和菓子やスイーツの材料となる各種あんの製造・販売を手掛けるナニワ。「聞いたことはないけれど、食べたことはある会社」をスローガンに掲げ、OEM製造や自社ブランドの製造を行っている。伝統のあんにこだわる一方で、ジャム・クリームなど新商品の開発にも挑戦し、従来の枠にとらわれない新たな分野への挑戦を進めている。原料の保管から製品の完成まで一貫した品質管理が行われている一方で、業務負担の増大による離職リスクや厳格化する食品安全規格へのリソース確保が課題となっていた。そこで3年ほど前から、現場の改善活動やDX導入に取り組むと同時に、それを受け入れる「傾聴」の土壌づくりにも力を入れてきた。
業務負担の増大と食品安全規格の厳格化
つぶあんやこしあん・かのこ豆などの製造や販売を手掛けるナニワは、大阪で創業し、暖簾分けして1954 年に名古屋市西区で製あんを開始。79 年に現拠点の愛知県みよし市へ移転した。「安全で安心、喜んで貰えるあん造り」を理念に、製あん一筋で事業を展開してきた。当初はこしあんの原料である「生あん」を生産していたが、日持ちが短く販路拡大に限界があった。そこで砂糖を加え加熱殺菌した「加糖あん」を製造し、和菓子だけでなくスイーツや惣菜向けにも全国展開している。
一方で、工場や倉庫の増設に伴い作業導線が複雑化し、生産性が上がらず現場の負担が増大し、離職につながるリスクもあった。また社会情勢の変化により食品安全への要求も厳しくなり、規格を満たす安全な製品を届ける責務も強まってきた。同社は2012 年、あん業界で初めてFSSC22000 認証(食品安全システム)を取得し、体制強化に努めてきた。
これらの課題を受けて、28 年前より徹底してきた5S 活動をベースに改善活動を強化。11 グループによる小集団活動を行い、月1 回の「安全衛生委員会」(5S リーダー会議)で取組みや課題を共有。特にアレルゲンや金属異物など食品安全に直結する問題を重点的に扱い、ヒヤリハット事例の共有と確認を重視している。また小集団活動を基盤にさまざまな改善活動を展開している。
ナニワの自社ブランド製品とマスコット(写真提供:ナニワ)
「改善アシスト」と「品管アシスト」の両輪で困りごとを解決
製造現場では膨大な帳票や承認作業、煩雑な管理業務に追われ、現場改善や効率化に十分な時間を割けない状況が続いていた。製造部・品質保証部を経てきた杉本健児工場長は「製造課長の頃は、なぜこれほど記録が必要なのか疑問でした。しかし品質保証部に異動すると、それらすべてが食品安全や規格遵守に直結する重要な情報だと実感しました」と振り返る。そして、「製造」と「品質」の2 つの歯車が機能している半面、かみ合いすぎて動きが重いことも課題だったという。「歯車がぎちぎちにかみ合い“遊び”がなく動けずにいた。時間やゆとりという“遊び”が必要だと感じました」(杉本工場長)
品質を守りつつ、現場の機動力を最大限に発揮できる仕組みづくりが肝要だとし、3 年前に製造部に「改善アシスト」と「品管アシスト」という役割を新設。両者が業務を集約・整理して潤滑に回すことで現場の負担を軽減し、時間とゆとりを生み出す体制を整えた。これにより、発想力や改善力を引き出す余地が生まれたのである。
改善アシストには入社9 年目、5S リーダーの経験がある渡部紗妃氏を抜擢。技能実習生とのコミュニケーションや人のとりまとめに秀でた点が評価された。「現場の困りごとを回収する」役割を担い、タクトタイム計測や改善課題の集約を進めている。品管アシストを務めている入社10 年目の鈴木紋加氏は、品証担当の顧客への対応で発揮した能力が評価され、任命された。現場経験を活かした調査力や入り込み力を強みに、手順のルール化や作業根拠の検証などを行っている。
「適材適所」で配置した若手リーダーにより現場がスムーズに回り始め、業務はスリム化。削減された時間・コストは品質強化へ還元されている。将来的には部門化を視野に入れており、人材適性の見極めや外部採用の幅も広がることで、組織の進化が期待される。
