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工場管理 連載「リーダーに捧ぐZ世代の新人育成バイブル」

2025.04.24

第11回 作業標準書を読めば作業の意味がわかるようにする

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ジェムコ日本経営 古谷賢一

ふるたに けんいち:本部長コンサルタント、MBA。経営管理、人材育成から、品質改善支援、ものづくり革新支援など幅広い分野に従事し、地に足がついた活動をモットーに現場に密着。きめ細かい実践指導は国内外の顧客から高い評価を得ている。“工場力強化の達人”とも呼ばれている。おもな著書は『まんがでわかるサプライチェーン 知っておくべき調達・生産・販売の流れ』(日刊工業新聞社)。
https://www.jemco.co.jp

 「Z 世代」の若者たちの間では、タイムパフォーマンス(略してタイパ)と呼ばれる言葉が使われている。時間を効率よく使いたいという良い考え方だが、先輩たちにとっては頭の痛い考え方でもある。たとえば、昔のように地道な下積みをしながら先輩の背中を見て仕事を覚えるようなやり方は、極めてタイパが悪いと考えるからだ。

 ただし、「Z 世代」の若者が怠惰な性格なわけではない。自分がする仕事の意味や必要性など、物事の意味や価値を大切にし、納得のいかないことには時間を割きたくないと考えるのだ。たとえば、仕事の意味を教えずに作業をやらせることや、一見して非効率と思われるようなやり方を頭ごなしに押しつけると、「Z 世代」の新入社員には極めて「タイパ」の悪いことと受け取られる。

 そのため、作業標準書を役に立つものに仕上げるためには、「Z 世代」の新入社員が理解し納得できるように、具体的な作業のやり方を作業の意味を含めて示すことが重要だ。

教える側の論理ではなく、教わる側の論理で考える

 知識も技能も備わっていない新入社員に対して、読んでもよくわからない作業標準書で教育をしている企業は少なくない。「わかる人にはわかるが、わからない人にはまったくわからない」といった教える側の視点に偏った残念な作業標準書が、新入社員の作業教育に使われるとどうなるだろうか。ベテラン作業者が新入社員に投げかける言葉の定番パターンは、わからないことは「質問せよ」、あるいは「自分で調べろ」、そして、言われたとおりに「やればよい」といったところだ。

 これらはすべて、「Z 世代」の新入社員からみると「なぜ教えてくれないのか」といった不満に直結する。「教えてくれたほうが早いのに(早く作業が覚えられるのに)」と、教えてくれないことへの疑問を持つことも、タイパを重視する新入社員にとっては無理もない話だ(図1)。
図1 教える側の視点から教わる側の視点へ

図1 教える側の視点から教わる側の視点へ

 筆者も、「新入社員のうちは苦労が大切だ」という考え方の時代に育ったので、ムダな努力にも価値はあることは否定するつもりはない。しかし、時代が変わり、新入社員の確保が困難になる現状を直視すると、教わる側に一方的な努力を強いるのではなく、教える側も考え方を改めることが必要なのだ。冷静に考えれば、不必要に教育時間を長引かせて冗長な教育コストをかけることは、実は企業にとっても決して好ましい話ではない。

文字どおりに作業ができるのかを考える

 「Z 世代」の新入社員が、作業標準書を読んで 「これならばわかる」と納得できる内容に仕上げるために、作業上の注意点やコツを洗い出すことは意外と難しいものだ。作業の動作をつぶさに観察して、動作の理由などをベテラン作業者に問いかけてみる手法は有効なやり方だが、動作を観察するだけではうまく注意点やコツが洗い出せないこともある。ベテラン作業者ほど、長年の経験によって「体で作業を覚えている」ために、何が注意点なのか、何がコツなのか聞かれても、答えに窮してしまうこともあるからだ。

 こういった場合には、作業上の注意点やコツを洗い出すために、ベテラン作業者が「体得」している知識を、周囲の人たちが引き出す工夫も必要だ。その手段として「今わかっている作業手順、作業上の注意点、コツ」などを書き出すことをお勧めする。そして、経験や知識に基づいた余計な解釈を一切せずに、文字どおり、書かれたことだけをやってみるのだ。もし、書かれたどおりにするだけでは作業ができないことがわかれば、まだ洗い出しができていない作業上の注意点やコツが存在するということだ。

できるだけ多くの視点で議論する

 本当に役に立つ作業標準書をつくるためには、ベテラン作業者の1 人の意見だけではなく、複数のベテラン作業者、そして新人作業者を教育する立場にある複数の先輩たちが協力し合うことも重要だ(図2)。
図2 できるだけ多くの視点を盛り込む

図2 できるだけ多くの視点を盛り込む

 複数のベテラン作業者の作業を分析すると、複数の流儀流派が存在していることが珍しくない。ある工場では、「ベテランA さんと一緒に作業をするには、A さん流の作業方法でやる。ベテランB さんと一緒に作業をするには、B さん流の作業方法でやる。そうしないと、A さんからもB さんからも叱られる」と若手作業者が愚痴をこぼす場面に遭遇したことがある。このような事態を回避するためにも、複数いるベテラン作業者のそれぞれの作業を調査することが必要なのだ。

 また、現場の作業に関わるノウハウは、過去の経験に依存したものだ。先輩方が複数いる場合は、それぞれに異なる経験を持っているために、作業上の注意点など、それぞれに異なる視点を持っていることがある。

 設備A に詳しい人、工程B の作業に詳しい人、顧客との品質交渉に詳しい人など、工場にいる多くの人たちが、それぞれ異なる知識や経験を持っているならば、良い作業標準書をつくるためのポイントは、そういった人たちが集まって内容を議論することになる。そうしないと、社内にある貴重な知識や経験を活用できないので、過去に経験したトラブルの再発を引き起こしかねない。作業標準書とは、その工場の持てる知識や経験の集まりであることを強く認識しておくべきだ。

次回までの振り返り

 新入社員に教育をすべき初級作業を選び、まずは作業の手順を書き出して、それぞれの作業における作業上の注意点やコツなどを書き加えて欲しい。そして、文字どおり、書かれた内容どおりに作業をしつつ、書かれた文言だけではうまくできない個所を洗い出してみよう。また作業標準書は、スタンプラリーではなく、関係する人たちが集まって内容の是非を議論して欲しい。
今月の検討課題
・ 新入社員に教えるべき初級作業を選び、作業の手順、そして思いつく限りの、作業上の注意点やコツを書き出す。
・ 書かれたとおりに作業をしてみて、うまくできない個所を洗い出し、内容をさらに教わる側の立場で再検討する。

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