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工場管理 連載「闘う!カイゼン戦士」

2025.12.22

5Sを徹底し、手づくり精密板金で顧客満足度を追求する―カワイ

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 精密板金を駆使して製品試作から中ロットの量産までを手掛けるカワイ(川崎市高津区)は、5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)活動の継続で、顧客ニーズに応えるモノづくりを展開している。長年にわたって蓄積してきた「手づくり精密板金」のノウハウを活かした卓越した加工技術に加え、整理・整頓が行き届いた作業環境が生産性、品質の向上に大きく寄与。さらに独自の生産管理システムによって常時、200~300点もの図面を抱えながら柔軟な生産体制を整え、試作の短納期化にも自信を持つ。製品の電子化が進むなど顧客からの要望も変化する中、改善への取組みと市場ニーズへの機敏な対応で新たな需要掘り起こしを図る。

板金試作に強み

 カワイの創業は1972 年。二代目の河井淳一社長の実父である河井富雄氏が家電やオーディオなどの製品試作に着目し、音響設備など大手メーカーからの試作板金を手掛けたのが始まりである。試作は設計段階でメーカーの図面をもとに製品や部品をイメージどおりに製作していく開発に欠かせない工程である。創業当初は5 人の小世帯ながら車のダッシュボードに搭載されるCD やMD プレーヤーなどの外装品の精密板金試作などを製作し、品質と短納期での対応が評価され着実に顧客を増やしていった。

 同社の強みは3 次元データからの展開力と複雑な形状の試作品を手づくり感覚で仕上げていく技術力にある。顧客からの要求に対して製造現場の視点から図面を展開し、プレス機械、ベンダーマシン、レーザ加工機などを駆使して絞り、曲げ、穴開けなどさまざまな形状や寸法に対応している。最新の機械だけでなく、通称ケトバシと呼ばれるフットプレスなど古い機械も使いこなし、職人技による一品一品きめ細かいモノづくりが特徴だ。
40台近いケトバシ(フットプレス)が並ぶ現場。数台使うことで長尺物の加工にも適応できる

40台近いケトバシ(フットプレス)が並ぶ現場。数台使うことで長尺物の加工にも適応できる

 現在は光学機器、OA 機器、家電、エレクトロニクスなどの大手メーカーを中心に常時50~60 社の顧客を持つ。河井社長は「最近は製品の電子化の流れでメカニカルな部品が少なくなり、試作レスの動きも出てきました。それだけに当社の持ち味を活かした手づくり精密板金による短納期への取組みはさらに重要になってきています」と顧客ニーズの変化に対応したモノづくりに自信を示す。
手づくり精密板金の技を活かした製品例

手づくり精密板金の技を活かした製品例

5S 活動を通じた意識改革に着手

 同社が5S 活動に本格的に取り組み始めたのは現在の本社工場が完成した2006 年頃からである。05年に先代から引き継いだ河井社長は大手の取引先からの工場監査を受け、ISO の取得を勧められていた。「ISO は結局、当社に合わないと判断し、取得には至りませんでしたが、同時にお客様から5Sの指導を受けたことが改善活動を始めるきっかけとなりました」(同)

 顧客からの指導で、5S の基本を教えられながら作業手順書の作成などを進めていった。「いきなり引き出しを開けられ『これは必要なものか』など聞かれ、びっくりしたのを覚えています」(向野康之取締役統括管理部長)と最初は戸惑いもあったという。とはいえ、試作、量産の仕事などさまざまな仕事を受け、短納期を実現していくには生産性を上げるための仕組みづくりが必要であり、その一歩としての5S 活動は不可欠だと判断した。社内に5S 委員会を発足させ、まずは河井社長が率先して整理・整頓から取り組み始めた。「特に3定管理(定位置、定品、定量)に力を入れ、工具や備品などを決められた位置に戻すことを習慣づけることから着手しました」(河井社長)
自作の整理棚。定置が習慣化