デジタル帳票を契機にDX への取組み強化
他業界に比べてDX 化が遅れている食品業界だが、同社もまた膨大かつ過剰な帳票類に頭を悩ませていた。記録や承認に多大な時間を要する一方、日報でアラートが検知できないなど、本来の目的を十分に果たせていない課題を抱えていた。こうした状況下、電子帳票システム「カミナシ」と出会い、2023 年に本格運用を開始した。
導入と定着に向け、製造部の加藤雄輝製品課長を中心に、渡部氏、高宮涼佳氏、品質保証部兼システム担当の丹羽祥文係長、杉本工場長の5 人で構成される「カミナシサミット」を設置し、電子帳票の作成・運用を検討した。現場の要望は高宮氏が収集し、渡部氏が「カミナシレポート」に反映する形で、現場主導の改善が進んだ。
まずはパウチグループへの導入から開始。同グループ出身の渡部氏が先頭に立つことで、何をデジタル化すべきかがイメージしやすく、現場の抵抗感も最小限に抑えられた。これをモデルとし、月1 回1 グループのペースで展開。1 年かけて全11グループへ水平展開した。タブレット操作に不慣れな年配社員の多いグループへは、先行導入グループの利用状況を示したうえで最後に導入することで、混乱なく定着を実現した。
タブレットであんの色味・硬さをチェック(写真提供:ナニワ)
成果は数値にも現れた。生あんの入出庫管理の活用事例では、数量誤差や棚卸負荷といった課題をQR コードによる管理で解決した。毎日3 人で180 分かかっていた棚卸作業が、1 人で30 ~ 60 分に短縮され、作業負担の軽減と精度向上を両立。賞味期限・出荷可能期日のアラートによる品質強化にもつながった。1 日当たり120 分、年間3 万分の時間削減に成功し、180 万円の改善効果と試算され、カミナシ主催の「現場DX アワード2024」で最優秀賞を受賞した。さらに現在トライアル中の「カミナシ設備保全」では、2 グループで年間35 万円の労務費削減が見込まれる。
これを契機に同社のDX は第2 フェーズへ進展。動画マニュアル、フローダイアグラム、手順書、勤怠管理など8 種類のDX ツールを活用中だ。基幹システムも刷新中で、今年10 月には本格稼働予定。従来Excel 管理だったモノの流れを可視化できるのが最大の改善点だという。「カミナシサミットで得た知見とノウハウが、新システムにも活かされています」(丹羽係長)。
ストック(在庫)+ログ(記録)の略称で「ストログ」とよばれる持ち出し記録表
改善活動の下地となる「傾聴」文化を育む
さまざまな改善を比較的スムーズに推進できた背景には、改善活動と並行して進めているメンタルサポートがある。業務負荷を軽減する改善であっても、「それを受け入れる土壌がなければ進められません」と、杉本工場長は自身の現場時代にあった否定や抵抗の習慣を変えたいとずっと願っていたという。
そこで導入したのが、年齢や職歴を問わず受講できるオンラインセミナーだ。「話を聴く」「否定しない」という傾聴を前提とし、自由に時間やテーマを選んで受講できる。この傾聴の学びにより、現場では「耳を傾け、否定せず受け止める」姿勢が浸透。改善提案が入口で拒否されることがなくなり、リーダー層を中心に傾聴の文化が定着した。品質管理のようにリスク評価で意見の対立が生じやすい場面でも、建設的に議論を進められる土壌が生まれている。
セミナーは外部サブスク型で受け放題。ショート動画による予習・復習機能もあり、年間30 ~ 50本の講座が計画されている。受講後は「否定しないフィードバック」を基本とする振返りを実施し、安心して意見交換できる環境が形成されている。
メンタル支援を行ったことで、従業員の定着が進み、安定した職場環境が築かれた。こうして改善を推進できる文化的な土壌を育むことで、人と職場の両方が成長する体制が整いつつある。杉本工場長は「導入効果を時間削減だけで終わらせない」とし、本来の目的の1 つである品質向上のため、浮いたリソースは品質や衛生管理のプロジェクトに再投資し、厳格な品質基準を求められる市場にも対応できる体制づくりを目指している。