おがた あきこ:薫事長、OISHIエンジニアリング㈱代表取締役 神奈川県川崎市出身。留学経験後、日本と海外の文化や交流に興味をもち、旅行専門卸業勤務を経て、中小企業向け業務システム会社を立ち上げ。中国浙江省・杭州市にて業務経験ゼロから金型メーカーを事業承継。日本では金型商社事業と工業・農業系地方創生・海外ビジネス交流事業も手がける。
2021 年に中国金型工業協会が発表した「金型業界“ 十四五” 発展要綱」で、「中国の金型産業は国の大きな支持が必要な重点産業である」と明文化されました。これを受け、地域によって多少の違いはあるものの、成長を加速させる体力がない中小金型企業向けにさまざまな支援策が打ち出されています。また、産学連携も奨励しており、業界再編成が急ピッチで進むことが予想されています。
5 人で始めた金型事業
江蘇省は、中国でも広東省、浙江省と並んで金型生産地として有名です。外資系大企業の進出が多く、グローバル企業の理念や管理体制など、海外の影響を強く受けたエリアです。
江蘇省昆山市にある昆山精创模具有限公司(以下、昆山精創)は、2003 年に5 人で金型事業をスタートしました。精密金型部品の製作を中心にサービス展開をし、数年で金型設計・製作、成形など、またたく間に事業を拡大していきました。その発展を支えたのは海外ブランドの精密加工設備や高精度検査機器。自らの加工水準や技術レベルを上げるべく、積極的に設備投資を行うことでローカル企業との差別化を図り、外資企業とのコスト競争力がある企業としての基礎をつくり上げてきました。技術と品質が安定したのち、人員増加や工場拡大を進めると同時に、海外からの注文も積極的に受注。海外からの注文も堅調な足取りで伸び、今では欧米や日本を含むアジアなど30 カ国以上へ輸出し、順調に事業を拡大しています。
高品質路線を支えるもの
2010 年代から地元企業の台頭によりますます競争が激化し、多くの企業が倒産または規模縮小する中、昆山精創は積極的に海外ブランドの最新精密加工機を導入し、安定した品質を提供し続ける「高品質路線」で発展を続けます。
安定した品質を保ちつつ、生産効率の向上を実現するには研鑽と時間、大きなチャレンジが伴います。彼らは一般的には加工設備1 種から着手する自動化においても、大胆かつひたむきに取り組みます。マシニングセンタ2 台、放電加工機4 台(ともに牧野フライス製作所製)、Hexagon 社製の3 次元自動測定機に加えて電極ステーションや洗浄ステーションなども組み込んだ、複雑な自動加工統合ラインを一気につくり上げました(図1)。
自動化ラインのスピード導入に成功したのは、加工機メーカーとの密な協力関係や、スマート製造プラットフォームを提供する新進企業との積極的な交流に加え、より少ない作業者で「逸品」と呼ばれるような金型づくりを目指すひたむきな姿勢など、多方面で高く評価されているからこそだと思います。設計・製作・検査などの自動化は現在も積極的に行われ、技術の標準化・効率アップに余念がありません。
また、専門学校と提携し、最新設備を提供したり活きた技術を学ぶカリキュラムに参画したりしています。金型業界を知らない学生らに魅力を伝えるとともに、現実的な就業の問題を解決する場所も提供することで、人材育成を通じて社会に貢献する仕組みをつくり出しています。社員の7 割以上が技術職で、そのうちの8割近くが5 年以上勤務者、平均年齢40 歳未満という社員構成も、高品質路線・安定品質を支える大きな要因でしょう。
着実な歩みと企業文化、「らしくない」金型企業
昆山精創の高艾恩副総経理(図2)は、当社の顧客や協力会社との会話の中でも「ああ、昆山精創の高さんね!」と名前が挙がるほど知名度抜群な方です。製造現場からスタートした叩き上げの彼は、「昆山精創を自分の会社のように思っている」と言います。業績を意識し会社の発展を考え、わが子の成長を楽しんでいるかのような彼からは、最近あまり耳にしなくなった愛社精神に似たものを感じます。「外向きではないし、技術を追求する方が好きだ」とは言うものの、技術者というよりは企業の経営者としての凛とした雰囲気を感じます。業界や国籍を問わず広く高くアンテナを張り、フットワーク軽く情報収集する姿勢や、しっかりと経営の数字を把握し収集した情報との整合性を図る堅実な一面を見せるときもあれば、評判の良さを象徴する物腰の柔らかさもある彼から、いつも大きな刺激をもらっています。
中国の金型企業を見学すると、最新設備の多さや企業規模などに圧倒されることがしばしばありますが、どの企業も同じようなスローガンや理念を掲げていて、その企業の「顔」が見えず、結局良い関係が築けないことも多々ありました。その中で昆山精創は、それまで出会った中国の金型企業とは違ったイメージを与えてくれました。サービスや技術に定評があるだけでなく、綿密な企業戦略が企業文化として根づいており、高副総経理のようなロールモデルもいる尖った金型企業でした。機能性と安全性、柔軟な変更を可能とするムダのない工場からは、揺るぎない自信と、そこからくる余裕すら感じ、初めて訪問したときからすっかり魅了されています(図3)。
品質や技術、最新設備などを前面に打ち出す金型企業が多い中で、顧客や市場をていねいに観察してイノベーション力を高め、ブランディングを行うという当たり前の企業設計を長年にわたり着実に実践している数少ない金型企業だと思います。
表面的なものだけではなく、企業文化が定着している一体感と、顧客のニーズや市場など、環境の変化を敏感にキャッチしながら柔軟に適応できるしなやかさは、これからブランド化やさらなるグローバル展開を加速させる金型企業にとって大きな武器となることでしょう。「もしかすると、 新時代の金型企業の佇まいを提唱してくれる企業になるかも」と期待しています。
■ 取材協力
昆山精创模具有限公司 江苏省昆山市巴城镇石牌塔基路1518 号
TEL:+86-186623550881 E-mail:jcsyb@ksjingchuang.cn