自作の整理棚。定置が習慣化

 当時は職人気質の従業員が多い現場では自分が仕事をやりやすいように工具や測定器をまわりに置いており、「当たり前のことが当たり前にできていなかった」(河井社長)状況だったという。

 工具が必要になると探し回るといったムダも多数発生していた。このため「置き場、置き方、表示」の定置の徹底を狙いに、自分たちで工具棚を製作し、置き方を定め、表示板によって置き場所を明確にするなどの取組みを実施。少しずつ使った工具や備品を元に戻すことが「当たり前」として浸透していった。

「また、ちょうど本社工場に移転したところだったので、1 階を作業場、2 階を事務所や応接、休憩室など働く場所と寛ぐスペースを分け、作業場以外にはカーペットを敷くなどゾーニングも行いました。板金工場というと油っぽいイメージなのでそれを変える意識もありました」(同)

 清掃は屋内が就業前と終業後、屋外が週1 回実施しており、建設から20 年近く経た今でも一般的な板金工場では見られないほど整理整頓が行き届いている。
整理整頓された工場内。作業場と通路がラインで分けられ、障害物は置かない

整理整頓された工場内。作業場と通路がラインで分けられ、障害物は置かない

 現在、5S 活動を統括する近藤恵司取締役工場長は「当社は月に約1,000 点の品物を手掛けていて、毎日40~50 点を出荷している状況です。材料や工具、金型などがきちんと管理できていないととても対応できません。作業現場でも前工程と後工程を表示板で明記し、誰でも一目で工程がわかるように『見える化』しています。納期に合わせて途中で作業者が入れ替われるための工夫で、こうした取組みを可能にしているのが普段の5S 活動の成果だと思っています」と5S が生産性アップに結びついていると確信する。

独自の生産管理ソフトで納期管理を徹底

 5S 活動を推進する一方で、着手したのが生産管理システムの構築だった。現場では4~5 日分の仕事が流れているため常に200~300 枚の図面を抱えている。それを納期ごとに生産計画を立てて、こなしている。「ただ、試作板金は1~2 週間先の仕事を回していくため、どうしても特急仕事が多くなります。あらかじめ余裕を持った計画を立てても間に新規受注が入ると残業で対応するしかありませんでした」(河井社長)

 同社では営業、製造の両部門で余裕を持たせた独自の生産計画を導入していたため、市販のソフトに採用できる製品がなかった。システム会社に相談したところ専用のシステムを構築できることがわかり即座に依頼した。

「たとえばコピー機の場合、板金部品は約1,200パーツあり、それを営業が入力し、納期をまとめた中で工程の一覧が出てくるシステムです。営業、製造部門がそれぞれの納期を設定し、その中で特急品が入った場合の工程変更などきめ細かく管理できます。導入以来、仕事の流れが把握しやすくなり、円滑に納期調整をできるようになりました」(同)

 最近の働き方改革で残業もできるだけなくす方向で進めている。最長1 日2 時間以内の残業でこなせる仕事量を目安にして生産計画を仕事の進め方も含めて常に現場改善に取り組んでいるという。

技能・技術継承が課題

 同社の今後の課題として挙げられるのが技能継承である。試作は図面や3 次元データから設計者のイメージを忠実に再現することが求められる。複雑な形状や加工が難しい素材などへの要望も少なくない。3 次元モデルからの2 次元図面の展開や各種工作機械の扱い、多種多様な加工条件や寸法に対応するための工具や治具の扱いなど幅広い知識と経験が必要となる。
手づくり精密板金の技の伝承が課題

手づくり精密板金の技の伝承が課題

「30~40 代の中堅世代が薄く、技能伝承の必要性を感じています。精密板金といっても若い人にはイメージがわきにくく、興味を持ってもらえません。最近はレーザ加工、穴開け、検査といった具体的な作業を明記して募集をかけています。今春は高校の新卒が1 人内定しています。今後も積極的に募集をかけ、ベテランの技を伝えていけるようにしていきます」(同)

 市場環境が大きく変化する中、手づくり精密板金の強みを活かせる人づくりが急がれる。

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