工場管理 連載「リーダーに捧ぐZ世代の新人育成バイブル」
2025.04.10
第10 回 作業標準書のポイントはノウハウの洗い出し
ジェムコ日本経営 古谷賢一
ふるたに けんいち:本部長コンサルタント、MBA。経営管理、人材育成から、品質改善支援、ものづくり革新支援など幅広い分野に従事し、地に足がついた活動をモットーに現場に密着。きめ細かい実践指導は国内外の顧客から高い評価を得ている。“工場力強化の達人”とも呼ばれている。おもな著書は『まんがでわかるサプライチェーン 知っておくべき調達・生産・販売の流れ』(日刊工業新聞社)。
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「Z 世代」の新入社員に対する教育で、重要な役割を果たすのが作業標準書だ。基本的な知識や、基本的な作業のスキルが備わっていない新入社員に対しては、まず難易度の低い初級作業から教育を始めることになる。しかし、初級作業だからといって、作業標準書をつくるのが簡単とは限らない。確かに、指示をすればすぐにわかり、そして、すぐに作業ができるようになる簡単な作業もあるだろう。しかし、それは例外的なものであり、初級作業といえども、多くの場合は作業上のポイントや注意点が存在している。
「部品を持つ」といった単純な動作ですら、どのように持つべきか、何らかの注意点がある。持ち方が不適切であれば、作業者がケガをする、部品を損傷する、あるいは正しい作業ができないなどのトラブルが起こるからだ。
作業標準書を作成することとは、現場のベテラン作業者たちが持っている経験などのノウハウを正しく洗い出し、経験の浅い人でもわかるように形式知化(言葉で説明できる)することなのだ。
書かれたとおりに作業ができること
作業標準書とは、安全や品質を確保しつつ、適切な作業を「バラツキ」なく作業できるために、具体的なやり方を規定したものだ。したがって、この作業標準書の本来の役割を果たすためには、作業標準書に具体的な作業のやり方だけでなく、押さえておくべきポイントや注意点が明瞭な形で説明されていることが必要となる。
特に、新入社員への教育では、作業標準書を読む対象者は、基本知識などの最低限の基礎教育を施されただけの状態である。それゆえに、望ましい作業標準書は、相手が初心者であっても、書かれている内容を理解できること、そして、そこに書かれたことを文字どおり書かれたとおりに作業をすれば、安全と品質を確保された適切な作業が実行可能になっていることが求められる。
作業標準書を作成する人はさまざまな知識や経験を持ったベテラン作業者であり、作業標準書を使って教育を受ける人は、知識や経験を持たない新入社員だ。ベテラン作業者は、作業標準書に書かれていないことがあっても、持っている知識や経験があるので適切な作業をすることができるが、新入社員にはそのような知識や経験がない。この違いを常に意識して、作業標準書には必要なことをすべて書くことを心がけなくてはならない。
作業を動作レベルで観察してみる
作業に含まれるさまざまな作業上のポイントや注意点を洗い出すためには、その作業を動作レベルで観察することが有効だ。動作レベルでの観察とは、手をどう動かすか、視線はどこを見ているのか、姿勢はどうなのか、といった作業者の動作をつぶさに観察することを意味する。
たとえば、「設備のダイヤルを回して、指定の位置にセットする」といった単純な作業を考えてみよう。この場合、「メモリを30 にセットする」という指示だけでは、不十分かもしれない。「ダイヤルを一定のスピードでゆっくり回して30 にセットする」のか、「ダイヤルを一気に回して30 にセットする」のか、あるいは「ダイヤルを25 位までは一気に回して、そこからゆっくりとダイヤルを回して30 にセットする」のか、さまざまなやり方が考えられるからだ。やり方を間違えると、品質トラブルを引き起こす可能性がある(図1)。
このように、ダイヤルを回すだけの単純な作業でも、その背後には設備をうまく動かすための作業上のポイントがある。これらはすべてベテラン作業者の知識や経験に根ざしたものであり、これらを適切に作業標準書に織り込むことで、新入社員でも正しい作業ができるようになるのだ。
なぜそのような動作をするのか理由を問う
ベテラン作業者の動作には、必ず意味がある。人がどのように動くのか、何を見ながら何をするのか、それぞれの動作は、安全や品質を確保しつつ適切な作業を行うために必要なことであり、過去の知識や経験から形づくられたものだ。
しかし、ベテラン作業者など、すでにその作業を習得している人の中には、その動作を無意識に行っている人もいる。作業中の動作はベテラン作業者が経験を積み上げることで体得したもので、作業を理屈で理解しているわけではないからだ。そこで、作業を動作レベルでつぶさに観察をして、「なぜ、その持ち方をするのか」「なぜ、途中で設備をチラ見するのか」、あるいは「なぜ、すき間が1mm 以下と判断できるのか」といった問いかけをすることで、作業者自身も無意識に行っている動作の理由を洗い出すのだ(図2)。
「部品A の所定個所に、部品B を挿入する」といった作業を考えてみると、部品A をどのように固定するのか、部品B をどのように持つのか、そして、どのような動作で部品B を部品A に挿入するのか、実際の動作を観察してみることで、どうすれば作業がしやすいのか、といった理由が見えてくる。
このような動作の理由こそが、ベテラン作業者のもつノウハウにほかならない。このノウハウが、作業上のポイントや注意点となるので、これをしっかりと洗い出して、新入社員にもわかりやすいような表現で作業標準書に記載をするということが大切なのだ。
次回までの振り返り
新入社員に教えるべき初級作業を選び、実際の作業を観察して欲しい。手足をどう動かしているのか、視線はどこを見ているのか、身体の姿勢はどうなのか、といった動作を明らかにするのだ。作業をビデオに撮って後で詳細を観察してもよい。そして、ベテラン作業者の動作の理由を問いかけ、そこに隠れているベテラン作業者の経験則を洗い出してみよう。
今月の検討課題
・新入社員に教えるべき初級作業を選び、実際の作業をつぶさに観察して、動作を明らかにする。
・ベテラン作業者に、動作の理由を問いかけ、そこに隠れているベテラン作業者の経験則を洗い出す。