を開始した。コンサルタントが現場に入ってともに作業する「伴走型」の改善スタイルを導入したことで、現場の理解と納得が進み、改善活動は加速。開発部の緒方健一課長は、「以前は、会議室でコンサルと議論を重ねながら改善を進める方式だったので、なかなか実践が伴わず、進展が見えにくかった」と振り返る。
5S 活動では、生産・開発・品質保証・営業など多部門から構成される5S 委員会が主導し、ルール策定や定期チェックを実施して日常の5S を維持。ごみの分別や再利用も徹底し、廃棄物は5 年前と比べ、約3 分の1 まで削減できた。さらに、昨年は週2 日・各1 時間を5S 活動に充て、大型機械の整理にも着手。5 年以上稼働していない大型フライヤーを廃棄し、省スペース化を図れた。
人手不足と繁忙期を乗り切る生産性向上と体制強化
天ぷら部門の油加工工場では、乾燥天ぷらを1日10 ~ 15 万食生産している。特に冬場は夏場の約2.5 倍の需要があり、人手不足が深刻な課題となっている。そのため、生産性向上を最重要課題に掲げ、作業工程の見直しや適正な人員配置、作業スピードの検証と改善を繰り返し実施してきた。
天かすの包装工程では、袋詰め・シール貼り・箱詰めを従来のまとめ作業から1 箱流し方式に変更したことで、作業時間を短縮できた。つくり置き用のケースも不要となり、5S 活動も進展。生産部の黒田勝之課長は「作業改善から着手すれば、不要物を片づける流れが自然と生まれ、維持しやすい5S につながります」と、実践的な5S の取組みは定着性が高いという。
また、乾燥天ぷらのフライヤーラインでは、従来4 人で1 時間7,500 枚生産していたところ、人員活用の見直しにより、3 人体制でも生産可能となった。さらに改善を重ね、4 人体制の稼働では9,000 枚を生産できるように。人員や生産量に応じて柔軟に対応できる体制を構築し、生産性が向上した。コロナ禍でベトナムからの作業者の入国が遅れた際も、省人化と柔軟な体制のおかげで乗り切ることができた。
従来4人体制で稼働していたフライヤーラインを3人でも対応可能にした。現在はほかのラインもその日の人員数や目標生産数に合わせて稼働できるように
一方、不良率も課題であった。天ぷらが丸くならないなどの形状不良により、不良率が10%に達することも。7 年前に成型機を導入し、今では2 ~3%に抑えられている。しかし、自動化だけでは不良は解消しきれず、機械による油面調整などは作業者の経験に依存し、不良率に影響する。「自動化は作業量を減らすだけ。不良をなくすには調整方法の見直しと作業のコツの習得が不可欠です」(黒田課長)。さらに、生産性を上げると不良率も上がるというジレンマがある。「たとえば、油価格の高騰への対策としては油を劣化させないことが最も有効です。そのために生産速度を上げ、油の循環を促して酸化を抑えようとすると、不良率が上がってしまうというリスクが伴います」(同)。生産性と不良率のバランスも悩みの種である。
成形板に衣液を落とし円形に整える乾燥天ぷらの製造工程
高齢化が進む現場 作業負担軽減と技術伝承が急務
みそ工場では、2 人で1 日8 ~ 10t のみそを製造している。みそ樽を抱える作業は身体への負担が大きく、作業環境の改善が喫緊の課題であった。業務用みその重量は5kg から最大40kg まであり、特に40kg の樽を1 日120 樽(計4.8t)運ぶ作業はかなりの重労働である。300 万円ほどかかる設備導入も検討したが、まずは作業現場のレイアウト変更を試みた。2S(整理・整頓)を徹底して確保したスペースにローラーコンベアを設置し、みそ樽をパレット近くまで搬送するようにレイアウトを変更した。作業負担は大幅に軽減し、男性限定だった作業に女性も従事できるようになった。
半自動化したみそ充填作業(充填・計量・樽詰め)とみそ樽 (写真提供:サクラみそ食品)
また、1 年早く工程改善に着手していた天ぷら部門に倣い、作業工程を見直した結果、4 人で分業していたみその充填作業は3 人で対応可能となり、みそすり工程や甘酒の充填工程もレイアウト変更と工程改善で省人化を実現した。60 ~ 70 代の超ベテランのパートが多く、長年の経験から築かれたやり方が強く根づいていたため、改善には一定の抵抗もあったが、活動を通じて理解が深まり、今では壁はないという。「近い将来、パートの方々が高齢化して退職されてしまうので、少人数でも回せる体制づくりが急務です」(緒方課長)
発酵食品であるみそは特に品質管理が重要で、同社では1999 年にHACCP を導入(みそ工場は2016 年に認定取得)。HACCP に沿った衛生管理の下、各工程で吸水具合や蒸し加減、こうじの出来などを細かくチェックし、熟成期間を調整するなどして品質を保っている。ほとんどの製造工程で自動化が進んでおり、水分量や豆の硬さなどを数値化し、色味もカラーコンピュータで測定する。こうした高度なデータ管理の実現には、天ぷら部門での大手メーカーとの取引における厳格な品質管理の経験が活かされている。
ただし、こうじづくりだけは自動化が困難で、2日間かけて手作業で仕上げる。その熟練した技術は属人性が高く、指導側の負担も大きいため、技術伝承も今後の課題の1 つだ。この道20 年の緒方課長も「まだまだです。技術の習得にゴールがあるのかもわかりません」と語る。同社は(一社)中央味噌研究所主催の全国味噌鑑評会にて、21 回の受賞歴と2 年連続入賞の実績を持つ。「連続入賞の継続と最高賞である農林水産大臣賞を目指しています。そのためにはさらなる品質向上と清掃・メンテナンスの徹底が求められます」(野田社長)
「円盤回転製麹装置」と念入りに機械洗浄・清掃を行う作業員 (写真提供:サクラみそ食品)
伝統を守り、時代に応えるという挑戦
みそ業界はここ10 ~ 20 年で出荷量が右肩下がり、乾燥天ぷらも大手麺メーカーによる内製化が進んでいる。そのような中、野田社長は従業員に対し、「新しいことを常にやってゆこう」と挑戦する姿勢を求めてきた。その代表的な取組みが、緒方課長が開発した「食べる甘酒」である。
2010 年頃の塩こうじブームに乗り、同社もこうじ製品の製造・販売を開始。その後に大手が甘酒を売り出すと、同社は砂糖無添加の米こうじ100%「全糀 甘酒」で差別化を図った。さらに、「もっと手軽に甘酒を摂取できないか」という社長のひと言から「食べる甘酒プロジェクト」が始動。九州大学や生物食品研究所と連携し、約1 年かけて製品化に成功した。現在では、大手ブランドへOEM 供給するなど、みそ・天ぷらに次ぐ“第3 の柱”として成長中である。
野田社長は「新しい製品を開発し、新しい販売チャネルへ供給することが今後の成長には不可欠です。長年の大手企業との取引で培った衛生・品質管理体制が当社の強みです」と語る。伝統を守りながら挑戦し続ける姿勢こそ、サクラみそ食品の成長を支える原動力である。